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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十四章『外遊』

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195話「退屈女王」

王城広場前は『女王陛下』の登場に今か今かとざわついている。

外交の始まりの一番最初の盛り上がりに、民衆と打って変わって警備の警戒は強い。

特務の、特にサイフィルがしきりに周囲に目を向け、怪しいものや呪具・呪物の存在の有無を確認し、事前に打ち合わせていた通りに『問題なし』と周辺の各責任者に向かって合図を送る。

それを受け、王城の扉が開き、先行して近衛長と警備最高責任者であるガーネが姿を見せた。その瞬間に一斉に黄色い声が上がり、ガーネを呼ぶ声や近衛長に向く声で一気に盛り上がった。

「うわ、すごい。やっぱ顔良い男が二人並ぶと圧と声援凄まじいね」

「僕なんでガーネがあんなに女の子に人気あるのかわかんない。こんなに怖いのに」

「顔が良いからでしょ」

スメイラが小さく呟きながら再度サイフィルに目配せをし、小さく頷いたのを確認してからガーネに合図を送る。

ガーネの視線で女王が姿を見せると、一気に空気が変わり今まで以上の声援に広場が包まれた。

厳かな濃い赤紫の外交ドレスとケープ姿に、髪を綺麗に結い上げティアラを冠したディアマントは、王たる風格と威厳を持ったまま静かに笑みを浮かべて民衆に向けて小さく手を振った。

近衛長とガーネで周囲を警戒するように女王の両脇を固めて馬車へと移動する。

女王が馬車に乗り込み、近侍警備として近衛長が一緒に中に入る。

ガーネは女王の乗る馬車の踏み板に足をかけ、中には乗り込まずに周囲を警戒するように視線を投げた。

後方の馬車に乗り込んだ特務と視線を合わせ、『異常無し』と視線で受け取ると小さく頷いた。


「出せ」

ガーネが短く御者に指示をし、馬車が動き始めると歓声が大きくなり群衆がなだれ込まないように衛兵と警察・待機の近衛で押さえ込む。


王城から駅までは徒歩でも十分程度、馬車で数分の距離ではあるが、警戒は途切れない。

出立直後に襲われるなど、あってはならないからである。

数分の距離ではあるものの無事に駅に到着し、駅前広場で集まる群衆を視線を投げる。

事前の手筈通り、素早く警備人員が降車し警備上の問題がないかを確認しに動いた。特務を中心に先行し、人の流れ・駅構内の術式や呪具などの残存や設置がないか、不審物がないか、乗り込む車両の最終確認を手早く済ませ、ガーネが報告を受けてから女王の馬車の客室扉を開いた。

駅前広場でも数十年ぶりの女王陛下外交に伴って一目でも姿を見ようと多数の民衆が集まっており、降車した女王は最小限のお手振りだけ済ませ先導するガーネの後ろを歩いて駅構内に入る。


「随伴上等車両も含めて、カーテン全部閉めろ」

ガーネが衛兵に指示をして、車両内のカーテンが全て閉ざされたのを確認してから敢えて別の車両の乗口から女王を車両に乗り込ませた。


特務以外の随伴者がすべて乗車し、特務全員で最終確認をしてからガーネたちも車両に乗り込んだ。

汽車が動き出し、異常がないか確認をしてからガーネはディアマントへと向き直った。

「では陛下、私は隣の車両におります」

「わかった。『なにかあれば』呼ぼう」

「かしこまりました」

ガーネはケープを外して椅子に腰掛けたディアマントに一礼し、近衛長に目配せをしてから隣の車両へと移動した。

隣の車両では特務と衛兵長、衛兵の役職者の一部が座っており、ガーネもそこでようやく一息ついた。

「はぁー、数十分で疲労が半端じゃねぇ…なんか飲むもんくれ。あとカルセ、俺の髪やって」

椅子にどっかりと腰を下ろしたガーネの傍にカルセが立ち、正装仕様に髪を整える。

スメイラに飲み物を貰って飲んだガーネは、特務の面々に視線を向けて口を開いた。

「おし、じゃあ今のうちに細かい配置を…」

ガーネが言い終わる前に、前方の貴賓車両に女王と共に乗車していた女官がガーネを呼びに来た。

「統裁官、陛下がお呼びです」

「……わかった」

乗車して数十分で、傍に近衛長もヘルソニアもいるのに一体何かとガーネは立ち上がり、車両を移動した。


「お呼びですか陛下」

「うむ。ガーネよ、妾は退屈じゃ」

呼ばれた理由が『退屈』と聞き、ガーネの顔は思わず引きつった。ヘルソニアは相変わらず笑っているし、近衛長に至ってはガーネを呼べと言って呼びつけた理由がまさか『それ』とは思わなかった様子でなんとも言えない顔をしていた。

「……はぁ?そんなことで呼んだんですか。ヘルソニア様も近衛長もいるでしょ、しりとりでもしてたらいいんじゃないですか」

「妾にそんな幼稚な遊びをせよと申すかお前」

「『退屈じゃ』って幼稚な理由で呼んだのは陛下でしょ」

分かりやすくむくれたディアマントに、正直可愛いとは思いつつも構ってやる余裕も暇もガーネには無い。雑な返しをして女官を指先で呼びつけ適当な遊具を用意させた。

「ならおやつじゃ、妾とおやつを食べよ」

「食わねーよこのあと馬車乗るんだぞ酔うだろが!俺が!」

「つまらぬ男じゃ」

「つまるつまらんの話しじゃねーよ!俺はこのあとの警備配置詰めなきゃいけないし忙しいんだよ!近衛長とトランプでもしてろ、どうせ断われねぇんだから!おい近衛長、ちゃんと面倒見とけ!」

女官からトランプを受け取り、ディアマントの前の机に置く。

すっかり久しぶりの『外』に舞い上がって小娘化した女王をあしらいつつ、「なら皆で食べよ」と女官経由で大量の菓子を受け取りガーネは一層疲れながら後方の車両に戻って行った。


両手にいっぱいの菓子を抱え、疲労困憊といった顔で戻ったガーネを見て、ラズリは手の中の菓子を一瞥した。

「アンタなにそれ」

「おやつ」

「どうしたの」

「………くれた…女王が…」

簡易机に大量の菓子を置き、ガーネは深々と溜息を漏らした。

「…ハァ、まあいい。で、さっきの続きだが。有事の際の配置指示のパターンを決める、基本は今までと同じだが先日も共有した通り俺は今回お前らと行動を共にすることはほぼない、スメイラの指示に従え。その上で、ラズリとアメジは今回は『戦闘員』配置だ。いいな」

「はぁい」

「了解」

「バカとゴリラは覚えらんないだろうから、細かいところは事前に女どもには共有してある。バカはスメイラに、ゴリラはラズリに基本くっついてろ」

「ねぇ待ってガーネ様、バカとゴリラって誰のこと?」

「お前ら以外のどこにバカとゴリラがいるんだ。…カルセは一番臨機応変に、俺のとこ呼ぶかもしれないしスメイラにくっつけるかもしれないし、ラズリにつけるかもしれんがお前は大丈夫だな」

「勿論ですわ、お任せくださいまし」

「まずは乗り換え駅での警戒からだが…速度が落ちるポイントでは常に周辺の警戒怠るな。特にサイフィルの目とカルセの耳。……あまり休む暇はないが、頼りにしてるぞ」


王都を出発した特別編成車両は、馬車に乗り換える予定の目的駅まで順調に走行をしていた。

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