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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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220話「『つもり』」

「座りな」

ラズリの声に、ガーネは大人しく座って細く息を吸い込んだ。

明らかに浅い呼吸にラズリはあからさまに目を細め、手の震えも見逃さなかった。ガーネの震えた手を掴み、冷ややかな目で見つめた。

「……なに、これ」

「…て、低血糖」

「アンタは医者か!そういう診断は医者であるアタシがするんだよ!!」

普段の怒号とは全く違うラズリの声に、カルセは思わずびくりと肩を竦めてガーネを不安そうに見つめた。


「食べれるのよね、ガーネ」

「食える、ちゃんと食ってる。…ちょっと、嫌いなものが続いたりとか……タイミング逃しただけだ」

「わかった。……カルセ、用意しな」

「…はい」

カルセは全員の机に、特別に用意させた同じ雑炊の入った器を並べる。ガーネはそれを一瞥し、何のつもりだと言わんばかりにラズリを見た。

「今晩はみんなでご飯食べましょ、ガーネ。食べれるのよね。タイミング逃したとかは言わせないわよ」

「いや、俺忙し、」

「スメイラに事前確認してんのよ。外遊関係の書類は今ので最後でしょ。しかもそれはアンタの手でスメイラに託した」

「……今日のこれは…ちょっと……ネギ」

「入れてないわよ」

「…なんか得体の知れない葉っぱ乗ってる」

「三つ葉だよ!避ければいいでしょ!」


ガーネはいよいよ持って逃げ道が無くなり、仕方がなくトレーに乗ったスプーンを持ち上げて一匙雑炊を掬う。

全員が見つめる中で、その一匙を口に運んで食んだ。


──── …あ、なんだ。食えるじゃん。

ガーネ自身も何故か安堵したように小さく息を漏らし、ゆっくりと喉を通過させる。

二口目を掬いそれも口に運び、ゆっくり咀嚼したところで全員が僅かに安心してラズリも座り直した。

ガーネを横目で見ながら全員同じ雑炊を食べ始めたが、明らかに三口目にガーネの手が進んでいない。スメイラがガーネに視線を向けると、手を震わせながらもう一口掬い無理矢理口に運ぶ姿が目に入る。

「…わるい、………食えない、吐きそ…」

真っ青な顔で口元を押さえたガーネを見て、ラズリが慌てて立ち上がり近くのゴミ箱を引っ掴んでガーネの口元に差し出した。ガーネは我慢しきれず思い切り咳き込んで噎せ返り、そのまま嘔吐した。

「……ッは…はぁ…うぐ…ッ」

「…っアンタ…なんでこんなに食べれなくなるまで言わないのよ…!」

ラズリの声が僅かに震えた。

「悪いけど、カルセたち。ちょっと片付け頼んで良い?すぐ戻る」


ラズリが周囲に目配せして部屋を出ると、入れ替わるようにカルセもガーネの傍に寄り、水を机に置いて背中を擦った。

「ガーネ様、いつからお食事取れてないんですの?」

「…わ、わかんね…食ってる、つもりだった」

「食えてねーじゃん!」

サイフィルがやや泣きそうな声で言うも、アメジに服を引っ張られて止められた。

「ガーネ様、果物なら食べれそう?あたし何か買って来ようか」

アメジが気を利かせて問いかけるも、ガーネは小さく首を振った。

「…悪い…今は食えない…」

「ガーネくん、人事の件?なに悩んでるの?」

スメイラが核心に触れようとするも、ガーネ自身がそれを言語化出来ていないために口ごもってしまい何も言えなくなった。


十数分後、戻って来たラズリは点滴スタンドと輸液パックやら一式を持って戻って来た。

「そこ、座りなさい」

顎でしゃくるようにソファを示し、ガーネは実際に吐いてしまったのもあり抗えずに大人しくソファに移動した。

「まずこれ。胃薬持って来たから飲みなさい」

点滴を用意しながらガーネに胃薬を手渡し、ガーネは渋々といった様子で口に含んで飲み込んだ。

そのまま有無を言わさずガーネのシャツの袖を捲り上げ、腕に触れて血管を探す。皮膚の下に血管を見つけると、その箇所に消毒を施してから点滴針を突き刺した。

逆血を確認し、針を固定して点滴の速度を調整した。

「……なにこれ」

「栄養剤!…ねえ、アンタ外遊中もアタシに胃薬くれって言ってたわよね。あの女の街ブラのワガママやら、辺境伯の謎の圧やらで胃痛してんのかと思って流しちゃったけど…ほんとはいつからおかしかったの。怒らないから正直に言いな」

「…わかんねぇ、俺は『普通』のつもりだった」

「その手が震えるのは、胃が痛いのはいつぐらいからなの?」

「………多分…警備責任者に、任じられたあと…だと思う…でも低血糖だと思ってた、すぐ治ったし…」

「ご飯は?いつから食べれてないの」

「…食べてる…つもり、だった」

「『つもり』はわかったから」

「……辞令の…内々示、受けたあと」

「……わかった。眠れてないんでしょ、寝なくてもいいから、点滴終わるまで静かにしてなさい」

ガーネが点滴の針の刺さった腕に目を落とすと、一瞬だけ息が詰まった。

「見なくて良い。目瞑りな」

ラズリは食事も水分も満足に取っていないために、血管が探しにくかった場合のことを考慮して用意しておいた温めたおしぼりをガーネの瞼に無理矢理乗せた。

ややしばらくして、ガーネは糸が切れたように小さく寝息を立て始めた。

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