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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十四章『外遊』

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211話「帰還」

事前にサイフィルが確認したのは少し先のポイントに4人、後ろと横から2人ずつの均衡教徒。合計8人と確認し、横から迫る騎馬の教徒の攻撃が届く前に容赦無く剣を振るう。

近衛長は、先程の式典会場ではまともに見る余裕もなかったガーネの戦い方を改めて確認し、小さく息を飲んだ。

あっという間に一人を制圧し、薙ぎ払い、次の一人も喉元を一撃で突いた。


捕縛者の回収もしくは口封じをするよりも先にガーネを潰すほうが先決かと判断したらしい後方の教徒が馬の速度を上げて追いかけて来ると、ガーネは煩わしそうに舌打ちを漏らした。

「おい統裁官!そこのお飾り女王と共に死ね!」

「あ!?舐めてんのか雑魚風情が!」

「ハッ、あんな女王、可愛い顔してりゃ国が回ると思ってんのか?偽りの均衡者が、泣かせりゃすぐ折れるだろ!」

いつも通り、自分は散々女王の悪口は言う割に、自分以外の人間が彼女の悪口を言うと途端に目が据わる。剣を構え直すと容赦無く『致命傷にはならない箇所』を斬りつける。

「俺の可愛い女王に対して舐めてんのか不敬だろうが!殺すぞ!」

お決まりの台詞を吐いてから、斬られたことで落馬しそうになる教徒に対し再度剣を振り下ろして首元の頸動脈を深く切りつけ、分が悪いと判断したらしいもう一人の教徒に対し手綱を握った左手で銃を引き抜き発砲した。

喉元に銃弾が命中し落馬したのを確認してから、ガーネは剣を鞘に納め銃を右手に持ち直した。

手綱を短く握り直し、馬に合図を送り速度を上げる。あっという間に車列を追い越し、潜伏しているポイントにたどり着くと、馬車が来る前にと引き金を引いた。

女王の乗っている馬車の中からも、四発分の銃声が聞こえた。

ややあってから、ガーネが戻ってくるのが見えたが、ディアマントの乗車した馬車の横を通過し後方へと行ってしまい、彼女は窓越しにガーネの姿を追った。


「全部始末した、死体拾ってくれ。死体は毒とか術式保有の可能性もある、念のため口の中まで確認を。数は全部で8」

「了解」

衛兵長にその指示をし、ガーネは再び速度を上げ、女王の馬車を追い越し前方の特務の馬車の窓を叩いた。

「お疲れ様ガーネ」

「サイフィル、念のため索敵は継続しろ。汽車に乗るまでは気を張っておけ」

「…ガーネ、目ェやばいよ」

「今茶化すな、余裕ない」

完全に気を張り据わり切った目をしており、サイフィルは苦笑いをした。

「なにか異変あれば合図する。女王様の横にいる?」

「一応な」


女王の馬車内で、近衛長が静かに口を開いた。

「…聖女様」

「なんでしょう近衛長」

「…ガーネ…統裁官は、いつもあのような戦い方を?」

「……あのような、と申しますと…『無駄がない』という意味合いでしょうか」

「はい」

「そうですわね。…聖女の立場のわたくしが言うのも少しおかしいかもしれませんが、基本は的確に…急所を一撃で。なので、ガーネ様が出陣されますと基本は5分未満で全て片付きますわ」

「…私の剣とは、違う」

その言葉を聞き、ディアマントは肩を竦めた。

「近衛長よ」

「…はい、陛下」

「妾は、お前はよくやったと思うぞ。ただ、対均衡に関してガーネと同列に思うな。お前もガーネの『生まれ』は知っておるのだろう。それだけではないが、妾があの男に異界対策の長をやらせているのは理由がある。アレ以上の均衡に対しての適任はおらぬ。アレとお前とでは、守備の土俵がそもそも異なる。その中でもお前は均衡を二匹伏せさせたのは、大したものだ」

「…あ、ありがとう…ございます」

わかりやすく落ち込んだ顔をした近衛長が、わかりやすく浮上した。ヘルソニアはそれを見て小さく笑みを浮かべ、ディアマントの乗る馬車に並走するようにいつの間にか戻って来ていたガーネを窓越しに見つめた。


