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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十二章『評定』

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185話「蓋」

「また禁書庫から盗んで来たわね」

スメイラに小脇に挟んだ本の存在を指摘され、ガーネはわざとらしく肩を竦めて自席に腰を下ろして本を開いた。

「盗んだとか人聞き悪いな。借りただけだろ、『ちょっとだけ』」

足を組んで本を開いたガーネを見て、アメジが首を傾げた。

「魔導書っぽいけど、なんの本かしらガーネ様」

「詠唱破棄。こないだ樹海でめっちゃ大変だったし、出来たらかっこよくね。無詠唱」

「難しいわよ、あたしだって簡易魔法くらいしか無詠唱で出来ないもの」

「ていうかアンタはまず出力調整覚えなさいよ」

ラズリにものすごく正論を刺され、ガーネは閉口した。そして話題を誤魔化すように、本からスメイラへと視線を向けた。

「そういやスメイラ。お前、前に俺の過去調べやがったんだっけ。アレ、どこまで潜りやがったんだ」

「え?聞きたい?」

「そりゃ、気になるだろ」

「誕生日1月7日、19歳、血液型B。身長181cm体重74kg、利き手は右だけど左も使用可能」

「こわ、俺誕生日とか教えたことないじゃん」

「学生時代の成績は基本オール5、帰宅部、歴代彼女の人数は6人。学生時代の伝説は古いものから言うと『バレンタイン戦争事件』とか、面白いわよ。13歳の頃に99個のチョコを貰って誰が100個目を渡すかで女生徒で戦争が起きた」

「どっから仕入れたんだその情報、俺も忘れてるわそんなん。たしかになんか女連中揉めてたな」

「あとは14歳の頃に絡んできた不良23人全員半殺しで病院送りとか」

「それは俺悪くない。その時付き合ってたのがリルで、なまじアイツがミスコン優勝者だったもんだから『抜け駆けしやがって』的に向こうが絡んできたから返り討ちにしてわからせてやっただけだ」

「15の頃もヤバい連中15人半殺し」

「それも俺悪くない。俺が振られた側なのにそん時付き合ってた女が無いこと無いこと言ったお陰で焚き付けられた連中が喧嘩売ってきた」

「15〜16歳にかけての女の子とっかえひっかえ事件、被害者8人」

「とっかえひっかえは語弊があるし被害者ってなんだ、向こうが言い寄ってきたんだぞ」

「一番ヤバいのは16歳の成人の儀の時に、昔ガーネくんにボコボコにされた男の子が報復に絡んできたのをビール瓶で殴打したはいいけど、成人しちゃったもんだから伯父さんのコネ使っても隠蔽出来ないなと考えた君が口封じの為に欄干から宙吊りにして『喋ってみろ殺す』って脅したやつかな」

「待て待て。なんでそんなの知ってるんだどこで漏洩した。それは一番バレちゃまずいやつだ」

「ねえ、ごめん。アンタ怖い」

「俺はここまで調べてるスメイラが怖いかな」

調べた張本人のスメイラと渦中のガーネ以外はドン引きした顔でガーネを見た。

スメイラに振る話題を間違えたと察したが、時すでに遅し。


特務内の雰囲気がなんとも言えないものになったところで、扉がノックされ近衛兵の一人がガーネに通達書を持参した。

「統裁官、ヘルソニア様より評定招集の通達です」

「ご苦労」

ガーネは通達を受け取り自席に座り直すと、注がれる視線がなんとも言えないもので顔を引きつらせた。

「…お前らその顔やめろよ」

「なんかガーネって、昔からヤバかったんだね」

「サイフィルそれどういう意味だ。まるで今も俺がヤバいみたいだろ」

「結構ヤバいと思うわよ?」

「アメジにだけは言われたくねぇかな」

そう言い返し、通達の中身を確認するため中身を検める。

スメイラが他の『教師論破事件』や『誇大実験科学室消失未遂事件』など、どこから仕入れたのかわからない情報を露呈しているところで改めてスメイラの情報収集能力の高さにある意味ドン引きした。本来、彼女の手腕は『こういうところ』で発揮されるものである。

それを見てガーネがわざとらしく咳払いをした。


「俺の過去の黒歴史はどうでもいい。その能力は今から別の所で発揮してもらう。スメイラ、お前が主導して外遊先までの地図、最新版と古い版も含めて用意しろ。旧道の抜け道とかも全部把握したい。それを今から指示するものと併せて地図におこしておけ」

ガーネの顔と声が仕事のそれに切り替わると、一同も空気を切り替えた。

随分と御しやすく、切り替えが利くようになったとガーネは少し満足そうに笑いながら立ち上がると細かく全員に指示を回す。

「まずスメイラ、候補ルート二本分。広域図と街道図、行程表草案までまとめろ。古い版もだ。ラズリは中継地と会場周辺の施療所、水場、衛生事故、搬送経路。カルセは会場の控室、導線、侍従女官側の必要条件を整理。サイフィルは術式痕、呪具の流れ、妙な噂、いわく付きの地点をまとめろ。で、アメジは物理的に危ない場所、伏兵向き、投擲向き、高所を地図に落とせ。俺はこれから警察に行って治安記録や警ら報告を拾って来る」

「りょーかい」

「なるべく部屋は空けるな、誰か一人は部屋に残れ。基本スメイラにこっちは任せる」

「わかった、警察署ってどこの?」

「本庁と地域所轄、回れるとこ。夕方までには戻る。案件入ったらそっち優先しろ」


王城を出てガーネは警察署の本部へと向かった。向かう最中、先程とはまた違った変な緊張のようなものが湧き上がる。

────情報収集をミスると、今後の外交に影響が出る。失敗出来ない。完璧にやらないと。

情報を集める程度のことなど、今までも幾度となくやってきた。集める情報の種類さえ誤らなければ、大きな問題になることはない。そも、その集めた情報を照合して突合して形にすることが目的の評定である。それは理解出来ているのに、自分が失敗した先のことがどういうわけか頭の中で先行し、胃の奥がまた重くなるような感覚に眉が寄った。


今まで当たり前にできていたことを、きちんとこなすだけだ。

言語化できない自分の中の小さな不穏を無理矢理押し込めて蓋を閉じたガーネは、立ち寄った警察署で目的の資料の写しを用意し始めた。

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