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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
幕間Ⅳ『閑日』

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197/312

後編

「お待たせー」

「おう、気に入ったのあったのか」

いつの間にか試着室の傍で腕を組んで立っていたガーネが出迎え、ラズリはどれを買おうかと首を傾げた。

「今着たやつ全部。けど…そうね、やっぱ一番最初に着たやつかな。それと三枚目のやつ」

「あー、やっぱな。丁度良かったわ、じゃあ行くぞ」


ガーネはラズリの腕を引き入口へ向かうと、ショッパーを抱えた店員がドアを開けた。

ラズリは服を買うタイミングを逃したと試着に時間を掛けすぎたことを若干後悔しながらも、ここまで約3時間たっぷりと待たせて付き合わせたのもあり仕方がないかと店の外に出た。

ラズリに続いて店を出たガーネが振り返り、店員からショッパーを受け取る。

「ありがとうございました」

「おう、…飯でも行くか。一応聞くけど、なんか食いたいのあるのか」

「………え?ちょ、ちょっと待って。アンタなに買ったの?」

右手にショッパーを持ち、左肘を当たり前のように差し出され条件反射でラズリが右手を添えるも、ワンテンポ以上遅れてガーネが店員から受け取った紙袋の存在を指摘した。

「なにって、お前の服」

「え!?なに!?どれ!?」

「試着してたやつ全部」

「え!!?なんで!?いくらした!?」

「うるせー女だな、いちいちんなこと聞くなよ。店ここでいいか」

面倒そうに眉を寄せたガーネが、目についたレストランを顎でしゃくり入口のドアを開けた。


入口に立っていた案内係がガーネの顔を見ると、すぐに頭を下げた。

「お待ちしておりました。お席のご用意、整っております。ご案内いたします」

「段差あるから気を付けろよ」

案内係に荷物を預け、席に案内される。ガーネは当たり前のようにラズリの手を取り段差での歩行をエスコートし、案内係が椅子を引いた。ラズリは珍しく緊張したような顔で椅子に腰を落とし、同じように椅子に座った正面のガーネを見つめた。

「ほら、好きなもん頼め」

「…アンタ、またここに来て上司感…」

「だから上司だっつの。適当に、俺が食えそうなのも選んで」

ラズリは妙に慣れた様子のガーネを見ながら手元のメニューを開く。

『ちゃんとした店』らしく、メニュー表には値段が乗っていない。


ラズリ自身も、金は持っている方であった。

元々が医者であったし、不本意にも『王命付特務医』にさせられ、直後ガーネのスカウトで特務に入った後も基本給の他、医師資格特殊技能手当だけでなく機密保持手当、待機・緊急呼出手当、外勤・出張手当、異物・呪具・穢汚接触手当など、普通に医師をしていた時の比ではない給料が入ってきている。

ガーネはそれに加えて元の基本給がラズリ以上あることは容易に想像が出来、統裁官職手当や特命任務手当など、ラズリもさすがに把握はしていないが自分よりも相当額の給料が入っているであろうことは想像に難くない。以前、温泉に特務全員で行ったときも結局全額ガーネの私費での豪遊となり、本人も『こういう機会でもないと使わない』と言っていたため総資産は相当あるものと思われる。故に、今回いつの間にか『買ってくれていた』ドレスも、ラズリの概算でも軽く50万は超えていたであろうし、この店も普通に食べたら3万前後はするであろう。

