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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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217話「内示」

正式な『内示』を受けた翌日昼過ぎ、ガーネは自室での進まない仕事を切り上げて、封筒を一つ持って特務室へと向かった。

自室に持っていった書類はほぼ手を付けられていないが、急ぎのものではないため夜にでもやろうと諦めて部屋の扉を開けた。

しかし、いつも騒がしい室内がわかりやすくしんとしており、ガーネは違和感に視線を上げた。

全員が、ぎょっとした顔でガーネを見ていた。


「…え、…なに」

「なに、じゃなくて。なにその顔色」

スメイラが眉を寄せて問いかけた。

「どんな顔色してんだ俺」

「真っ青。具合悪い?」

「いや、…普通だと思う」

とは言ったものの、ガーネには心当たりしかなかった。顔にまで出ているのであれば隠しきれないかと、諦めたように小さく息を吐いた。

「…人事の件だ。正式辞令前だから、他言禁止。守れるか」

「うん」

全員が息を飲んでガーネを見つめた。

「…来週…俺に辞令が下る」

「………え?それ、どういう」

「それ以上は言わねぇ、詮索も禁止だ」

しかし、そこまで口にしてしまうといよいよ持って逃げ場を失ったような感覚になった。受諾した以上逃げるつもりもないし、誰かに譲るつもりも毛頭ない。ただ、言いようのない不安に似た何かが猛烈に体内に燻るような感覚に、気分が悪くなった。

「……スメイラ、お前だけ来い。話がある」

「え、はい」


ガーネは丁度良いタイミングかと、特務しつから少し離れた会議室に入り、椅子に腰を下ろした。

スメイラはいやに警戒した顔をしながらガーネを見つめ、おずおずと正面の席に腰を下ろした。

「部屋でも言ったが、人事の件は正式発令前は他言厳禁。いいな」

「わかってるわよ」

「お前にも辞令が出る。俺から内示だ」

「…え?私?」

ガーネは部屋から持って来た封筒を開き、スメイラの名前の書かれた封筒を取り出して差し出した。

「来週の論功式の案内。……昇進だ。おめでとう」

「待って待って、え?」

すっかり困惑した顔のスメイラに肩を竦め、ガーネは腕を組んだ。

「先日の外遊で、評価されたんだよお前は。正式な役職名は俺の人事の兼ね合いもあるから論功式当日に聞け、ただ昇進で役職はつく。その上で…まあ、正直『高位職者』の枠に入る訳じゃねぇが、特務の『責任者』としてお前には事前に一つ共有しておく。ラズリは今回昇進ではないが、肩書が追加になる」

「……ガーネくん、は」

「俺のは内緒だっつの。…ラズリの件は、これも本人開示前の正式辞令発令前だ。黙ってろよ。以上」

要件だけ伝えるとさっさと立ち上がってしまったガーネに、スメイラは言いようのない違和感を覚える。

いくら事務的な話とは言え、普段のガーネであればもう少し会話がある方だったが、笑いもしなければ声もいつも以上に低く、抑揚もなく、覇気もない。

スメイラは慌ててガーネの後ろを追いかけ、服の裾を摘んだ。

「なに」

「……なんでもない」


聞いたところで、どうせ何も言わない。特に人事や規律・戒律その類に関しては、元警察官なだけあって相当に厳格な男である。先の近衛長の騎士候補の噂の件も、釘を刺されて────…


スメイラはそこまで考え、一つの可能性に辿り着いてしまった。

ガーネから受け取った封筒をジャケットの内ポケットにしまい、連れ立って特務室へと戻った。


「次、ラズリ。来い」

「はぁい。ったく、横柄な呼び方」

スメイラと共に戻って来たガーネは、入れ替わりでラズリを呼び、また同じ会議室へと向かった。

先にガーネが腰を下ろし、ラズリにもスメイラ同様封筒から一通の論功式の案内通知を取り出して差し出した。

「…なにこれ」

着席したラズリはそれを受け取って、中を見る前にガーネに視線を向けた。

「お前に、辞令の内示」

「またアンタそんな、上司みたいな」

「一応上司なんだよ。ラズリに肩書が増える」

「え、めんどくさ」

「昇進の話じゃなくて悪いな」

「思ってもない癖に…えー、やなんだけど。何?」

「『王命付特務医 兼 特務巫術医官』。手当は増えるぞ」

「当たり前でしょ!…ていうか、今までとなにか変わるの?やること」

「巫術官としての権限は、俺の権限で付与する。あとは変わらん」

「そ」

そこまで聞いてラズリは封筒を開き、中を確認した。

中身は翌週に行われる論功行賞式、通称『論功式』の開催日時と場所、正装の指定と式後の慰労会の案内が記載されていた。

「その日に、正式発令だ」

「…りょーかい」

「話は以上だ、戻るぞ」

席を立ったガーネの後ろをついていくように、ラズリも立ち上がった。

「ガーネ、具合悪いならちゃんと言いな。前も言ったけど、言われなきゃどう具合悪いのかわかんないわよ」

「わかってるよ、ちょっと低血糖気味なだけだ」

「ほんとに?」

「嘘言ってどうすんだ、散々お前に全身どころか内臓まで舐めるように見られて今更」

ラズリの納得のいっていない視線を背中に感じながらガーネは特務室に戻り席につくと、盛大に深く溜息をついた。

疲労やそれに付随した何かが色濃く染み付いた溜息に、スメイラ筆頭に視線だけ控えめに投げられた。

席についてからガーネは再度封筒を開き、残り三通の案内状を取り出した。

「カルセ」

「はいガーネ様」

名前を呼ばれたカルセが立ち上がりガーネの元へ近寄り、封筒を受け取る。

「なんですの、これ」

「論功式の案内、お前は高位職者席。…サイフィルとアメジもついでに」

『ついで』扱いで呼ばれたサイフィルとアメジもガーネの傍に寄り、封筒を手渡されると小さく首を傾げた。

「全員、『正装』だからな。何度も言うけど『正装』だぞ、特にバカとゴリラ」

「あたしたちこの前だってちゃぁんと『正装』してたじゃない。ね?サイフィルちゃん」

「そうだよ、まごうことなき『正装』だよ」

「…………ハァー…スメイラ、あと頼む。出かける、直帰する」

「わかった…」

何度目かわからない深すぎる溜息を漏らし、ガーネは官服を脱いで部屋を出て行った。


「ね、やっぱガーネ変だよ…」

サイフィルが不安そうな顔で隣に立っていたアメジを見上げ、視線を受けたアメジも腕を組んで考えるように眉を寄せた。

スメイラも、少し思い悩んだような顔をして目を伏せてしまった。

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