218話「特務の憂鬱」
「…論功行賞式典?って、なに?」
「あたしに聞く?」
封筒の中身を確認したサイフィルとアメジがお互いに席で首を傾げ合う。
「ね、ラズリちゃん論功行賞式ってなに」
「……端的に言えば、手柄とか成果とかを褒める会みたいなもんよ」
ラズリが『そんな事も知らんのか』と言わんばかりの呆れた目で男子2人を見やり、肩を竦める。
同じように、ラズリもスメイラもカルセも中身を確認して全員小さく溜息を漏らした。
十中八九、ガーネの様子がおかしいのは『これ』のせいである。
そこまではわかっているのに、誰も口に出せずにいた。
しかし、スメイラが相当思い悩んだ顔で、小さく呟いた。
「……あの、ね…人事の話だから……ガーネくんには、言うなって言われてるんだけど…もしかしたら」
「…もしかしたら?」
「絶対、絶対に口にしちゃダメだよ。……今回の外遊、近衛長…『騎士候補』の最終査定、兼ねてたらしくて」
「…………騎士?」
「……もしかして、近衛長が騎士にご内定されて、ガーネ様落ち込んでいらっしゃるんでしょうか」
カルセがスメイラの言わんとしていることを拾って解釈しながら、眉尻を下げて口を開き、ラズリも腕を組んで小さく唸った。
「……無きにしも非ずだとは思うけど、でもあの子『そういうところ』ってわりと切り分ける子じゃない。そもそも、『近衛長が近衛騎士の候補者』だなんて順当で当たり前だし、それでいてそんなに落ち込む?……いや、落ち込みそうな理由はなんとなくわからないでもないけどさ」
「え?落ち込みそうな理由って?」
サイフィルが不思議そうな顔でラズリを見遣り、女性陣とアメジから『マジかお前』という顔で目を向けられた。
「やだサイフィルちゃん、ほんとに言ってる?ガーネ様、自分でどこまで自覚あるのかはあたしもわかんないけど……どこからどう見ても陛下のこと好きじゃないの。やきもちよやきもち!」
「や、やきもちって言うとなんかちょっと軽い気もするけど」
スメイラが僅かに顔を引き攣らせてラズリに視線を向け、ラズリは未だ考え混んだように顎先に手を当てていた。
「……辞令、って…なにかしら。配置換え…とか…?さすがに更迭は有り得ないでしょ。……カルセ、アンタ帰りの馬車であの女と近衛長とご側近様と一緒だったんでしょ、何か話してた?」
ラズリが更迭騒動を思い返して少しだけ不安そうに眉を寄せてカルセを見た。今回ガーネは『怪我』をしている。しかし、今回の怪我はガーネが仕事の上で女王を守って出来た額の傷と、敵を退ける際に行使した盟約術での召喚の為の傷であり、さすがにそれが分からないほど女王も馬鹿では無いと思いたかった。しかし、前科がある、と不安が拭えず、記憶を辿るように黙ってしまったカルセを見つめた。
「…ええと……そうですわね、ガーネ様と『今度はちゃんと散策でもなんでも付き合うから』とお約束なさっていたので、王都でどちらに行きたいですとかそういう話しを……あとは…ガーネ様の戦い方をご覧になって近衛長、少し落ち込んでいらっしゃったので…陛下が『異界対策、均衡対策においてガーネ様と同列にご自身を置かれるな、良くやった』とお褒めになっていらっしゃいましたわ」
「……だってガーネくん、結局あの日序列3、序列無し全部で21?とか始末してるわけでしょ、あの短時間で。あの子と同じ土俵で張り合ってたら、全員降格だよ」
「…わかんないなぁ……ガーネが落ち込む理由の最有力は近衛長の騎士就任、かな。今のところ。でもガーネにも辞令は出るわけでしょ、そうなると可能性としては降格やら更迭やらはほぼ有り得ないと思いたいけど、それはそれとして配置換えか『警察に身分が戻るから女王の傍にいられなくなる』から落ち込んでる、とか?」
特務の中で話していても、正式な辞令を確認するまでは知る由は無い。答えの出ない不安と懸念に、いつかのように室内は暗く重く沈んだ。
翌日、もう1人の捕縛した教徒の意識が戻ったとの報を受け、いつものように地下牢へと収容させたガーネは医者としてラズリを同伴させた。
ラズリはそこで、ひとつの違和感を覚える。
「ガーネ!それ以上は死ぬ!」
「チッ…!さっさと治癒しろ!」
「…今日、どうしたのよ。いつもと違う容赦の無さしてるけど」
「どうもしねぇ」
明らかに苛立ち、明らかに焦った様子のガーネにラズリは視線を一瞬投げてから、致命傷に入りかけた傷を即席で治癒して命を繋ぐ。
医者であるラズリだが、正直医者のわりには人の生き死ににはさほど興味はない。死ぬ時は死ぬし、助けられる時は助けてもいい程度のスタンスで過ごしている。無論、だからといって無駄に死んでもらっても構わないと思うほど冷酷には生きていないが、均衡教徒においてはそこは別と考えてはいる。ただし、今日のガーネのやり方では喋るものも喋らないでそれこそ無駄に死んで終わりかねない。
苦言を呈そうかと思いつつも、皆まで言わずともガーネがそれを一番理解している顔をしているのを見て、ラズリは何も言わなかった。
無事に『とりあえず』命を繋いでからは、多少落ち着いた様子でいつも通りの尋問を再開し、先日捕縛した教徒の自白とほぼ同じ内容を吐いたのちにガーネに処断された。




