22話「許可なき許可」
「ちょっと君、いい加減にしてよなんで私を巻き込むかな」
ガーネに腕を捕まれ半ば無理やり腕を捕まれ連行された女は恨みがましく訴える。
「なんで?決まってんだろ。俺は女王に許されてるからだ。それ以上はねぇ、文句なら女王に言え」
「……ハイハイ、…犬のお巡りサマ」
女はあからさまにガーネの手元を見て盛大な舌打ち混じりに返答した。
「で?私をこんなところまで連れ出して一体何させようってのかな」
「わかってる癖に」
ガーネが城を出て女を引き込んだ先は、まだ開館前の誰もいない大図書館。
その奥の一角────指定管理図書区域。
昨日と同じように指輪を魔法陣に翳し解錠する、女はその様子を見てガーネに伴って区域内に足を踏み入れた。
「察してはいるけど、この状況でここに来て何するの?『現場検証』でもするつもり?」
昨日認証拒否で立ち入りを許されなかった、指定管理図書区域の奥の本当の『禁書庫』の前で、ガーネは顎でしゃくるようにその強固な結界の施された魔法陣を示す。
「当たらずとも遠からず、かな。おい、お前ここ開けろ」
「えっらそうに。何様」
女は少し悩んだように魔法陣を見てから、警戒したような目でガーネの顔を見上げた。
「昨日も言ったけど、ここは私の意思で立ち入りが出来る場所じゃない」
「お前の意思は関係ない、俺がそうしろと言ってるんだ」
「…………」
「女王に何か言われたら、俺に脅されたとでも言えばいい」
「……知らないよ、私」
これ以上何か言い返したところでガーネは意見を変えないであろうことを察する。
女は諦めたような顔で両手を首の後ろに回し、首元に下がるダイヤのネックレスを外すとガーネに差し出す。
ガーネはネックレスを受け取ると、ネックレスの宝石を眺めた。自分のものとは少し違うが、扱いとしては女王の許可証に近い紋様が浮かび上がる。
「…やっぱりな」
それを確認すると何かを納得したように小さく呟き、ガーネは結界の魔法陣に女から預かったネックレスの宝石を翳した。
魔法陣が反応すると、鍵の開くような音が鳴り呆気なく扉が開いた。
「自由に立ち入り出来んじゃん」
「開けることが出来るのと入ることが許されるのは全然別なんだよ。君結構バカだよね」
「うるせーよバカ」
「………少なくとも君よりは頭はいいと思うけど?」
女の呆れと僅かな苛立ちを孕んだ物言いに多少かちんとしながらも「行くぞ」と促して禁書庫の中に足を踏み入れた。
コツコツと響く二人分の足音は、表の指定管理図書区域よりも重苦しく冷たい空気が漂い、内側から目張りされているせいかどこか暗く湿っぽいような感覚があった。
実際暗闇で湿気が多いというわけではないが、この空間のもたらす空気感が立ち入ったものにそう錯覚させるような、不安感を煽る独特な雰囲気に満ちていた。
点在するように明かりを灯すための魔法石が壁にぶら下がっており、ガーネはそれを手にして壁に軽く打ち付けるとぼんやりと周囲を照らしようやく言いようのない不安感に似た何かを多少和らげた。
「……お前、『均衡』について知ってるか」
「一応、『知らないことになっている』ことの一つだね」
目的のものを探す最中、無言がなんとなくいたたまれなくなった様子でガーネは女に声を掛ける。どうせ「君は本当に何も知らないね」や「君に話す必要性を感じない」などとあしらわれるかと思っていたところで、予想外の返答を受けてガーネは思わず足を止めて女の顔を見つめた。
「どこまで知ってる」
「……正直、どこまで知っちゃったのかはわからない。けど、私の口から言えるのは反女王勢力、…かな。君もお巡りさんなら聞いたことあるでしょ、……邪教」
ぼんやりと魔宝石の灯す明かりに照らされた女の顔は、いつもの飄々としたような様子にも見えなくはないが、薄暗いせいで元々読み取れない感情が一層不明瞭に見える。
そして少し考えるように頭の内側で女の『邪教』という言葉を反芻し、地域と担当的に管轄外のため何かの資料で見聞きした程度の記憶をひっくり返して返答を返した。
「まあ……たまに今回みたいな呪い騒動だとか、汽車の乗っ取り、魔法で地方の主要設備の破壊とかやってる集団だろ」
「そ。アレが『異端の均衡者』、反女王勢力。捕縛された男二人のローブに刺繍されてたマーク、覚えてる?」
「出来損ないの書き損じた丸みてーなやつだろ、たまに見る」
「アレが連中の『証』。一応警告するけど気を付ける事だね。まぁ、猪みたいなお巡りさんには無駄かもしれないけど」
最後に嫌味を挟まれ、無理矢理巻き込んだ腹いせかと勝手に納得しながらも女から聞かされた内容を整理する。
つまり、早朝暴れていた男達は例の『邪教』の人間で、古い呪いを女王に仕向けようとしたところでそれが暴発して自分たちが呪われた…ということだろうと判断する。
そして、ガーネの懸念と思惑が正しければ発動源はこの『禁書庫』にあると確信していた。それは男達を止めようとした時に目視したあの謎の淡い光。しかし今はその光は見当たらず、思っていたよりも広大な室内に再度周囲を見回した。
「なるほどな、因果関係についてはわかった。つーかここ外からの見た目より広くね」
「女王の霊力でここの物含めて建物ごと封印してるらしいからね、空間も歪むよ」
魔法やその他の力とは縁遠いため、あまりのその力のスケールの大きさに「そういうものか」と無理矢理納得しながら改めて女を見据える。




