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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十四章『外遊』

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201話「ロイヤル・ブルー」

「まだやってるか」

営業時間は先程確認してはいたが、ギリギリの時間に店内に入ったガーネは店じまいの支度をしていた店主に声をかけた。

「…さ、先程の」

「悪いんだが、これ。包んでくれ」

「こちらですか、かしこまりました。すぐご用意いたします。…領収書などは?王城の方でいらっしゃいますよね?」

「いらん、私費だ」

数分後、店主が丁寧にラッピングした商品を受け取り支払いを済ませたガーネは、先程と同じように「突然悪かった」とだけ短く返し、店を出た。

途中の店で適当に全員がつまめそうな菓子を少し多めに買い、そのまま迎賓館へと戻っていく。

警備で立っていた近衛長と衛兵長と雑談をしながらガーネの上着を抱えていたカルセを見つけると、特務の分だけ別にした菓子の入った紙袋を手渡した。

「サンキュ、これアイツらに渡しとけ」

「まあ、ありがとうございますガーネ様」

「あとこれは全員で適当に」

他の菓子の入った紙袋を近衛長に押し付けると、近衛長は心底意外そうな目をガーネに向けた。

「…なんだよ」

「いや、君がこういう配慮をするとは思わなくてだな」

「ウチの連中だけってわけにもいかんだろうが」

「ガーネ様結構気が利く方でしてよ」

「カルセはさっさと部屋戻れ」

「はい、では失礼いたします。おやすみなさいまし」

「おう、おやすみ」

カルセに預けた上着を雑に着直し、近くにいた侍従に声をかけた。

「陛下は今着替え中か」

「いえ、すでにご入浴もお着替えも済んでおりまして、おくつろぎかと」

「そうか」

ドアの横に控える近衛長の視線を受けながら、ガーネは無遠慮に女王の部屋のドアをノックした。


事前にヘルソニアから『事情』は聞いていたとは言え、本当に城では無いため力がほぼ無いらしい。

普段であれば、扉の前に立つより前から誰が来たのかわかっている女王であったが、ノックの音にワンテンポ遅れ「誰じゃ」と応答した。


「俺」

「…入れ」

雑な『俺』の返答に近衛長が再度物申したい顔をしてはいたが、ガーネはそれを無視して部屋に入った。

背後でパタンと扉の閉まる音を聞き、ソファで本を読んでいたディアマントに歩み寄って足元で膝をついた。

「何じゃ、どうかしたか」

「これ」

ポケットにしまった、先程の宝飾店で買ったラッピングのされた小さな箱をディアマントに差し出す。

彼女はそれを受け取り、首を傾げてガーネを見下ろした。

「…これは?」

「開けてみろ」

ガーネに言われるまま、ディアマントは淡い水色の細いリボンを丁寧にほどいて箱を開いた。

箱の中身は、ディアマントが宝飾店で熱心に眺めていたプラチナの装飾の施されたロイヤルブルームーンストーンのピアスが入っていた。

「……え、ガーネ、これ」

「今日の『お散歩』、中断させちまったし。我慢出来たご褒美。…気に入ってたんだろ?」

「なんで」

「そんなん、見てたらわかるよ。…じゃ、早く寝ろよ。外はちゃんと俺がいるから」

少し呆けたような顔をしたディアマントを見て、わざとらしく敬礼をしてから立ち上がりさっさと部屋を出た。



夜間警備、ディアマントの部屋の前でガーネが一人になったタイミング。

視認出来る範囲には衛兵も近衛もいる。先日の下見で警戒した窓の外や廊下の先まで視線を凝らし、ふうと小さく息を漏らす。

ほんの僅か一瞬だけ、その息を漏らした瞬間に手が僅かに震えた。

「…くそ、またか」

ガーネは最近よく起こる『低血糖』の症状に小さく舌打ちを漏らし、前夜に女官からもらった飴玉をポケットから出して口に入れた。

しかし、胃の痛みが昼間から収まらない。

別に酔いこそしないものの、飲み慣れない酒を飲んだせいか、食事をほぼ丸飲みにしたせいか、はたまたその両方か。ガーネは飴をガリガリと噛み砕いて、胃の中身を吐き出したい気分に眉を寄せた。


────駄目だ、今は駄目だ。

ちゃんとやらないと。きちんとこなさないと。上手くやらないと。


「お疲れ、ここ交代。…どうしたガーネ」

そうガーネが思っている所で、衛兵長が現れた。

「…なんでもない、胃がちょっと痛いだけだ」

「大丈夫か?向こうの警備、ウチのと変わって少し休むか?」

次のガーネの配置である階下を指差し、衛兵長が首を傾げた。

「平気、さっきラズリに胃薬貰ってる。…多分、普段だってそんなに食わねぇのに飯丸飲みしたから」

「あーまぁ、お前体格の割に少食だしな」

「少食っつーか、いざって時に身体動かねぇの嫌で押さえてるだけだ。結果としてそんな食わなくてもまぁまぁ動く身体になっただけ」

「珍しく酒も飲んだしな」

「……教官。教官じゃねーや、衛兵長。…俺そんな顔色悪いっすか」

「あー、うーん。俺だから気付くって感じかね。あとはお前んとこの特務の連中も気付くんじゃねぇか。そのレベル」

「そうか、ならいい」


ガーネはラズリから貰っていた胃薬を飲んでから、別の配置に付き直した。

不思議と、手の震えも胃の痛みもすぐに治まっていた。



翌朝、式典当日。

ロイヤルブルーの格式高い色のドレスに、編み込みでギブソンタックにまとめたヘアスタイルにティアラを冠した女王が姿を見せた。

「陛下、本日も大変お美しいです」

「うむ」

近衛長がディアマントに声を掛け、頭を下げる。しかしディアマント本人は自分がいかに美しいかはわかっているため、わかりやすく喜ぶことはとくにない。


警備の最終調整と配置の確認で動き回るガーネを少し遠くに見つめ、ディアマントは迎賓館の入口に歩み寄った。

随行者一同が整列する中、ガーネの誘導と近衛長のエスコートで馬車へと乗り込む。

ガーネが周辺の確認をしてから、客室のドアを閉める際、ようやくディアマントと一瞬目が合った。

「あ」

短く声を上げたガーネに、ディアマントは改めて目線をガーネに向けた。

「なんじゃ」

「やっぱ似合いますね、それ。可愛いです」

「……知っておる」

ディアマントはふいと顔を逸らし、その姿を見てガーネは珍しく小さく笑った。

顔を背けたディアマントの小さな耳朶には、ロイヤルブルームーンストーンのピアスが上品に輝いていた。

近衛長はそれを見つけてガーネに視線を向けるも、すでに客室のドアは閉ざされ踏み板に足を掛けたガーネが出発の指揮を取っていた。

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