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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十三章『踏査』

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190話「護衛の理由」

中継地入りしたのは、20時過ぎのことであった。


「夜にしか確認出来ない作業を重点的に。他は明日の朝でいい。一旦全員で主要場所の確認を────…」

ガーネの指示で、女王の宿泊予定部屋から最低限の動線の確認を実施し、暗所・外周・退避路の重点確認を全員で行う。

そこから各人で分担をし、確認作業に当たる。

「近衛長は本番で陛下が通るルートの最短動線の確認と扉・窓・鍵・警備配置の確認、それから暗所での護衛配置の実効性と最適化確認を。衛兵長は細かく言わんで良いですね、『敵目線で』外周の確認を。これ俺に教えたのアンタだし」

「わかった」

「魔導師長と巫術官長もベテランなんで俺が言わんでもわかると思ってますけど、魔術系の仕込みと術の通り方、人じゃない違和感の検出やらのチェックを頼みます」

「了解した」

「輸送・厩舎責任者は馬車の配置と出し入れ動線、緊急時の退避ルートの確認と厩舎周りの安全性を見てください。文官長は待機しつつ各報告を整理して地図・記録の更新、各所の通達準備、問題点の優先順位付けを────…で、俺は全体の細かい最終判断と遊撃・緊急対応に回る。ヘルソニア様は最終判断を」

「わかった」


今のところ、均衡の気配は感じない。

しかしガーネは警戒した顔で明かりの届かない箇所や動線を隅々まで確認してく。

「近衛長、俺屋根登ってくる。屋根伝いでの侵入動線が見たい、中でどの程度気配を拾えるか確認してくれるか」

「わかった」

屋根に登ったガーネは、侵入が可能そうな通気口のサイズ感を確認して中に声をかけた。

「近衛長!ここから侵入されたらどこに出る」

「陛下の宿泊部屋の廊下の突き当りだ、そこは通れそうか」

「俺には無理だが、肩幅のない女ならいけそうだ。あとでそこの地点教えてくれ。次、廊下側出る」

革手袋を嵌めて出っ張りにワイヤーを引っ掛け、そのまま廊下側の窓付近に降りた。

近衛長が内側から窓を開き、軽い実践形式で侵入動線の確認をする。

「ここから入って来たらを想定するなら、立ち位置はここだな」

「いや、そこを警戒するのであれば向こうだな。それなら君が先程確認した通気口からの侵入にも対応出来る」

「まじでか。こっちの方がいいと思うけど。『入られた』時に壁が邪魔になるぞ」

「ここならば、あちらの死角も視野に入ってこの曲がり角までは約10歩だ、対応出来る。通さない」

「…俺なら抜けるぞ。遠い」

ガーネのその物言いに少しムッとしたような顔をしたのを見て、少しだけ考えるように口を閉ざした。

「フーン。……一旦お前の思うところ立って警備体勢取ってくれ。止めてみろ」

近衛長が想定する立ち位置に彼を一旦立たせてからガーネは一旦窓の外に出てワイヤーを伝って屋根上に戻っていく。さすがに実際窓を蹴破る訳にもいかない為、窓は開けたまま数分待機した。

開いた窓から、戻ってきた衛兵長の声とヘルソニアの声が僅かに聞こえる。

それに応答する近衛長の声を聞くと、右手に銃を持ち左手でワイヤーを握り、そのまま駆け出して窓からの侵入を果たす。

最大限足音を立てずに着地をすると、警備体制の近衛長も迎え撃つように抜刀の間合いで構えた。しかし、ガーネの指摘通り数歩分遠い。近衛長も実際の距離感に気付きガーネの指摘を実感をしつつ迎撃体勢で足を踏み出すも、ガーネは身を低くして躱し滑るように曲がり角を使って近衛長の迎撃範囲を抜けた。指摘の通り、曲がり角ですら迎撃の邪魔になると近衛長が理解した瞬間にはすでに遅く、ガーネは銃を構えたままあくまでも侵入者の想定で一気に全力で廊下を駆けて行き『女王の部屋』の前まで僅か数秒で到達した。

「…な?抜けるだろ。俺よりももっと隠密の上手い奴なら、もう2秒は早くここ突破するぞ」

「……わかった、なら、君の言う立ち位置だ。だが例の通気口からの場合はどうする」

「それこそ、その通気口を見渡せる逆側の廊下の突き当りだ。正面から迎撃できる」

ガーネは懐に銃を戻しながら、奥側の廊下を指した。近衛長は易々と抜かれた悔しさからか小さく舌打ちを漏らし、納得せざるを得な状況に小さく頷いた。しかし、近衛長の動きはガーネの想定よりはずっと早く対処の体勢に入れている。数歩立ち位置が違えば、普通に制圧されていたであろうと思えた。

