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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十二章『評定』

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181話「寵愛人事」

完全に言い負かされた近衛長は、次の言葉が出てこずに口を閉ざしてしまった。

だがまだ折れてはいないようで、次の一手を探すように僅かに視線が泳ぐに留まった。


────随分と、根性のある男だ。

ガーネはここまで論破されてもまだやる気の男を見て久しぶりにやりごたえのある相手だと腕を組んで目を細めた。

反論するのを待つように、敢えてガーネも口を開かずに笑みを浮かべて黙って視線を注いでいた。


ヘルソニアがふいと女王に視線を送り、女王はそれを受けて肩を小さく竦めた。

「…近衛長」

「は」

近衛長はヘルソニアに呼ばれ、慌てて姿勢を正して向き直った。

「数日前、私は其方に伝えたはずだ。次回で決める、と。…統裁官の言う通り、『目的がなにか』を見誤るな。仕事の見せ方は一つではない」

「……は」

「座れ。…さて、ガーネよ」

「はい」

近衛長が着席し、ヘルソニアはガーネに向き直った。

「一応、其方のそこまでの話しを聞いた上で問う。配置はどのように考える」

ヘルソニアのその言葉に、少しだけ他の長がざわついた。

この簡易的な資料を見ただけで、どう警備体制を組むのか確認することに純粋な戸惑いがあったからである。


「率直に、申し上げてよろしいのでしょうか」

「構わん。あくまでも聞きたいのは其方がどう考えるかだ。最終判断は陛下が下す」

「では、恐れながら。…まず移動ルートですが、第四候補はナシです。死角になる場所が多過ぎる、いくら衛兵の配置を手厚くしても特にここで潰されます。第三候補に関しては……ここですね、待ち伏せされたら回避場所が無い。ついでにこの先のこの中継地、確かに広くて整備はされていますが、俺が警察官時代に制圧に入ったことがある地点です。純粋に治安が良くない地域なので陛下の御身をそのような箇所に置きたくありません。それと肝心の会場配置ですが…野次馬などの群衆が押し掛けることも想定に入れると、封鎖区域は広く持つべきかと。ただし、陛下の久しぶりの外遊とあっては顔見せも必須、それを考慮してギリギリの境界はこの辺でしょうか。会場内の配置はここからここまでの区画は衛兵、ここに魔導師・巫術官。特務はここに置きます。近衛はここで…俺はここに。全体を見れてかつ、いざと言う時陛下の前に飛び出せます」

資料を配布されたものの数分後に、これだけの盤面を構成していたことに一同は閉口した。

ガーネは資料を再度捲り、見取り図をとんと叩いてヘルソニアに向き直った。


そこで、扉がノックされて開かれた。

「失礼いたします、特務の者が取次ぎを願い出ております」

入口にいた近衛が短く要件を伝えると、ディアマントが「通せ」と返した。数秒後、室内に入って来たのはラズリであった。


室内の雰囲気を見て一瞬だけ身構えたような顔をしたラズリは、資料を片手に起立しているガーネを確認してから形式上一同の前で静かにカーテシーをした。

「評定中失礼をいたします。ガ……統裁官、至急の報告がございます」

ガーネはちらりとヘルソニアへ視線を向け、頷きを返されるとラズリへと視線を投げた。


「…どうした」

「集団昏倒報告です。毒物反応無し、遺物の可能性があります」

「場所は」

「南区の繁華街裏」

「被害状況」

「初報では一般人六名」

「封鎖状況」

「衛兵が実施、範囲までは聞いていない」


ガーネは一瞬だけ黙り、僅かに考えた。

何故ラズリが来たのか。スメイラは『順番で風呂』か。

そこまで判断しはしたが、ラズリがわざわざここに来た理由をわかりつつ、ラズリなら察することができるだろうとガーネは口を開いた。

「スメイラはどうした」

「三番です」

「ふ、そうか。今誰が残ってる」

「サイフィル、カルセ、アタシ」

「アメジも『三番』か」

「はい」


────『三番』てなんだよ、こっちの世界で初めて聞いたわバイトかよ。

そうは思っても、ラズリも今の評定の間の空気が理解出来ない馬鹿な女ではない。それはガーネが一番わかっていた。だからこその返答であったと理解する。

ガーネは思わず小さく笑いながら、衛兵長へと視線を向けた。

「衛兵長、人借ります。二番隊長はいますか」

「おう、好きに使え」

「ありがとうございます。…ラズリ、お前とサイフィルで出ろ。やる事はわかってんな。カルセを連絡用に残して、三番から戻り次第アメジとスメイラを第二陣で向かわせろ。俺が出るまでも無い」

