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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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213話「怖い人」

ヘルソニアの執務室に呼ばれた衛兵長は、促されたソファの上で驚いて一瞬言葉を飲み込んだ。

「…え、昇格ですか。まじですか。『衛兵総監』?へぇ……え、俺がですか」

「そうだ、其方の此度の働きを評価してのものだ。其方の民衆誘導の指揮・混乱下での衛兵統率・王都帰還後の初動連携は十分評価に値する」

「民を守り抜いたのはお前の手腕じゃ。死者0、よくやった」

「いやぁ、嫁さん喜びますわ。ははは、ありがとうございます」

「正式辞令は、半月後の論功式にて発令する。…その時に、其方の『知りたいこと』も知れるだろう」

「…ヘルソニア様には敵いませんね、お見通しですか」

「本人はまだ知らん。ついでに、其方も人事の扱いに関しては承知だろうから口うるさいことは言うつもりはない」

「半月後、楽しみにしています。謹んで新たな役職の任、お受けいたします」


衛兵長は恭しく頭を下げ、数刻前の近衛長と同じようにヘルソニアの執務室を出た。

「まさか俺まで評価してくれるとはね…」

純粋に驚いた様子で小さく呟きながら、衛兵詰所へと戻っていく。入れ替わるように女王付きの侍従がヘルソニアの執務室の扉をノックし入室するのを少し遠巻きに見て、衛兵長は小さく笑みを浮かべて肩を竦めた。


「お呼びでしょうか、陛下」

「うむ。ガーネを呼べ」

「かしこまりました、お待ちくださいませ」

侍従が下がったのを見てディアマントはソファで足を組み直し紅茶を飲んだ。

「珍しいですね、『直接』呼ばないなんて」

「呼んでおるのだが、反応がない。…まあ、構わぬ。『こういう時』くらいきちんと呼んでやろう」

しかし、いつまで経ってもガーネは来ず、侍従すら戻って来ない。

数十分以上経過し、やっと扉がノックされヘルソニアが入室を促すと、眉を下げた侍従が申し訳無さそうに入ってきた。

「どうした」

「それがその…統裁官殿、捕まりません」

「どこにおる」

「特務で聞いたところ、先日捕縛した教徒の1名が意識が戻ったとのことで…『尋問中』だそうです。人払いをしているようで地下牢にも行けずでして」

「ふむ、『拷問中』か。ならば仕方がない、あの男が手を下しているのならば半日も持たぬであろう。特務に、『終わり次第シャワーを浴びて来い』と言付けよ」

「かしこまりました、陛下」



*****



「ガーネ、意識飛ばしてる」

「わかってるっての。さすが、そこそこ訓練は受けてるか」

式典当日に襲撃をした際にガーネに膝と肩を撃ち抜かれた中衛にいた教徒は、ガーネの『尋問』に耐えられずに何度目かの失神をした。

ガーネは容赦無く固定した椅子を蹴り飛ばし、衝撃でうっすらと意識を取り戻した教徒の髪を鷲掴みにして引き起こした。

「寝るのは早ェぞ、俺はそれを許可していない」

「…ッ」

「もう一度言う、そこに連れて来てる女は医者だ。それも国の中でもトップクラスの、な。さっさと喋れば医者に見せてやるぞ。お前らの上の連中が施した自壊術式も剥がされて、代わりに俺らによって自殺防止の術式を埋め込まれてんだ。死ぬに死ねないだろ」

「何も、…話すつもりは…ない」

「つもりがあるかどうかなんか聞いてねぇんだよ。『話せ』って俺が命令してるんだ。もう少し喋りたくなるようにしてやろうか?」

「偽りの…均衡の、番犬風情が…ッぐ…!」

「お前らのせいで、外遊の後処理の仕事が増えまくってるんだ。俺は忙しい。お前らごときにかける時間は一分一秒でも惜しい。暇なら別に、爪一枚ずつ剥がすでも指一本ずつ砕くでも全然付き合うんだけどな」

ガーネは手にしたナイフで教徒の目元に刃先を押し当て、眼球を抉るか潰すかを示唆するように少しずつ力を込めていく。

「目と耳、どっちがいい?別に喋るには支障ないだろ?」

教徒の目に映るガーネは確かに笑っていて、明確な言いようのない恐怖に次第に呼吸が荒くなる。

「心配すんな、いきなり目ん玉どうにかしねぇよ。『勿体ない』だろ。瞼からだ」

この男は『それをする』と理解した瞬間、たまりかねて教徒は口を開いた。

「い、偽りの…ッ均衡の!小娘が…『城の外では使い物にならない』と…上から言われた!!」

ガーネは紡がれた言葉を聞き目を細めると、ナイフをしまい左肩のホルスターにしまった銃に手を掛けて男の鎖骨に押し当てた。

「ほう、『上』ねぇ?…それは『序列上位』の連中か」

「そ、そうだ…今回、派遣されたオレらは…序列は与えられてはいるが、下位だ…詳しいことは…多くは聞かされていない…!」

「他は」

「万が一、オレらが失敗した時には『助け』に来ると!!」

「他」

「とにかく統裁官さえ潰せ、殺せと…!!貴様さえどうにかすれば、女王も御すことは易いと!それであの編成だ!!あとは聞かされていない、序列上位以上しか『機密』は知らない!!本当だ!!!」

「あっそ、ご苦労さん」

それ以上は喋るものがないと判断したガーネは、時間の無駄と判断して即刻始末した。鎖骨に押し当てていた銃口を眉間に宛行い直し、躊躇も遠慮も無く引き金を引いた。

「…『医者に見せる』んじゃなかったの?」

「医者?見てただろ、そこで」

「そうですねー統裁官閣下」

「ラズリ、戻るぞ」

「はーい」

地下牢入口前で人払いのために立たせていた衛兵に「始末した、処理しとけ」と短く命令をし、ガーネとラズリは特務室へと戻って行った。


「…ラズリ、一個だけお前に口止めしておくが」

「どれのこと」

「『城外で使い物にならない』ってやつだ。意味も詮索するな」

「…了解」

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