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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十四章『外遊』

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197話「小娘とワガママ」

翌朝、改めて異常が無いかの確認を済ませてから中継地点宿泊先を出発した。

事前の下見で確認していた警戒箇所では相変わらずガーネが馬車から半身を乗り出し、周囲の警戒をして車列全体に合図を送り、問題なく進行していく。

女王の身体の負担を考慮し少し長めの行程で組んでいたが、思いの外順調に進行し予定よりも大幅に早く辺境伯領の検問所に到着した。

「ここからは俺は離れる。スメイラ、頼んだぞ」

「わかった」

馬車酔いで青い顔をしたガーネはそれを誤魔化すようにラズリからもらった水を飲み、馬車を降りて待機していた検問所の責任者に声をかけた。


「王城側だ。予定より少し早く到着した、受け入れに問題がなければこのまま通す。責任者を呼べ」

「お待ちください」

下見の時に顔を合わせた責任者が小走りで寄ってきて「問題ない」と解答を受ける。ガーネはそのまま合図を車列に送り、女王の乗車する馬車の踏み台に片足を掛けて乗り上げ、車列はそのまま検問所を通過した。


街に入り、ディアマントは物珍しそうに窓の外を眺めていた。

そのまま馬車の窓を開け、近衛長に制止される声も薄っすらと聞こえはしたがそれを無視した様子で窓の外のガーネに声を掛けた。

「ガーネ」

「なんですか。顔出さんでくれますか、警備上あんま良くねぇんですけど」

雑に返しつつも一応は応答してやり、周囲に視線を投げつつちらりと女王へと目を向けた。

「王都とは随分と違うな、妾は初めて来た」

「…陛下」

「なんじゃ」

目をどこか目を輝かせて窓の外の景色に目を向けるディアマントの姿に、思わず『いつも通り』の応答をしそうになる。しかし一応は仕事中と、理性で自分を制してから少し間を開けて返答した。

「………いや、なんでも無いです。話はあとでゆっくり聞くので、頼むからその可愛い顔しまってください」

「お前、昨日からずっとつれないではないか」

「あのですね。一応これでも警備責任者なんですよ、どこぞの女王陛下が直々に任じてくださったので。つーことで俺は今仕事中です、あとで時間ができたらポーカーでもババ抜きでもなんでも付き合うんで、今は言う事聞いてくれませんか」

「…フン!」

再びむくれた顔をしてぴしゃりと窓を閉められ、ガーネは窓越しにヘルソニアの顔を見た。あからさまに目を逸らされ、どう見ても笑っていた。

「…『フン!』て…小娘かよ…」

ガーネは引きつった顔で小さく呟きながら、そのまま宿泊予定の迎賓館の馬車寄せまで周囲を警戒して踏み台を降りた。

「近衛長、手筈通り特務と衛兵で確認に入る。一旦待機だ」

「ああ」

ガーネは後方の馬車に手で『通常点検』と合図をし、特務を中心に下車し事前の指示通りにそれぞれが動くのを確認した。迎賓館内の異常は無しとサイフィル・魔導師長・巫術官長からの合図に手で返し、周辺の確認に走ったラズリを中心とした衛兵長と数人の衛兵も手早く確認を済ませてガーネに合図をする。

合図は全て事前に取り決めており、最終的に『整列』の合図をもって全員が整列したのを確認して馬車の扉を開いた。

近衛長が降り、続いて女王が近衛長の差し出した手を取って降車する。最後にヘルソニアが降りたタイミングで、『予定より早く着いた』と報告を受けた辺境伯が姿を見せた。


「ようこそお越しくださいました、女王陛下。お早いご到着と報を受け、急ぎ参上いたしました」

「よい、顔を上げよ。出迎えご苦労。此度は世話になる」

「ヘルソニア殿も、ご苦労さまですな」

「お気遣い痛み入る」


辺境伯が迎賓館の入口側へ半歩引いて、中へと促す。

ディアマントは一瞬目を細め、そのまま無言でガーネに視線を投げた。

彼女の表情から、先日のヘルソニアの様子と同じくディアマントも彼にはあまりいい印象を抱いていないのだと悟り、ガーネは辺境伯の視線を遮るように一歩前に出た。

その際に受けたガーネに注がれる辺境伯の、先日の『値踏み』とは明確に異なる視線に気付きはするものの、特に顔に出すことも無く女王を誘導した。

「今宵は晩餐の席を設けております。それまでは、どうぞご随意にお寛ぎください」

「うむ」

ディアマントは短く返し、前に向き直った。

「部屋までは館の者に案内させます。何かあれば遠慮なく申し付けを」


ガーネは形式的に辺境伯へ一礼し、館内へと入っていった。


案内役の館の使用人が下がり、侍従が女王の宿泊する部屋の扉を開ける。

しかし、ディアマントは入口前でぴたりと足を止め立ち止まってしまった。

「陛下?」

侍従が声をかけると、ディアマントは顔を上げてガーネを振り返った。

「ガーネ」

「はい」

「妾、街を散策したい!」

「…………は?」

「よいじゃろ」

「良くないですね、そういう予定組んでないです」

「早く着いたと言っていたではないか」

「言いましたけど、せいぜい小一時間です。そんな時間ありません」

「ガーネ、妾は女王じゃ」

「存じております」

「なら、妾が一番偉い。妾は街を散策したい。歩いて見て回りたい。出かけたい!命令じゃなんとかせよ!!」

ガーネは胃痛の他に頭痛のする思いでヘルソニアに視線を向けるが、こともあろうに思い切り笑っていた。

「よいのでは無いか、『警備最高責任者』ガーネよ」

「…………命令だ!俺は今から警備体勢組み直す!全員、今から10分以内で各所調整整えろ!!」

ガーネの声に随行者一同は当然ざわめいた。

「ガーネいや無理だろ10分は」

さすがの衛兵長も今しがたの女王とのやり取りは聞こえていたが『さすがに10分で調整は無理だ』と全員の声を代弁するように声は掛けてきた。しかし、このやり取りの数秒ですら惜しい。ガーネは衛兵長の『文句』を無視してディアマントに向き直った。

「30分です。30分しか時間は取れません」

「えー、短い」

「『えー』じゃねぇ!絞り出した時間だ!えーとか言ってる暇あったら急いで着替えて来てください!女官!急がせろ!」

「はい!」

「まあ陛下、相当長く確保してくれてますよガーネは。本来の行程で考えれば5分が良いところです」

「お前らもさっさと動け!あとラズリは俺んとこ来い、至急!」

その声で弾かれたように全員が動き、呼ばれたラズリが小走りでガーネの所にやって来た。

「なにガーネ」

「……り」

「え?」

「…胃薬、くれ」

「………」

ラズリはガーネの肩をぽんと叩いてから、所望された胃薬を用意しに向かっていった。

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