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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十四章『外遊』

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198話「お忍びの散策」

「あーもうクソ、勘弁してくれよなぁ…!」

胃薬を飲んだガーネは迎賓館周辺の地図を改めて睨み、どこをどう30分以内に回らせて迎賓館に戻るかのルートを考えた。

「ここの公園に寄って、こう回って戻って来たらどうだ?」

「それじゃ公園の封鎖指示やら公園での配置が間に合わせねぇ、そこまで辺境伯の領内で勝手なことは出来ない。…文官長、辺境伯は陛下の街ブラ希望なんと言っていた」

「ええ、まあ…『我が領内を見ていただけるとは光栄です、どうぞご自由に散策なさってください』と…笑顔で、一応」

「…『あんま好き勝手するな』ってことじゃねぇか」

実際にそのやり取りをした訳ではないものの、ガーネも仕事柄貴族との対話はそこそこ経験がある。大体はそういう意味合いであろうし、女王やヘルソニアの態度、自分に向く視線から考えてもガーネ自身『いけ好かない』認定をしている男である。十中八九そういうことだろうと息を吐いて地図をしまった。

「統裁官、どうする」

さすがの近衛長もやや同情気味な表情で顔を向ける。行きの汽車の中だけでなく、馬車の中でも散々振り回されたのだろう。それを思うとガーネはほんの少しの同情と大部分の腹立たしいような何かを覚えつつ、近衛長に視線を向けた。

「事前下見で迎賓館周辺までは見られていない。実際行ってから、細かく指示出す。とにかく時間が無い、30分未満で満足させる必要がある」

「あの女王様、満足するかねぇ」

衛兵長も腕を組んで小さく漏らすも、ガーネは小さく鼻で笑った。

「忘れたのか。あの女は引きこもりだぞ、そんな体力があるか。まして今数時間馬車に揺られてきたところだぞ」


そして『着替えさせろ』と女王を部屋に引っ込めて7分後。

「統裁官、陛下のお召し替えまもなく完了します」

「ご苦労」

侍従がガーネに報告に来て、散策に同伴させるメンバーだけ集めさせる。

「特務!お前らは全員同行しろ」

そして『女王陛下のお忍び・辺境伯領散策』に同行する近衛長、衛兵長、侍従、近衛2名と衛兵4名と特務を整列させ、他の待機組に指示を出してからガーネは深い溜息を漏らして列に並んで女王が出るのを待った。


「待たせたな」

機嫌良く現れたディアマントは髪を結い直してハーフアップにまとめ、淡い灰色のロングワンピースは上品なレースやフリルがあしらわれており、アクセサリーも品良くまとまっていた。

所要時間約8分でここまで整え直すとはさすが女王付きの女官だと、ガーネはその手腕に感心した。

「どうじゃ、お忍びっぽいか」

ディアマントは一同の前でワンピースの裾を広げて見せるも、付き従う全員は着替えなどする時間も無いため一同『女王の随行者』としての正装のままである。どこからどう見てもお忍びではないが、そんなことを論じている時間は無い。

とは言え、あまり見慣れないドレス以外の服装にガーネも多少物珍しそうにディアマントを眺めた。

「へぇ、可愛いじゃん」

思わず口をついて出た言葉に、一同ぎょっとした顔でガーネを見た。特務は『慣れたもの』で特に動じることも無く、横目でガーネをちらりと見るに留まっていた。

日頃ガーネに『可愛い』と言われ慣れているディアマント自身も、今日の『可愛い』は普段と意味合いが違うことを理解しており、大層満足そうに笑みを浮かべた。



「あ!あれはなんじゃ!」

街に出て早速、隠しきれずに小娘化した女王が小走りで目についた店先に行ってしまう。

慌ててガーネがディアマントを走って追いかけ、追いついたかと思えば次に目についた店先に行ってしまうディアマントを追いかけて、と全員が文字通り女王に振り回されていた。

お忍びとは言い難い状態である。

「この店はなんじゃ!」

「勝手に店入るな!!コラ!!」

近くの雑貨屋に入ってしまったディアマントを追いかけ、ガーネは振り返る。

「衛兵、近衛、特務!お前らは店の周辺固めろ。店に入るのは最小限だ、店に迷惑がかかる!」

端的にそれだけ指示をすると、ガーネと近衛長、衛兵長は店の中に入った。

やはりどこからどう見ても『お忍び』ではない『女王と側近とその護衛たち』の姿に、店内の客はおろか店主もどうしていいかわからずに固まってしまっていた。

「ヘルソニア、これはなんじゃ」

「玩具です」

ディアマントは物珍しそうにゼンマイ仕掛けの鳥の玩具を眺めるものの、さすがに玩具を欲しがる年齢ではないためか『それが何か』を理解すると急に興味が失せたように立ち上がってさっさと店を出てしまった。

「あんの小娘……突然すまなかった、邪魔をした」

ディアマント自身もあまり時間がないことを理解しているらしく、行動が早い。

ガーネは店主に最低限の謝罪と礼を告げてから追いかけるように店外に出た。

あっという間に店外に出てきた女王に、外で待機した警備の面々は少し驚きつつも疲労と苛立ちの滲んだ顔のガーネに同情したような顔をして警備列を組み直し、付き従った。

「ガーネ!ガーネ!!あれはなんじゃ!きらきらしておる!」

「…飴です、飴細工。見たことねぇのか」

腕を引かれて指を差された先に目を向けると、ディアマントが飴細工の出店を指さした。

さすが引きこもり、という言葉を飲み込み横目で見ると、実年齢はさておき見た目どおりの年齢相応のいかにも箱入り娘のような表情で楽しそうに目を輝かせていた。


「……ま、いっか。楽しいですか陛下」

「楽しい!30分では足りぬ!」

「それは…ちょっと今日は勘弁してくれませんかね。まじで」

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