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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十二章『評定』

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184話「最終候補者」

約一週間前、女王側近・ヘルソニアの執務室にて。

執務室内の応接スペースに腰を下ろしたヘルソニアと、緊張した顔の近衛長がローテーブルを挟んで向かい合っていた。


「其方の名は、『近衛騎士候補』としてなお残っている。ただし、これは内定ではない。正式決定は一ヶ月後の外遊における働きをもって下す。なお、候補者名および候補者数は伏せる。見るのは剣技や近衛としての作法のみではない。王の傍に立つ者として、何を見てどう動くか────その総てだと思え」

「私が、…近衛騎士…」

「忘れるな、まだあくまでも其方は『最終候補者』だ。この件は決定が下るまで口外無用、良いな」

「かしこまりました。ありがとうございます」

近衛長は恭しく頭を下げ、執務室を出た。


「────…近衛騎士」

小さく呟き、口元が緩む。


自分で言うのも何だが、若くして近衛長になった自負もある。

近衛長という立場からも、自分が『最有力』であることはほぼ間違いないだろう。

あとは一ヶ月後の外遊にて、『どれだけ見せられるか』だ。


近衛長・ジェレイドは湧き上がるやる気に足取りも軽く、その日から妙に張り切っていた。



*****



「ガーネくん、今ちょっといい?例の件」

「おー、んじゃ出るか。…カルセ、部屋頼む。城出たすぐの喫茶店いる」

「かしこまりました。…外でお話しですの?」

「誰にも聞かれたくない。ラズリたち戻ってきても適当に言っといて」

ガーネがスメイラに声を掛けられた時、たまたま室内にはカルセしかいなかった。立ち上がりカルセに部屋を託し、スメイラを伴って城の外に出たガーネは、一番近くの喫茶店に入り奥の席に腰を下ろした。


「…わざわざ外?」

「城ン中だと、誰がどこでどう聞いてるかわかんねぇからな。別に女王が聞いてるくらいは問題無いけど」

「まあ、ね。…アイスティーでいい?」

「おう」

「すみません、アイスコーヒーとアイスティーで、アイスティーはガムシロ多めでお願いします」

スメイラが店員に声を掛け、少しして注文した飲み物が届いたところでスメイラが本題を切り出した。

「…で、本題。結構色々わかったよ」

「さすが。聞こうか」

スメイラは封筒から紙を取り出して中を確認するように読み上げた。

「ジェレイド・エルンスト・ジェスチェルト。25歳、近衛長。近衛長には24のときに就任」

「へぇ、思ったより若いな。26、7くらいかと思ってた」

「そんなの君だって…いや君は年相応か」

「なんだそれどういう意味だ」

「クソガキなところを見ちゃったら大人びて見えても年齢を実感して19歳にしか見えないって話だよ。…ま、君のクソガキは置いといて…ええと、身長186cm、体重79kg、血液型はA型。好きな食べ物はローストビーフで甘味はあまり好まず塩味寄りを選ぶ傾向にあり…」

「待て待て待て。いらんいらん、なんだその情報」

思わず制止させたガーネに、スメイラはやや不満そうな顔をしながらアイスコーヒーを一口ストローで飲んだ。

「君が調べろって言ったから」

「才能ありすぎてビビるわ。俺が『欲しい』のそこじゃねぇのわかってんだろ」

ガーネもスメイラと同様に、かなり甘みのついたアイスティーをストローで飲む。グラスを置いて本題の本題に入る前に、姿勢を崩して足と腕を組んだ。

「当たり前でしょ。一応君の補佐なんだから。…えーとね、16で基礎学習課程出た後は君と同じく官職課程に進学。順当に3年で、19で卒業。ガーネくんみたいに飛び級2年での卒業ではないけど、通常4〜6年で卒業って考えたらまあ普通に優秀エリート枠だね。で、卒業後は王城勤務、配属先は近衛。実家は近衛含め武官が多いジェスチェルト伯爵家、彼はそこの次男」

氷が少し溶けて、グラスの中でカランと音を立てて崩れる軽い音が小さく鳴る。ガーネは手を伸ばしグラスを持つと、再びストローでアイスティーを飲み小さく息を漏らした。

「…そりゃ、俺みたいなぽっと出が気に入らねぇのも、ああいうお坊ちゃんからすりゃ当然か」

「まあ、それもあるとは思う。裏取りは出来なかったけど…割と、ほぼ確実な話しが一個あって…」

「なんだ」

「彼、『近衛騎士の最終候補者』らしくて。ここからは半分推察も入ってる情報だけど、どうやら例の陛下の外遊が、最終査定らしい」

「ほー、成程な。そりゃ、評定であんだけ俺に噛みつくわけだ」

「…何があったの?」

「単純な話だ、『特務は王都でも守って留守番してろ』『陛下の護衛は近衛の任だ』って。まあ何も間違っちゃいないんだけどな、言わんとしてることは」

「で、君が最高責任者に?」

「均衡が来た場合にどう陛下を守るんだって話で論破してやった」

「あー、想像つく。反論の余地がないくらいに言い負かしたんでしょ」

「当たり前だろ。野郎、『特務は私が代わりに引き連れよう。君は王都の警護が妥当だ』まで言いやがったんだぞ。俺にだって、あそこの組織の長であるプライドはある。…とにかくだ、アイツが俺に妙に突っかかってきた理由は『騎士候補』だな、納得した」

ガーネはスメイラの手にある書類を取り、記載された今口頭で聞いた内容を目でも確認してからポケットからジッポライターを取り出して火を付けて燃やした。

燃えた灰を灰皿に落とし、伝票を持って立ち上がった。


「わかってると思うが、人事に関しては他言無用だ。それが漏れたことでアイツの騎士候補が白紙になるのは、アレの実力が正当に評価判断される機会の損失だ」

「わかってるわよ」

会計を済ませたガーネは、城ではない方向に足を向けた。

「禁書庫寄って帰る、カルセに言っといて」

「はーい」


大図書館へ足を進めたガーネは、胃の奥が重くなるような感覚を覚えた。

胸元を無意識に押さえる手が、僅かに震えていた。

「…近衛騎士、ね…」

経歴も役職も立場も、『近衛騎士』には申し分ないと思う。ただその反面、彼が騎士に内定してしまったら自分の『犬』『駒』としての立場はどうなるのだろうか。

遠回しに、『また』いらないと言われているのだろうか。

────外交警備、失敗するつもりも彼女に怪我をさせるつもりも毛頭ない。

やるからには、全力を尽くし、全身全霊で守る。その気持は変わらない。


「…『今度は』間違えないようにしないと」

一体前回、何を間違えたのか。

ああ、そうか怪我をしたからか。カルセに怪我もさせた。


役立たずには、二度となりたくない。



「お呼びでしょうか、近衛長」

「急に呼び立てて済まないな。君に内々で調べて欲しいことがあってだな。統裁官…ガーネ・ディーム・ロット、彼の経歴・職歴含め…調べられる範囲のことを全て調べて欲しい」

「かしこまりました」

近衛長は、近衛次長にガーネのことを調べるように秘密裏に指示をした。


窓の外を見ると、少し遠くに小脇に書籍を抱えたガーネの姿を確認出来た。

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