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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十四章『外遊』

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196話「低血糖」

数時間後、定刻通りに汽車は馬車への乗り換えの駅に到着した。

まずは特務全員を下車させ、駅構内から馬車寄せまでの点検と警戒を実施する。

「細部まで目ェ凝らせ、術式一つ見落とすな。サイフィルは特に人の方確認しろ、不審人物いたらすぐ俺のところ来い」

細かい箇所まで隈無く調べ、異常がないことを確認してからガーネは汽車へ戻った。


「駅及び周辺に異常なし、先荷物と随行者頼みます」

「りょーかい」

衛兵長に伝え、衛兵長主導で荷物の搬出と随行者の移動が始まる。それを確認してからガーネは貴賓車両へと移動した。

「近衛長、外は異常なしだ。今荷物出しとか衛兵長に頼んでる」

「承知した、陛下のご準備も問題ない」

「陛下、ちゃんとトランプしてましたか」

「近衛長は雑魚でつまらぬ」

「ぶ、そうですか。……なにしてたんだ」

「…神経衰弱だ」

近衛長が弱々しく回答し、ガーネはディアマントに視線を向けた。

「妾は記憶力がよい。帰りはガーネも妾とトランプをせよ」

「俺じゃ勝負にならねーだろ。絶対に俺が勝つし」

再び分かりやすくむくれた顔をしたディアマントを見てガーネは肩を竦め、外から合図の声が聞こえると目を向け直した。

「ほら。せっかく可愛く綺麗にしてんのに、そんな顔してたら台無しですよ女王陛下」


汽車を降り、女王の両脇を固めるように近衛長とガーネが並んで歩き、女王の姿を一目見ようと集まった民衆に向かって最低限だけ手を振り女王を馬車に乗せた。近衛長もそのまま一緒に乗り込み、ガーネは周辺の最終確認をしてから御者に指示を出して特務の一同が乗る馬車の踏み板に足を掛けた。

王城から駅に向かった時同様、人混みを抜け隊列が安定するまで車列を見つめ、時折周囲を警戒するように視線を投げる。それから後方へも顔を向け、全馬車が問題無く動いているのを確認し、窓から顔を出した衛兵長にも合図を送ってからガーネはようやく馬車に乗り込んだ。

「お疲れ様です、ガーネ様」

「もう『お出かけ』いいんじゃねーの、疲れた俺」

特務しか居ないことをいい事にしれっと愚痴を零し、少しだけネクタイを緩めて小さく息を漏らした。

「ガーネくん何か飲む?」

「水でいい、出来れば冷たいやつ」

しかし、数十分後。

一息入れたと思ったのも束の間のことであった。


「ガーネ様!ガーネ様っ!お気を確かに!」

「……やばい、寝不足と疲労でまじでやばい。でも今日は寝かせてくれとか言えない。助けてラズリ。カルセは俺に優しくして。スメイラはいつもみたいにちょっとだけ甘やかして」

「いや、ごめん無理だわ。吐くなら吐いて、エチケット袋はちゃんと用意してあるから。アメジ、サイフィル窓全開にして」

顔を真っ青にしたガーネが弱々しい声で女性陣に訴えていた。

「今日は途中で止めて休憩ってわけにもいかないしね…」

ガーネがこうなることを見越していた特務・母たちに甲斐甲斐しく世話をされながら、カルセが横になるかと問いかけるもガーネは首を振った。


「……そろそろ警戒ポイントだ」

緩めたネクタイを締め直し、ベルトを握ってドアを開けたガーネは走行中の馬車から半身を出して前方と後方、左右をそれぞれ目視確認する。

しばらく隊列を確認し、衛兵・近衛に事前に取り決めていた合図をしてから車内へと戻った。


「…ガーネ、何日寝てない?」

サイフィルがさすがに心配そうな顔で問いかけて来たが、ガーネ自身も何日まともに眠れていないのか定かではない。

指を折って数えてはみるも、最後にベッドで休んだのはおそらく一週間前。

ギリギリまで調整や各部署への通達など細かい作業に加え、通常業務である均衡対策にと比較的限界には近かった。

「いや、でも昨日はさすがに少し寝たか。多分3時間くらい」

「でもソファででしょぉ?あたしたちが来た時特務室のソファで寝てたじゃない」

アメジも腕を組んでガーネの青い顔を見つめ、小さく肩を竦めた。

「…外交終わったら、バカとゴリラにも書類仕事覚えさせるか…ついでにカルセ」

「まあ、わたくしはついでですの?」

「お前はお前でやることあるから別に書類なんざどうでもいいと思ってたんだよ。けどさすがに俺とスメイラとラズリだけじゃ回らねぇ」

「でもガーネくん、誰が教えるの?言い出しっぺの君?」

「あー、駄目だわ俺絶対イライラしそう」

窓から吹き込む少し冷たい外気に当たり、若干ではあるものの酔いがマシになったガーネは今後の運用について比較的真面目に考えはするものの、毎回同じことを思いついて結果毎回同じ想像をして勝手に挫折していた。


随分と馴れ合って打ち解けてしまったな、とガーネは一人静かに考えながら、僅かに震えた手を誤魔化すように腕を組んで座り直した。


途中何度か休憩を挟みながら、なんとか中継の宿泊予定地へ到着する。

先行して特務総動員で街と宿泊先の確認をし、異常が無いことを確認して女王を宿泊先へ誘導した。

夜間警備があるとは言え、ようやく一同もほんの少しだけ息をついた。

「…おし、じゃあ順番で休憩回すか。衛兵と近衛の休憩はそっちで任せる。特務の連中は休ませる、特にサイフィルとカルセ」

「おう、じゃあ予定通り俺から休憩がてら指示してくる」

「近衛長、俺も特務に指示だけ出してくるから一旦外すぞ」

「了解した」

ガーネは特務一同を集め、今日はまずしっかり休めと伝えてからスメイラに後の采配を託し廊下を歩いた。


「…っ、う…」

胃の痛みに小さく声を漏らし、胸元を押さえる。その手が僅かに震えているのに気付き、最近よくある『低血糖』の症状かと周囲を見回した。

「…おい、そこの女官。悪いけど飴かなんかないか」

「ございますが…わたくしの持っている安物でよろしいのでしょうか?」

「なんでもいい、分けてくれ」

呼び止められた女官がポケットに手を入れ、ガーネに差し出した。

「サンキュ」

「いえ、では失礼いたします」


ガーネに頭を下げて立ち去った女官を見送り、包み紙を開いて口の中に放り込む。

甘いべっこうの味が広がり、ガーネは小さく息を漏らし腕を組んだまま持ち場に戻った。

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