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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十二章『評定』

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183話「特務隠語」

「戻ってたか」

特務室に戻ると、スメイラとラズリが机に向かって書類仕事をしており、カルセを中心にサイフィル・アメジとが遠征の片付けや任務の片付けをしていた。

ガーネも席に腰を落としてネクタイを緩めながら足を組んで座ったところで、スメイラに声を掛けた。

「外、どうだった」

「ああ、うんアレ…、は……」

顔を上げたスメイラが無言になり、それに反応したようにラズリも顔を上げてスメイラとガーネを見た。そしてラズリもガーネを凝視して手が止まったため、ガーネは小さく首を傾げた。

「なに」

「…くち」

「口?あ、やべ」

くち、と言われ自らの唇に触れる。指先に口紅の赤が移り、何故無言になったのかを察すると手の甲で唇をぐいっと拭った。

「アンタ、何しに行ってたのよ」

「樹海の報告と評定の文句」

「……あっそ」

「で、外は」

「ただの魔道具の事故。端的に言うと『まぜるな危険』みたいな感じよ」

「そ、古物商に流れ着いた古い小箱をね、対になる鍵で正しい解錠手順で開けないといけないのに別売りの開封補助鍵みたいな便利道具でこじ開けようとしたものだから、結果封じられていた防護魔力が漏れて集団昏倒に繋がった…って感じだったらしいの。だから全然特務案件じゃないから、引き継ぎ書作成中」

「そうか、お疲れさん。ほんとに『俺が出るまでもない』案件で良かったよ」

ガーネは評定で啖呵を切った手前現場に行きづらかったのもあり安心したように息を吐いた。

「…なんか雰囲気ヤバかったもんね。なんの会議だったのアレ。聞いて良いのかわかんないけど」

「あー、うん。まあ、あとでな。…お前ら、飯は?」

「まだ」

「よし、なら飯行くぞ。焼き肉でいいのか」

官服を脱いだガーネが財布を持って立ち上がると、樹海での約束通り一同を伴って数日振りのまともな食事に出かけた。


「ほんとにいいのガーネ、ここめっちゃ高いとこだよ!」

王城に近い焼肉店の前でサイフィルが興奮気味に店先を指差して嬉々として問いかけた。

「別に構わねーよ焼き肉くらい。それにここが一番近いし。さっさと入れ」

店内は高級店らしく個室になっており、奥の個室に通されて適当に腰を落としたガーネはメニューをサイフィルに向かって投げた。

「適当に、食いたいやつ好きなだけ頼め」

「きゃーガーネ様太っ腹!素敵!」

きゃっきゃとはしゃぐアメジとサイフィルを見て、ラズリが呆れたようにガーネを見た。

「だからなんでアンタこういう時は上司ヅラすんのよ」

「上司ヅラっつーか、お前らの上司なんだけど一応。俺アップルジュース」

一同がわいわいとメニューを眺めて言葉通り適当かつ遠慮も無しに注文を羅列しているのを聞き、やや呆れたように頬杖をついた。

「何をどんだけ好きに飲み食いしていいけど、食える分だけにしろよ」


ある程度食事も進み、口直しにデザートのアイスを頬張るガーネはまだ何も知らずに呑気に食事を楽しむ一同を一瞥した。

「…仕事の話をしていいか」

ガーネの低い声に全員の声がぴたりと止んだ。

「先程の評定で共有された内容だが、あの引きこもり女王が外交に出ることになった。出立は一ヶ月後」

「が…外交?初めてじゃない?」

「正確には82年振りだな、さっき記録見た。…で、均衡の脅威対策として特務も出る。お前ら全員、連れて行くつもりだ。それに伴って俺はしばらく評定やら下見で出たりで忙しくなると思うから…俺の不在はスメイラが代行、ラズリが補佐でお前らで特務回せ」

「まあ、ガーネ様も下見に行かれるんですの?」

カルセが少し意外そうに首を傾げた。それを受けてサイフィルとアメジも何故か同意するように小さく頷いた。

「当たり前だろ。自分の目で確認しないと行程も現地も誰をどこに配置するかの最終判断が出来ない。それに、今回の護衛任務は俺が最高責任者に任じられた」

「あー。なるほどねそれであの雰囲気。女王と衛兵長だけ妙に笑ってるし他は『成り行き見守ってます』みたいな」

ラズリが評定の間に入った際の空気感を思い出したのか、肩を竦めて納得したように返した。

「さすが、あの短時間で良く見てるな。で、『三番』ってなんだよ」

「わかってるくせに、大体アンタもスメイラがお風呂行ったのわかった上で『スメイラはどうした』って聞いたでしょ」

「当たり前だろ。俺の体裁もあるし、お前とスメイラの建前も通さないとだろうが。俺がわかってるかどうかじゃなくて、あの場でどう見えるかだ。特にあの時は隣の野郎にアホほど噛みつかれてた最中だしな」

「…アンタほんと、そういうところよね」

「ラズリやスメイラが俺のことバカバカ言うけど、俺だって考えてない訳じゃない」

「私や先輩が君に言うバカはそういう意味じゃないよバカ」

「ついでに聞くけどラズリ、二番と一番はなんだ」

「え?うーん…そうね…じゃあ、一番がトイレで二番はご飯。かしら」

「んッ…その隠語、使う機会作りたい…」

「ガーネ様、先程からずっと『三番』で笑ってらっしゃるかと思ったらそういうことでしたの」

くだらない事で笑いのツボに刺さったガーネを少しだけ意外そうに見つめながら、食事を終えて席を立った。


「お会計、42万324ヴェルでございます」

「え」

ガーネは財布を持ったまま伝票と店員を二度見した。

「……証書で」

「ありがとうございました、またお待ちしております」

証書で決済を済ませサインをして店を出る。

「ガーネ様ごちそうさま〜」

「ガーネももっといっぱい食べればよかったのに」

呑気な顔で満足そうにお礼を言うアメジとサイフィルにやや顔を引きつらせてガーネは財布をポケットにしまった。

「7割お前らの分だぞビビるわ42万て。飲食代最高額更新したんじゃねーの。…まあいいけど…俺の望む働きをしてくれよ」

樹海での一件が済んだ開放感からか、一同は疲労もあってかテンションが妙な方向に高い。ガーネは王城へと戻る道すがら、その後姿を見て小さく笑いながら肩を竦めた。

それから表情を変えると、スメイラを呼び止めた。

「スメイラ、ちょっと」

「なに」

ガーネは歩調を緩め、特務の人員からやや距離を取るように後ろをゆっくりと歩く。それに合わせるようにスメイラもゆったりとした足取りでガーネに並んだ。


「お前に一つ、仕事を頼みたい。密偵みたいな真似をさせて悪いが、特務の連中にも知られないようにとある人物のことを洗って欲しい。できる範囲で構わん」

「りょーかい、誰のこと?」

「…近衛長、ジェレイド・エルンスト・ジェスチェルト」

「………なんでまた」

「喧嘩を売られた。さっきも言ったが、今回の外交護衛に俺が最高責任者になったはいいが、同じ感じで噛みつかれて有事の際に万が一があると困る。噛みつかれた理由が知りたい。単純に俺が若くて気に入らんのか、『寵愛人事』が気に入らんのか、別の理由があるのか」

「オッケー、数日ちょうだい」

「頼んだぞ」

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