ようやく駅に到着し、点検を済ませてから馬車へと乗り込む。

汽車に乗り込んでしまえば多少は安心とは言え、警戒を解くつもりのないガーネは連結車両と特務乗車の車両を何度も行き来して過ごした。

数時間後、王都に到着し再度馬車に乗り込み、王城へと辿り着いたのは21時を過ぎた頃であった。


予定よりも半日以上早い強行軍の帰還に、先触れを出していたとは言えさすがに城側もバタついていた。

しかし、城にさえ入ってしまえば女王は絶対安全領域に置ける。

ガーネは特務の人員と共に周辺の最終安全確認をしてから、馬車の扉を開いて女王を下ろした。

近衛長とヘルソニアと共に城の中に誘導し、城内で待機していた侍従にディアマントを引き渡した。

「お帰りなさいませ陛下、ご無事で何より…きゃ、陛下、お怪我は…!?」

ディアマントのロイヤルブルーのドレスに垂れた、少し赤黒く滲んだ明らかな血痕を見て侍従と女官は悲鳴を上げた。

「妾は無事じゃ」

「ええ、陛下は傷一つ負っていませんよ」

ディアマントとヘルソニアの言葉に安心したように息を漏らし、部屋へと案内するように声をかけるが、ディアマントは動かなかった。

「まだじゃ。まだ終わっておらぬ」

ディアマントは入口で警備で立つ近衛長の少し後ろで、帰還直後の後始末に走る臣下の姿を眺めた。


「ガーネ!捕縛したコイツらどうする!?」

「後で俺が尋問する、自壊術式剥がしてあるんだろうな」

「大丈夫!」

「宮廷医に引き渡せ、治療は最低限死なせない程度でいい。死体検分も宮廷医と魔導師に任せる」

「了解!」

「衛兵長、後で一般人の被害状況報告と衛兵の怪我人報告ください」

「おう」

「スメイラ、各所の報告来たら取りまとめろ」

「わかった!」


30分程度してディアマントは粗方の初動が落ち着き始めたのを見計らい、まだせわしなく動く臣下の前に立った。

それを見て近くにいた者は手と足を止め、静かに敬礼をした。

ガーネも少し遠くの方で、同じように敬礼をしていた。

「楽にして良い。…皆、よく戻った。まずは負傷者を優先せよ。仔細は明日以降、追って確認しよう。大義であった」

それだけ伝えると、ディアマントは他の臣下の仕事の手をこれ以上止めないようにさっさと踵を返した。最後に少しだけ振り返ると、ガーネと視線が絡む。

そのままヘルソニアと共に自室へと戻っていくディアマントの姿を確認し、ガーネはようやく小さく息を漏らした。


最低限の調整や引き継ぎは出来ている。

そこまで確認し、ガーネは近くの人員を集めた。

「今日は休めるやつは休め。残るやつは各部署ごと上長指示に従え。明日出来ることは明日やれ。以上。特務は最後、部屋集合」

ガーネの締めで各部署に引き継げる案件は手渡し、特務一同は特務室へと戻った。


たったの2日なのに、妙に懐かしく感じる室内に一同は深く息を漏らした。ガーネが雑に上着を脱いで椅子に腰を落とし、ネクタイを緩めて目を伏せた。

「……疲れた」

「お疲れ様」

「お前らも、今日は全員よくやった。全員怪我はしてないか」

「なんとかね」

「なら、俺は一安心だよ。…とは言えこれで終わりではないからな、明日以降も後処理やら諸々ある。お前らも今日はさっさと休め…と、言いたいところだが…ラズリだけ一個頼みがある」

「なに?」

「疲れてるとこ悪いんだが、手を縫って欲しい。深く切りすぎた」

「……今日はちゃんと自己申告して偉いわね。準備だけしてくるから待ってなさい」

ガーネは申し訳程度に自分でハンカチを巻き付けた左手を見せる。白かったハンカチは真っ赤に染まっており、ラズリはそれを見て肩を竦めて返答した。


手のついでに額の怪我の処置もしてもらい、ようやく一息ついた頃にはすっかり深夜になっていた。

特務を全員下がらせ、ガーネも自分のシャツの返り血や汚れにさすがに部屋に引っ込もうかと思ったタイミングで、図ったように『呼ばれた』気配を感じる。

「…今かよ」

自分の出で立ちはさておいたとしても、これ以上遅い時間になっては彼女も休むに休めないかと、報告だけだろうと立ち上がり女王の執務室へと向かう。

ノックをする前に「入れ」と声がかかり、ガーネ自身も『帰ってきたな』とどことなく安堵に似た何かを感じ、ドアを開けた。

「失礼いたします、このような姿のまま申し訳ございません。お呼びでしょうか」

湯浴みを終えすっかり整えられ、ソファに腰を下ろしたディアマントに向かいガーネは一礼した。

「ガーネよ。此度の外交の警備責任者、ご苦労であった」

「は、ありがとうございます」

「怪我の具合は」

「問題ありません、ラズリに処置させております」

ディアマントはそれを聞き、ソファから立ち上がってガーネの傍に歩み寄った。

華奢な手を伸ばして、ガーネの額にそっと触れる。

「…妾を守って、怪我をしたのじゃな」

「はは、これは名誉の負傷ですね。貴女の盾になれて光栄です、女王陛下」

少しだけ、室内がしんと静まった。


また怪我をした、その事実にガーネの手が僅かに震えた。

間違えたのかもしれない。

失敗したのかもしれない。

また、捨てられるのかもしれない。


その感情が再び蓋を開けそうになった瞬間に、ディアマントの華奢な身体がガーネの胸元に飛び込んだ。

一瞬何が起きたかわからずガーネは視線を下げた。

「…ディアマント様、俺今汚いですよ。湯浴みして綺麗にしたんでしょ」

一応申し訳程度に声をかけると、離れないとでも言わんばかりに細い腕が背中に回された。

「……俺、きちんと『役に立てた』か」

「立ったどころではない。これ以上ない結果じゃ、妾はお前を推して間違いなかった」

「きちんと、お前の『犬』として働けてたか」

「お前以上の犬がおるか」

そこまで聞いて、ガーネはディアマントの身体を抱き返した。

小さく細い身体がすっぽりと腕の中に納まり、どこか既視感を覚える。先程彼女を守る時に、無理矢理抱きすくめたのを思い出す。それだけではないような気もするが、とにかくガーネは『傷を付けずに守れて良かった』と安堵した。

「…少しだけ、怖かった」

小さく呟いたディアマントの声は、僅かに震えていた。

自分の力が発揮出来ず、普通の娘とほぼ同じ状況になる『城外』での脅威、自分の目の前で自分は何も出来ずにただ見守るしか出来ない不安、なによりも、ガーネが血塗れで戻って来た時の恐怖は計り知れなかった。

「…ちっせー細い身体」

ガーネはしばらくの間、ディアマントの背中や髪をそっと撫でて『多少なり役に立てて良かった』と、自身の役割依存な内面にほんの少しだけ安心材料を置いて、息を漏らした。

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