この店の食事代はラズリが出そうと密かに決意をし、改めてメニューに目を落とした。

「…アンタ、好き嫌い多すぎて選ぶの大変なんだけど」

「辛くないの、草とか葉っぱは基本食いたくない。まあでも、こういう店来たらさすがに食うよ多少は。飲めばいいから」

「どういうこと」

「なんか、錠剤飲むみたいに。咀嚼しないで味感じる前に喉通過させる」

「ぶ、なにそれ」

思わず吹き出して笑いながら、ラズリは案内係に適当なコースで注文した。

「お飲み物はいかがなさいますか」

「二人とも酒はいい、俺は水。お前は」

「じゃあアタシはアイスティーで」

「かしこまりました」

案内係が立ち去り、ラズリは改めてガーネを見た。

「…ね、予約してたの?」

「まーな、こういう店はするだろ普通」

「アタシが他の店行きたいって言ったらどうしたのよ」

「その時は予約だけ潰して、後で金払いに来たんじゃねーかな。だってお前絶対『なんでもいい』って言うだろうと思ったし」

「ふぅん。で、なんで今日スーツなの?」

「お前がそういう系統の服着て来るのわかってたし、スーツの方がお前に恥かかせないだろ」

ガーネの返答にラズリがツリ目がちの丸い目を一層丸くした。

「……え、アタシ?」

「まああと単純に、私服がそんなに無い。基本ほぼ毎日仕事してるし…温泉行ったときくらいじゃねーの、あんなラフだったの」

「でもアンタ今日銃持ってるね?」

「お、よくわかったな」

「腕組んだ時に右手、服の下に入れるの癖になってるでしょ」

「いつでも抜けるだろ、いつ連中来るかわかんねぇし。それよりラズリ」

あまり色気の無いいつもの会話をしながら運ばれてきた食事を食べ、ガーネがラズリに視線を向けた。

「…なによ」

「わかってると思うけど、余計なこと言うなよ」

「どれのことよ。今日の『デート』のこと?」

「ちげーよ、服だよ。男が女に服買うって、意味わかってんだろ」

「あー、そっち。大丈夫よアタシ空気読めるから」


デザートのいちごのムースを頬張るガーネを見つめ、ラズリは再び声を掛けた。

「ねぇ」

「うん?」

「アンタ、なんで彼女作らないの?」

「はぁ?なんだ藪から棒に」

「だって正直選り取り見取りでしょ、実際どうなの?結構お城の女の子からラブレター貰ってるの知ってるんだから」

「あー…うーん、まぁ、正直何回か誘われはしてるけど。今は別にいらねぇかな」

「今は、ねぇ…好きな人でもいるんだ?」

「いねーよそんなん」

ラズリは割と核心に迫ることを聞いてみたが、ガーネの性格故かさも本当かのように真顔で即答された。

「ほんとに?」

「んなしょうもない嘘ついてどうすんだよ。大体今の俺の周りにそんな対象の女もいなければ、普通に忙しくてそんな暇ないだろうが」

「待って待って『そんな対象の女いない』!?」

「特務の女の話してんのか、ウチの女は全員『お母さん』だぞお前も含めて。母親とヤれるか」

「そうじゃなくて!もっといるでしょ!」

「もっと?…あー、エナ?…城の使用人に手ェ出してみろよ、色々面倒だろうが」

「…もういいわ」

ラズリはデザートのタルトを食べながら、翌日スメイラへ『報告』しなくてはと改めて心に決めた。

ラズリが視線を外している間にガーネは給仕を目線で呼ぶと、証書を無言で差し出した。

「…いつから彼女いないの?」

「食い下がるなぁ、16…いや、17?二年くらいか」

「フーン…で?年上の顔が可愛い生意気そうな女が好き、と」

「なんの探りだ、誰かに聞いてこいって言われてんのか」

「そうじゃないわよ」

会話を邪魔しないように給仕が革製のケースに伝票とガーネの証書を挟んでテーブルにそっと置いた。それを見て、ラズリはしまったとガーネを見た。

「払った!?」

「払ったよ」

「アタシ出す、払う!」

「馬鹿かお前。こういう店来て、男に恥かかせんなよ。食ったなら行くぞ」

ケースに挟まれた伝票にサインをしてチップを挟み、ガーネは立ち上がった。



店を出て、王城へと並んで歩く。

ラズリも居住区は王城敷地内にあるため、ガーネと向かう場所は同じである。

「ね、ほんっとーに、好きな子とかいないの?気になる子も?」

「いねーよなんなんだ、どんな答え期待してんだよ。叩いても浮いた話は絶対出ないぞ、今は」

「見てたらアンタ、好きな人いそうなんだもん」

「はぁ?好きな人?…え、いなくね?」

「え、こわ…アンタさ、自分のことにほんと頓着ないわよね」

「そうかな。そんなことねぇと思うけど」

「まあいいわ。ガーネ、……あの、今日はありがとう」

「おう、明日遅刻すんなよ」


ガーネはラズリに紙袋を手渡し、王城敷地内で別れた。

その足で特務室に立ち寄り、机に積まれていた書類を持って私室へと引き上げて行った。


────今日は、手の震えは出なかった。胃の痛みも重さも感じなかった。

「…ガラにも無く、『緊張』してたのか。俺は」

王城責任者評定、突然の呼出、そして『護衛最高責任者』。冷静になって考えれば、大役過ぎて緊張をするなという方が、無茶な話だろう。


そう思ってガーネは、書類を持って私室に来たとは言えそのまま横になることにしてスーツを脱いだ。

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