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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十四章『外遊』

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204話「近衛の矜持」

「近衛長次10時!なんか魔道具来ます!」

「なんかとは何だ!」

「わかんない!」

ガーネでは多少どうにかなるサイフィルの雑な声掛けも、さすがに連携の取り切れていない近衛長には下手な混乱を招きかねない。とは言え、『何か魔道具の類の使用』は事前に把握出来、近衛長は敢えて距離を取るように数歩分後ろに下がった。

魔道具が炸裂し、音響弾に似たものだったらしく周辺に甲高い音が響く。

「きゃーっ!!」

カルセがウィンプル越しに耳を押さえて思わず蹲った。

「しまった!カルセさん!!」

スメイラが慌ててカルセに駆け寄るも、スメイラ自身も耳の奥で耳鳴りが響いている。耳の良いカルセにはひとたまりもないだろう。サイフィルの口が動いているのはスメイラにも見えるが、まるで何を喋っているか聞き取りが出来ない。

スメイラはカルセの腕を引き、女王達を乗せている馬車に押し込めた。幸い馬車内では音の影響は大きく出なかったらしく、スメイラは自分も耳がまともに聞こえないながらもカルセの手を掴んで掌に指で文字を書いた。

『最低限、結界』

端的ではあるが、耳の痛みに涙目になっているカルセには十分伝わる。カルセも小さく頷き、胸元の意匠を握り締めて祈りの言葉を呟き始めたその様子を見てスメイラは馬車のドアを閉じた。続けてそのままサイフィルの腕を引き、戦闘の邪魔にならずかつ近衛長の視界に入る場所へと移動する。

一番至近距離でまともに食らったせいか、耳をやられた影響で平衡感覚も狂っているらしい近衛長と視線が合う。若干耳が復活して来たスメイラはサイフィルの断片的に聞こえる声を半分当てずっぽうながらも翻訳するように手で近衛長へと合図を送った。


『左、2』

その合図を受けた近衛長は、完全に虚を突いたと油断していた左側の死角に潜んでいた均衡教徒を一人斬り伏せた。


「よし!」

スメイラが小さく呟き、周辺に視線を投げた。

サイフィルの「右、低い」という声だけかろうじて聞き取れ、そのまま近衛長の向いている方向と逆に視線を向けると、右側に何かの術式を使う教徒の姿が目に入る。

タイミング良く近衛長と目が合うと、スメイラは右を指さした後に地面を指差した。

近衛長自身も地面に警戒をしたが、よりにもよって影を使って足元を取る類の術式だった様子でそのまま足を取られ地面を滑り、彼の纏う白い近衛の衣服が土で汚れた。


「やっぱり『対術者』だと分が悪い…!」

スメイラが小さく舌打ちをしながら、周辺を睨む。

少し遠くではラズリやアメジが戦う姿も確認出来、中央ではガーネも序列持ち三人相手に向かっていっている姿が見える。

自分に『戦う力』がないことを歯がゆく思う反面、ガーネのよく言う『適材適所』の言葉を思い出した。

────戦えないのなら、私は頭を使うしかない。


「サイフィルくん!」

「え?な、なに?」

「聞こえる!?」

「ちょっとだけ!大分聞こえるようにはなってきた!」

「よし、じゃあ手貸して!」

スメイラとサイフィルは馬車の後ろの、近衛長からは視認出来るが術者からは死角となる場所へと移動する。

「術者の術式使用に注意して、多分近衛長まだ耳聞こえてない。平衡感覚無さそう」

「オッケー、近衛長から見て2時がさっきの影で足掴んでた術者」

スメイラは指で『2』を見せてから自分の足元の影を指さして近衛長に合図を出す。

近衛長もそれを見て自分から見た2時方向の敵と距離を取りはするも、術者相手に多少の距離を取ったところであまり意味は成してはいない様子だった。そのせいで結局足を取られ、他の教徒からの攻撃を防ぎつつ馬車の女王を気にしてと、なかなか決め手に欠けるようである。そして術者は例の影を使う者だけではなかった。

複数の飛び道具代わりに魔道具を駆使する術者に、わかりやすく魔法を扱う術者もいる。序列持ちでなくとも、普通に苦戦を強いる相手ばかりである。

「…ガーネがいなくて思うけどさ。ガーネの奴よくもまあ『ああいうの』雑魚呼ばわりしてるよね…雑魚だったら長年、『邪教』だなんて恐れられてないと思うんだよね、僕」

「君さっき自分で言ってたでしょ。ガーネくんがバケモノなんだってば。私がそれ一番痛感してるよ、『代行』になった時に」


近衛長は視界に入る位置にいるスメイラからのハンドサインを元に『おそらくこうだろう』という予測を立て動く。

『2時、影』の指示だと判断した瞬間、先程足元を取ってきた得体の知れない術を使った男が目に入り慌てて距離を取る。

統裁官・ガーネの評価した通り、この短時間でよく切り替えと補助が出来ると頭の良さに感心した。そして自分が戦闘員ではないことを理解し、邪魔にならずかつ敵の視界に入らない場所への位置取りも完璧だった。敵の視線がスメイラたちに向けば、再び場所を変えかつ自分から視認出来る範囲に動く。サイフィルの目利きも噂以上のもので、何が来るかまではわからずとも通常の得物なのか魔道具なのか呪具なのかがわかればこちらも動き方を変えることが出来る。そして聖女・カルセの聖結界のお陰で、事前に聞いていた通り均衡教徒の所持・保有している術式が反応して馬車に近寄ることは出来なそうだと見て取れた。幸いにもカルセは陛下と共に馬車の中で祈りの力を発動させている。そうなれば、均衡教徒側もまずは自分を始末してからでなければ迂闊に馬車に近寄れないだろうと判断すると、ようやく多少の無理が出来ると顔についた土汚れを袖で拭って剣を構え直した。


「貴様ら均衡教徒、1人はすでに私が斬り捨てた。残りは4人、『近衛長』であるこの私が直々に処断する。陛下に狼藉を働く邪教共!」

ようやく聴覚が戻ってきた近衛長ジェレイドは、部下である近衛兵にスメイラ・サイフィルの警護を指示して剣を振り上げた。

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