「衛兵長、外はどうだった」

「塀伝いに、それこそ屋根に登れそうな箇所があるな。そこの警戒は必要だ、あとは屋根か」

「そうだな、屋根も人配置した方が間違い無い。そこは明日の朝明るくなってから再確認しよう」


そこから、立ち会っていたヘルソニアを交え四人で間取り図と配置を確認し、夜の確認は一旦切り上げてそれぞれ休息を取ることにした。

「ヘルソニア様の部屋の警備、順番で回すぞ」

「私は警備など不要だ、其方たちも休んだらどうだ」

「そういう訳にもいかんでしょ。体裁もありますし、アンタを抜かれちゃ困る。まあ、抜かせる気も無いしヘルソニア様が『抜かれるワケ無い』のもわかってますけど」

「…ふ、そうか。ならば任せよう。ガーネ、警備について少し確認したいことがある、少し部屋で話そう」

「かしこまりました」


ガーネは促されるまま、ヘルソニアの部屋に入る。

「そこに座れ、何か飲むか」

「あー、じゃあ水貰えますか」

ヘルソニアがグラスに水を注いでガーネに差し出すと、ガーネは素直に頭を下げてグラスを受け取って一口水を飲んだ。

「今日は疲れたか」

「いえ、馬車酔いが地獄のようでした」

「ふ…しかし、私も其方の馬車酔いの話はカルセから聞いてはいたが想像以上だったな。とは言え、懸念は無さそうだ」

「まあ、酔いはしますけど動くのは問題ないです。大体、懐に入り込まれ過ぎる前に『勘』が働くんで」

ヘルソニアはガーネの正面に座り、足を組んでガーネを見つめた。

「…勘?」

「昔から、そういう『気配』とか敏感なんですよね。『血』の問題だと思います」

「成程。…で、今日視察した総括はどうだ」

「細かい懸念はいくつかありますが、一番大きいのは中継地前のあの旧道付近での遭遇ですかね。とは言え今日通ってきたルートはあくまで第二候補です。事前に責任者全員で懸念箇所押さえられているので…実際今日のルート使うことになった際は問題なく対処できるかと」

書き込みの増えた地図や資料を机に置き、その箇所を指し示しながら話すガーネをヘルソニアは目を細めて見つめた。

「…?何か、懸念でもありましたか」

「いや全く。…さてガーネよ、各責任者の評価を聞いておこう。衛兵長はどうだ」

「問題ないです。まあ、元々古い付き合いなんで状況によっては目線で呼吸取れるってのもデカい気もしますけど…俺の指導者だった人なので、警備や動き、人の配置管理に関しては全く問題無いです。あんなだけど締める所は締める人ですし。ご存知でしょうけど」

「そうだな。魔導師長は?巫術官長とともに一度揉めているだろう」

「アレは揉めたというか、正確にはあの人たちと揉めたわけじゃないですよ。ヴェルトラウリ区の国境防衛結界干渉の際に当時現場で詰めてた魔導師と巫術官が舐めた態度取ってたから王都に突き返したら、代わりに陛下があの人達寄越して来たのが始まりなんで。まあ、最初は俺のこと気に入ってなかったと思いますよ普通に。でもまあベテランですし、『俺』じゃなくて『仕事』で見てくれるんでわりとやりやすいです、こっちの意図も汲んで動いてくれるし。ただそこそこ年長者なんで、多少持ち上げて仕事しないと機嫌は損ねそうな雰囲気だけ感じてますかね」

「ふ、そうか。近衛長はどうだ」

「近衛だけあって、動きに無駄は無いですね。さすがだと思います。プライドも高いので何より陛下の盾には真っ先になれると思います。ただ感情がかなり顔に出ますね、俺も人のこと言えないですけど。評定ん時から何回舌打ちされたかわかんねぇですもん。…俺のことが気に入らないのは、理解してます。けどそこは今のところ仕事には持ち込んではいないので、問題は全くないかと」

ガーネは一息つくようにグラスの水を飲み、小さく息を漏らした。

ヘルソニアも、ガーネの呼吸を整えたのを見て静かに口を開いた。


「ガーネ、今回の外交…やれるか」

「やれるかじゃなくて、やります」

「…其方、陛下のことはどう見る」


ヘルソニアからの問いに、質問の意図がわからず数秒沈黙した。

「…どう、と…申しますと」

「私に『警備が不要なのは理解している』と話したのとほぼ同義だ」

「ああ、強いかどうかの話しですか。本音で言っていいんですか」

「構わん、その本音を聞きたい。安心しろ。陛下は『聞いていない』し、怒らん」

「いや、俺もあの人がこの程度で怒る人じゃないのは知ってますけど。ぶっちゃけ、警備なんか付けなくても一人で均衡全滅させられるんじゃないかなとは思ってます。俺の魂を位相固定した時しか力の片鱗見てないですけど、正直『魔女』の比じゃないですよね」

「そうだ、正直警備など必要ない。…『城の中では』、な」

含みのある物言いに、ガーネは僅かに眉が寄った。


「…それは一体、どういう意味ですか」

「ガーネ、其方に託している最重要任務だ。例の欠片を奪われ封印されている今、陛下は城の外では本来の力をほとんど使えん。千里眼や予知といった、本人由来の能力こそ残ってはいるが、それとて筆頭の巫術官より少し上程度だ。均衡の上の連中が相手となれば、ひとたまりもない。故に、陛下には護衛が要る」

「それ、俺聞いて良かった話なんですか」

「其方だから話している。故に、陛下は4000年以上国の王として君臨しながら、城の外に出ての外交は今回で13回目だ」

「4000年でたったの13回!?」

「ただの小娘だからな。しかし、陛下からも聞いているだろう。其方たちが『揃った』この時代故に、均衡の動きがここまで活発化したのは初めてだ。それもあり、政治的な意味合いもあって外に出ざるを得なくなった。その最初が、まずは今回の外交だ」

城バルコニーでのお手振りも最小限に留め、何かと理由を付けて外に出ない理由が、ようやく線で繋がった。

ガーネは小さく息を漏らし、ヘルソニアに真面目な顔をして目を向けた。


「……話は、わかりました。けど、それで俺のやることが変わるわけじゃない。俺は最初から、あの人が強かろうが弱かろうが守るつもりです。俺はあの人の犬であることに誇りを持っていますし、今回は護衛最高責任者の任まで直接仰せつかっている。だから手は抜きません。かすり傷一つ、負わせるつもりもハナからない」

「そうか、それを聞いて安心したよガーネ」


ヘルソニアはいつも通りの薄い笑みを浮かべながらも、どこか本音で笑ったように少しだけ表情を柔らかくして小さく頷いた。

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