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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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219話「言い訳」

「……ん?ガーネ、アンタ痩せた?」

「痩せてねーようるせーな」

地下牢から特務室へと戻る道すがら、廊下でガーネの後ろ姿を見たラズリはもう一つの違和感を覚えた。普段官服を羽織っているガーネの、シャツとパンツだけの後ろ姿が『普段と違う』感じがしてならなかった。

「ご飯食べてる?」

「食ってる」

「昨日何食べた?」

「昨日?……オムライス?あとりんご…だったっけ、忘れた」

「……そう」


怪訝そうにラズリの顔を見下ろし首を傾げるガーネだったが、明らかに顔色は良くない。

しかし、ラズリは思う。『この子は自分に対しての頓着が無さすぎる故に、自分で体調が悪い自覚を持っていないことが往々にしてある』と。

一言言ってやろうと口を開きかけるも、ガーネは廊下の途中で特務室ではない方向へと足を向けた。

「ちょ、どこ行くのよ」

「部屋。シャワー浴びて着替えて、陛下に尋問結果の報告」

ラズリはガーネの後ろ姿を改めて見つめ、拭いきれない違和感に眉を寄せて特務室へと入った。


その日もガーネは何かと理由をつけて部屋に戻らず、食事の件や体調の件を問い質すタイミングを逃して更に翌日になってしまった。

論功式、前々日のことである。

ガーネが再度警察署の方へ外遊時の駅前や道路封鎖の件の後処理などで外出した隙を見計らった様子で、特務室へガーネ付きの侍女・エナが訪ねてきた。

「お仕事中申し訳ございません」

「あれーっエナちゃん!今日も可愛いね!どうしたの?」

サイフィルがにこにこしながらエナを出迎えるも、他のメンバーはエナの表情からなにかを察したように顔を向けた。

「あの……ガーネ様、本日外出と伺っております。今しがた出たばかりでいらっしゃいますよね?」

「うん、出たばっかり。しばらく戻らないと思うけど……どうしたの?」

スメイラが、『ガーネに用事がある』のか『ガーネが不在である事を確認しに来たのか』のどちらなのかと確認するようにエナに声を掛けると、エナは一歩室内へと入り一同の顔を見回した。

「ガーネ様ご不在の間に、特務の皆様に…特に、ラズリ様にご相談が」

「……そこ、座んな」

ラズリが奥のソファを差し、エナは促されるままにソファへと腰を下ろした。

「どうしたの」

ラズリとスメイラが中心になってエナを見つめると、エナは眉尻を下げてしまった。

「…ガーネ様、特務の皆様とお食事は取られていらっしゃいますか?」

「え?……ううん、特には…」

「お食事、こちらでお出ししたものほとんど召し上がってらっしゃらないんです。お口にされるのもほとんど一口か二口程度で、果物や飲み物だけかろうじて食べてらっしゃる感じで……ほぼ手付かずで下げられるんです。着替えられたお召し物も、特にシャツの皺の入り方が…いつもと少し違った印象も受けまして……お聞きしても『食べてる』しか仰らないので、私不安で……一度、お倒れになってらっしゃるじゃないですか……もうあんなガーネ様見たくありません…!」


泣きそうに目を潤ませて訴えるエナを見て、ラズリは深く溜息を漏らした。

ガーネの『食ってる』は、確かに嘘では無い。自分も聞き方が悪かったと反省をした。


「……わかったエナ。今日は特務で責任持って、全員で見張ってご飯食べさせる。……現実も見せてやるわ、体重計用意しな」

「は、はい」

エナは慌てて立ち上がり、ラズリにカーテシーで頭を下げてからパタパタと部屋を出ていった。

「体重計、って……どういうこと?ラズリちゃん」

アメジの問いかけにラズリは腕を組んで据わった目つきで視線を返した。

「アタシ、昨日あのクソガキの後ろ姿見て『痩せた?ご飯食べてる?』って聞いたのよ。痩せてねーよって言ってたから、どれだけ痩せたのかあのタイプにはきちんと数字で見せつけて自覚持たせる必要がある。食事もここで、全員でとる。逃がさないためにね」

「……ですが、しばらくまともにお召し上がりになっていないのでしたら…おうどんとか雑炊ですとか、軽いものの方がよろしいでしょうか」

「そうね、カルセ手配しな」

「承知いたしました」



夕飯時より少し前に、ガーネは外出先の警察署から戻って来た。戻って来るなり封筒をばさりと雑にスメイラのデスクに投げ置いた。

「処理しといて」

「わかった」

それだけ伝えると、ガーネはまた部屋を出ようとした。

しかし、ラズリがそれを許さなかった。

「ガーネ、話がある」

「話?なに」

「まず装備外して。上着も脱いで」

「は?なんでだよ」

「いいから外しな」

「……」

意味が分からなそうな顔で、大人しく官服を脱いで装備を外した。

ネクタイとシャツとパンツだけの姿になり、腕を組んで怪訝そうな顔でラズリを見た。

一同が固唾を飲んで見守る中、ガーネは何を言われるのかと若干身構えつつラズリを見下ろした。

「……3キロ」

「は?」

「3キロは減ったね」

そう言ってラズリはガーネの腰を両手で掴んだ。

特別鍛えた訳ではないものの、職業筋肉で無駄は一切ない身体をしていたガーネはわりと腹囲は薄めではあったが、ラズリは以前手術をした時と同じ程度の削げ方をしていると触診で指摘する。

「減ってねーよ」

「いーや、減った。靴脱ぎな、そんでこれ乗りな」

エナに用意させた体重計をガーネの足元に置き、ラズリは睨むようにガーネを見上げた。

ガーネ自身、食べている『つもり』ではあったし、指摘されるほど痩せた『自覚』も無い。乗って満足するのなら、と靴を脱いで体重計に乗ると、ラズリの目論見通り数字として現実を突きつけられた。

「70kg。どういう事?アンタ、元々74でしょ。手術前にかなり減ってまだ戻りきっていないとはいえ、それでもアタシの見立てでは73くらいまでは体重戻ってたと思うけど。アタシにご飯食べてるって、嘘ついたの?」

「……食ってる」

「じゃあ昨日はなに食べたの」

「……えと……い、いちご」

「他は」

「…食ってない」

「なんで食べないのよ!」

「昨日は……えっと…あれだ、魚の骨取るの面倒くさくて」

「一昨日は?」

「……オムライスと…りんご」

「オムライスどのくらい食べた?」

「…一口」

「なんで一口でやめたの」

「……え……た、卵が…なんかあの…ほら、薄焼きのやつが良かったのに、違ったから」


そこまで聞いてラズリは盛大な溜息を漏らして頭を抱えた。

ガーネのよくわからない『食べない言い訳』に、何をどうしていいかわからなくなったからである。


ガーネ自身も、我ながらよくわからない理由を並べている自覚はあった。

それを自覚した瞬間、意図せず手が震え、息の吸い方がわからなくなり胸元を押さえた。

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