「かしこまりました、仰せの通りに」

再度頭を下げて退室したラズリを見送り、ディアマントへ向かって頭を下げた。

「失礼いたしました。──── …で、話を戻しますが。先程お伝えしたのはあくまでも『草案』です。警備体制、人員配置に関しましては実際の行程・行路、会場、出入口や広さ、収容人数、避難経路、全てこの目で確認しない事には最終判断は出来ません。以上です」


そこまで聞いて、ディアマントは肩を揺らして声を上げて笑った。

「ふっ、ふふ…ガーネよ、お前に一つ問う。式典中に均衡が現れた際、お前はどう動く」

「まずは陛下の御身を近衛に託します。その上で、現場制圧に」

ガーネの迷いのない即答に、ディアマントは再度目を伏せて笑みを零した。

それからほんの少しだけ考えるような間を持たせてから、目線をヘルソニアへと投げた。

「ヘルソニアよ、決まりじゃ。此度の外交、…妾の護衛の最高責任者はあの男とする」

「はい陛下。…では、統裁官。其方が護衛最高責任者として、此度の任の指揮を一任する」

「かしこまりました」


それを聞いて、あからさまに面白く無さそうな顔で小さく近衛長が「寵愛人事が」とガーネにだけ聞こえるように漏らしたのを、ガーネの地獄耳は聞き逃さなかった。

────大人しくこのまま口を閉ざしていれば良いものを、最後の最後に噛み付き方を間違えたな。と呆れ半分潰し半分でガーネは笑みを浮かべた。

「近衛長、『人事』に関しての最終判断は陛下にある。今の『寵愛人事』との言葉、陛下に聞こえるようにもっとでかい声で異を唱えたらどうだ。陛下はそこまで狭量ではない、言ったからと言って怒りはしないだろう」

それだけ言うとガーネは着席して近衛長を見て顎でしゃくって見せた。

「なんじゃ近衛長、妾の決定に異があるのか。聞いてもよいぞ。──── ただし、今しがた確認した特務の重要性とこの男の力量、采配に『純粋に』文句があれば…だが。…ちなみに、他の者はどうじゃ。この男をお前たちの上に据えて、不服のある者はおるか」

「俺は異議無しです陛下」

「私も異議無し、適正と判断致します」

「儂も、特に異論はない。実際にこの男と共に働いたからこそわかる」

衛兵長に続き魔導師長、巫術官長も異議は唱えなかった。

「……過ぎた言葉を申しました。申し訳ございません、異論は…ございません」

「そうか、ならば決したな」

ディアマントの言葉にヘルソニアが一同を見回し、資料を机に置いた。

「詳細はまた追って決める。本日の評定は以上とする」

その締めの言葉を持って、ディアマントが立ち上がり続いてヘルソニアも立ち上がる。

他の一同も同じように立ち上がり、女王へ向かって頭を下げたが、入口に向かって数歩歩いたディアマントはふと足を止めて振り返った。

「そうじゃ、ガーネ」

「…は」

名前を呼ばれ、顔を上げたガーネの視線はディアマントとしっかり絡み合った。

楽しげに機嫌が良さそうに笑ったディアマントは愛らしい顔を綻ばせちょこんと首を傾げた。

「ティエフの魔女…『終焉』には会えたのか」

「はい、無事に」

「どうであった」

「まあ、『相変わらず』ですね」

「ふ、そうか。ご苦労であった。詳細はまた直接聞こう。後で妾の部屋に来い」

「承知いたしました」


改めてガーネが頭を下げると、ディアマントは満足そうに笑って評定の間を退室した。

それを受けて、隣の近衛長が面白くなさそうに小さく舌打ちを漏らしたのも、ガーネは漏れなく聞こえてはいた。しかし、もはや相手にするつもりもなかった。

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