203話「特務C配置」
炸裂した呪具によって、近くの窓が割れた。
ガーネは咄嗟に破片からディアマントの身体を守ろうと振り返り、腕の中に納めるように抱きすくめてその場から数歩ずれた。
ごく僅か一瞬、何が起きたかわからずにしんとした周辺が、何かが炸裂した音とガラスの割れた音に、一拍置いて一気にパニックに陥り悲鳴が響き渡る。
民衆の混乱に巻き込まれないようにガーネはディアマントの身体を横抱きに抱き上げ、馬車近くにいた近衛長に視線を投げてから後方の特務に声を上げて指示を飛ばす。
「特務!C配置!!」
ガーネの声に、特務は一斉に動き出す。
そのままガーネは近衛長に引き渡すべく数歩で距離を詰めると、躊躇無く女王の身体を近衛長へと投げ渡した。
その際に、ディアマントを庇った時に降ってきたガラス片で切ったらしく額の生え際から流血していたガーネの血が、ディアマントの青いドレスにぱたぱたと滴り赤く滲んだ。
「近衛長、陛下を頼む」
近衛長にディアマントを託し、近衛長の後ろに庇われるように身体を降ろされたディアマントが一瞬だけガーネの血を見て目を見開くも、彼女は何も言わずにきゅっと唇を結んでガーネの背中を見つめた。
「…ガーネ!」
近衛長がガーネの『名前』を呼んだタイミングで、『C配置指示』を受けたスメイラ・サイフィル・カルセが馬車の傍に来た。
「近衛長。俺の頭と目と耳だ、うまく使え。スメイラ、『頼む』ぞ」
「了解」
同時にラズリ・アメジも衛兵長の方へと走っていくのが見え、ガーネは声を張り上げた。
「教官!そいつら使え!!」
「おー!!」
遠くから衛兵長の声を聞き、ガーネはカルセを振り返った。
「序列、どれだ」
「正面のあの三人ですわ!他は…数は多いですが序列ではございません!」
「わかった」
王城側警備一同が、均衡教徒対応に入る。
辺境伯も領内で『邪教』の脅威を知り、自分の臣下に指示を飛ばしていた。
「我々は避難誘導だ!余計な混乱を広げるな!下がらせろ!!」
辺境伯の指示で領内の衛兵たちが民衆の避難誘導に走る。
彼の側近が駆け寄り、辺境伯へと声を掛けた。
「閣下、お怪我は!」
「俺は無事だ。邪教め…俺の領でよくも好き勝手してくれたもんだな…!」
「我々も、王城警備に加勢いたしますか」
「…ハハ、いらんだろう。陛下の『犬』はよく躾られているようだからな。かえって邪魔になる…とにかく、必要以上に民間人に被害を広げるな。周辺一帯の区画を封鎖しろ。『俺の領地』の人間を、なるべく無駄に死なせるな!」
「はっ!」
『邪教』、均衡教徒。序列持ち三名、序列なし二十名。
ガーネは一瞬だけ周囲に視線を向けて、よく通る声で指示を飛ばした。
「一般人保護優先、衛兵長の指示に従え!序列は俺が相手する、他は遠慮なく『始末』しろ!!」
「了解!!」
「魔導師長、巫術官長は俺と一緒だ」
「わかった、任せろ」
そこでようやくガーネは、額から頬に掛けて伝う血を手で拭う。
白手が真っ赤に染まると、煩わしそうにそれを脱ぎ捨て地面に放った。そのままガーネは飾緒や飾りで邪魔な上着を脱いでディアマントへと投げ渡し、ディアマントもその上着を受け取ると不安そうな目を伏せてから真っ直ぐにガーネへと視線を向け直した。
その目は、小娘のそれではなく『女王』としての毅然とした目であった。
「ガーネ。あの目障りな異端なる均衡、早急に片付けよ。噛み殺して来い、妾の『犬』として」
「御意」
ガーネは短く返事を返し、銃では流れ弾で民間人に被害が出かねないことを考慮して辺境伯側と衛兵での避難誘導が完了するまではと腰の剣を抜いた。
「行くぞ!」
剣を抜いたガーネが魔導師長、巫術官長を伴って現場の中枢へと駆けて行った。
「近衛長!来ますわ!足音…5人です!」
カルセの声に、近衛長が剣を構えた。
「陛下、ヘルソニア様は馬車に!近衛長、近衛の人員使いますからね!近衛の人は馬車周辺固めて!カルセさん聖結界で馬車の保護を!」
スメイラが近衛長より先に指示を出し、『ガーネの指示通り』にカルセごと結界で女王を保護する。
「サイフィルくんはいつも通り『視て』!私は状況しか見れないからね!」
「任せて!」
「君たちは戦えるのか!」
剣を構えた近衛長が、女王が馬車に入って結界で保護されたのを確認して視線だけ一瞬向けて声をかけた。
「いえ、全く。カルセさんが唯一ちょっと魔法使えるくらいですが、均衡の呪い相手にはこの結界が一番有効です。なので私は知恵を絞って、サイフィルくんは貴方の目になります。…今だけですからね、近衛長。我々はガーネくんの『部下』なので」
「ふ、そうか。それは頼もしい。ならせめてその結界の中で陛下の盾にはなっていてくれ。彼の大事な部下を傷つけたとあっては、私も面目が立たない」
「近衛長!3時2人、5時3人!」
サイフィルの声に素早く反応した近衛長は、身体を右に向けて剣を振り上げた。向かってきた剣を薙ぎ払い、もう一人の短槍を受けると力で押し返した。
「うわ、普通に強いね。さすが『近衛長』は伊達じゃないわ、あの若さで納得」
「多分僕たち、ガーネっていうバケモノを間近で見すぎたんだろうね」
近衛長の剣技にどこか冷静に会話を交わすスメイラとサイフィルだったが、視線は常に近くの敵だけでなく周辺にまで動いていた。




