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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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221話「心には行き届かない栄養」

寝息が聞こえ、アイマスク代わりに瞼に置いたおしぼりをそっと退けても珍しくガーネは目を覚さなかった。

普段であれば、部屋で仮眠を取ることは確かにあるが、熟睡することなど絶対にない。ちょっとした物音でも起きるし、寝息を立てているようで周囲の会話を聞いていたりもする。相当に眠りが浅い生活をしていることは日々見ていてわかってはいるが、かなり深く寝入っていそうな様子にラズリは眉を寄せた。

「…珍しくぐっすり。相当、身体が限界だったみたいね」

「ラズリちゃん、睡眠薬とか混ぜてるの?」

「入れてないわよ。水分と糖分と栄養」

ラズリは自席に座り、すっかり冷めた雑炊を一口食んだ。

「……ごめん、こんなに病んでると思わなかった」

ぽつりと小さく、ラズリが謝罪の言葉を漏らした。

「…先輩のせいじゃない。私も…変なのは気付いてたけど、わからなかった」

「ですが、ガーネ様ご自身がご自分で調子が悪いのを自覚なさっていないんですもの。わたくしたちでも…正直どうにも出来ませんわ」

スメイラとカルセが溜息混じりに呟き、ソファの背もたれに深く寄りかかって眠るガーネの顔を少し遠巻きに眺めた。

「…内々示、って…言ってたわね。やっぱり辞令になにかあるわね」

「でもさ、正式辞令ってもう明後日でしょ。どうにかなる?」

アメジとサイフィルも、ガーネの悩みの現況をどうにかしようと無理矢理知恵を絞ろうとするも、根本解決には到底至る内容ではない。

「…こればっかりは、どうしようもありませんわ」

「カルセちゃん、高位職者じゃん。辞令のこと聞いてないの?」

「わたくしも確かに、高位職者の区分にはございますが…ガーネ様とは職種が異なりますし、前にもお伝えしたかと思いますが、わたくしよりもガーネ様の方が立場はずっと上の方でしてよ」

「…スメイラさんは?こないだ、ガーネに呼ばれてたでしょ」

「…呼ばれたけど、私の辞令自体もちゃんとは聞けてない。『俺の辞令にも関わるから、論功式で正式な話を聞け』って言われて」

「ラズリちゃんは?」

「アタシはそもそも、そこまでの話してないわ」

そうして、静かにガーネを振り返って寝顔を眺めた。

静かに一定した呼吸に、深く寝入っていることを悟る。


「…こないだの、『役に立てたか』…かな。なにかトリガーになったんだと思う。更迭未遂、多分あの子の心の奥でずっと無理矢理蓋されてるのよ。なにせ自分の存在価値、そこにしかおけない生き方してるんだから」

「…と、なると…やっぱり左遷みたいな人事なのか、異動とか…『ガーネの役割を奪う』人事、ってことなのかな」

ラズリの言葉にサイフィルが珍しく核心をつくような考察をするものの、本人があれだけ口を閉ざす人事をまさか他の責任者が知っていたり漏らすはずもなく、その更に上となると直属はもはや側近ヘルソニアか女王しかいない。

「…論功式、あたしたちも覚悟決めて臨まなきゃ駄目ね」

アメジが真面目な顔で小さく呟き、全員が静かに頷いた。



約二時間後、丁度滴下が終わる頃合い。ラズリが輸液パックを確認しに近寄ると、ガーネの目が薄く開いた。

「……あれ…寝てた…?」

「寝てた。薬漬けにした時以来だったわ、あんなにぐっすり寝てたの」

ほんの二時間程度ではあるものの、何ヶ月か振りに熟睡したガーネは点滴の影響もあってか先ほどよりはかなり顔色が良くなっていた。とは言え、『いつも通り』では当然ない。

「果物、いくつか用意したけど…少し食べれる?」

「…ちょっとなら」

アメジがガーネに、籠に入ったりんごといちご、みかんを見せ首を傾げた。先程はまるで食べる気力がなかったガーネも、少し悩んでいちごを指さした。

「洗ってあるから、食べれる分だけ食べてちょうだい。必要だったらあたしが食べさせてあげる」

「それはいらん」

ラズリが点滴の針を抜き、処置をし終わってからいちごを一粒手に取り齧った。

ここまでなってガーネ自身もようやく、自分が思っていた以上に体調が悪かったのだと自覚した途端、余計に喉が狭まるようで、一粒食べただけで手が止まってしまった。

「ま、いいわ。食べれそうな時に、食べれる分だけ食べなさい」

ラズリが静かに言い聞かせ、腕を組んだ。

「明日の朝、アタシと医務室行くのと、アタシがアンタの部屋行くの…どっちがいい」

「え、なんで」

「点滴だよ」

「病人みたいじゃんどっちもやだよ」

「………」

ラズリの無言の圧で、「俺の部屋でお願いします」とガーネが小さく呟く。ラズリは肩を竦め、小さく溜息を漏らした。

「ガーネくん、エナちゃんにもバレてるからね。君がご飯食べてないことも、君が痩せたことも」

スメイラの言葉に、ガーネは意外そうな顔をして目を向けた。

「…なんでだよ。飯はまあ…うん、まあわかるけど」

「伊達にあの子も、侍女じゃないってこと。ガーネくんの着替え、シャツの皺の寄り方で気付いてるわ」

「……そうか」

「今は、みんな何も聞かない。どうせ、ガーネくん今は話さないでしょ。ちゃんと、話せるようになったら聞くからね」

「…お母さんかよ」

「君みたいな図体と態度のデカい子供は生んだ覚えがないって、前にも言ったはずだけどね」


そして翌日。

ラズリは宣言通り、早朝からガーネの私室を訪れた。

半ば無理矢理ではあるものの、点滴を刺して強制的に栄養を取らせた。

この日は、件の論功行賞式────論功式の、前日だった。

昼過ぎからは、会場の設営や準備が始まった。

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