200話「晩餐」
迎賓館に戻り、ディアマントは晩餐に向けての着替えや用意に移る。
その間、ガーネはヘルソニアと近衛長、衛兵長を呼び今後の警備に関しての話し合いを持った。
「とりあえずは無事に戻って来れたが、本当にお前がさっき警戒したのは邪教の連中なのか」
衛兵長が腕を組んでガーネを見つめた。気配そのものがわからないとなれば当然のことだろうと、ガーネは小さく頷いた。
それを補足するようにヘルソニアも口を開いた。
「あの視線と気配は間違いないな、方角もガーネが警戒させた北西だ。連中が現地入りしただけなのか、仕掛けるつもりでいたのかまでは私にもわからんが」
「少なくともサイフィルが視認できる範囲にはいなかったが、警戒は少し強めたい。巫術官とラズリで、『入ったらわかる』タイプの結界を迎賓館周りに張らせる」
「…?入れなくするものでなく、か?」
近衛長が訳がわからなそうな顔でガーネに向いた。
「向こうも術者だ。入れなくする結界はあまり意味がないだろう。それを逆手に取られるよりも、『来た時にわかる』方がこちらとしても迎撃がしやすい。何より、ここは王都ではなく辺境伯領だ。近衛長ならわかるだろ、あの手の男の庭でこちらが大それたことをしてややこしくしたくない」
「……『向こうの顔を潰さない』ためも含めて、か」
「そういうこと。まあ、見てわかる通り俺も連中に対してアンテナ張ってるから気配である程度はわかる。…とは言え、慢心するつもりは一切ない。そのための結界だ」
そこで会話を打ち切り、ガーネは先程の依頼をラズリと巫術官長に託してそれぞれ持ち場に戻った。
日が落ち、館内にも明かりを灯し始めた頃合い。
迎賓館内の広間で、辺境伯からの歓迎の晩餐が始まった。
ディアマントは昼の散策時の服装からすっかり女王としての仕様に戻り、青みのある深紫の晩餐用のロングドレスとハーフアップの髪を整え直して小ぶりなティアラを冠していた。
「ようこそお越しくださいました、女王陛下。辺境の地ではございますが、今宵はささやかな席を設けております。どうぞごゆるりとお過ごしください」
「うむ、もてなしに感謝する」
比較的和やかな空気で進行していき、特務のメンバーはちらりと高位職者席のガーネとカルセに視線を向けた。
「大丈夫かな」
何が大丈夫かとはスメイラは明言しなかったものの、あらゆることが重なっている今回の外遊。特にガーネとは付き合いが深い、直属の部下である特務の面々は不安そうであった。
「ただでさえ警備で気を張ってるのに、均衡に近衛長に…あの辺境伯も、多分。見なさいよガーネのあの警戒した顔」
ラズリが顎でしゃくるようにガーネを示しながら、シャンパンをくいっと煽った。
「それもだけどさ、多分ガーネこれ嫌いそうだよね」
サイフィルが前菜の野菜をフォークで刺して頬張りながら小さく言うと、アメジもわかりやすく肩を竦めた。
「お子様舌なの、普段は可愛いんだけどねぇ。こういう時は大変そう」
「立場的に残すわけにもいかないしね」
スメイラも配膳された食事を食べ、次に注がれたワインを飲んだ。
「……いや、見なさいアレ」
ラズリが面白いものでも見つけたように小さく声を掛けた。
視線の先のガーネはあからさまに手が止まっており、隣の席のカルセも少し困ったような顔でガーネに小声で何か耳打ちをしていた。それを受けたガーネは小さく首を振ると、料理を口に運びあろうことかワインで流し込んでいた。
「…アイツ、『嫌いなもんはなるべく噛まずに丸飲みする』ってこないだ言ってたわそういえば」
ラズリが小さく肩を揺らして笑い、ラズリの隣のアメジが少し心配そうに聞いた。
「でもガーネ様、あんなにお酒飲んで大丈夫?あたしガーネ様がお酒飲んでる所見たことないんだけど。いつもご飯行ってもジュースか水じゃない?」
その言葉に、スメイラとサイフィルが肩を竦めた。
「大丈夫。あの子、ザルだから」
「そ、僕は前も言った通り毒とかアルコールとか全く効かない『体質』だけどさ。前にガーネ酔い潰してやろうと思ってしこたま飲ませたことあるんだけど、全く酔わないどころかその直後ひったくり追いかけて全力疾走してたからその点は心配ないよ」
「ガーネくんは単純に『本当に子供舌』だから、お酒が美味しくないから嫌なだけなのよ」
とは言えさすがに三杯目くらいでようやく水に切り替えはしたらしく、それまでいかに食べる方に気を取られていたのかを垣間見た。
普段とは席が離れているからこそ見えたガーネの子供っぽさではあるが、特務の一同はそれがなんとなく安心したような様子でそれぞれ食事を楽しんでいた。
晩餐もつつがなく終了し、女王が部屋に戻っていくのを見届けた。
この後は入浴や翌日に備えての支度などをする予定となっており、ガーネたち警備主力の人員も少しだけ息をつける時間となった。
「…じゃあ、この時間に休憩回すか」
ガーネの言葉に近衛長と衛兵長が頷く。
「俺昨日先行ったし、今日はガーネか近衛長先出ていいぞ」
衛兵長の言葉にガーネが懐にしまった時計を確認して時間を見て、近衛長へと視線を向けた。
「近衛長、悪い。先出ていいか。口直しがしたい」
「構わないが…口直し?」
「飯が軒並み嫌いなモンばっかりだった」
「お前、ワイン珍しくガブガブ飲んでると思ったらそういう事か」
笑いながら言う衛兵長にじとっと視線を投げてから、近くを通りかかったカルセを呼びつけ正装仕様に飾緒や肩章が乗った服を預けた。
「すぐ戻るから持ってて」
「かしこまりました、お気を付けて」
ベストとホルスター姿で多少身軽になったガーネは、『口直し』の口実を持って迎賓館を一人出て行った。




