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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十章『再縛』

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158話「認証許可」

『禁書庫』の扉を開き直すと、問題なく呪物安置室で安堵した。

そこから管理指定図書区域を出て、王城へと戻っていく。

執務室の扉を開けると、見慣れた面々の顔が出迎え、異常な程にホッとしてしまった自分に気が付き何とも言えない感情が湧き上がった。

「おかえり、思ってたより早かったわね」

「……?ガーネ様?」

入口前で佇むガーネを見て首を傾げたカルセをちらりと見てから、ぐるりと室内を見回す。

「…今日は俺このまま部屋戻る。緊急案件来たら呼びに来て」

「え、うん、どうしたの?具合悪いの?」

ラズリが心配そうな目を向けるのを断ち切るように、顔を背けた。

「……悪い、ちょっと、一人にして」

それだけを告げると、静かにドアを閉めて私室に向かう。

荷物を机に置き、官服を脱いでベッドに転がって天井を見上げて深く息を漏らした。


「──── …俺、ショック受けてんのかこれ」

ぽつりと漏れた声が室内に小さく響いた。

ゆっくりと目を伏せ、先程見た戸籍や血脈録、系譜図の文字の羅列が瞼の裏に焼き付いている。


自分の出自については当然知っていた。

自分の『母』について知ったのは、7つか8つの頃。その頃にやっと「ああ、だからか」と、変に色々と腹落ちしたのを覚えている。

幼少の頃から言い聞かされていた、『真名は必ず秘匿しろ』の言葉の意味をその時に理解した。

そして、19になった今、改めて自分の『存在』を突きつけられた。


なら、やはり自分は『役割』を全うする以外は許されない。

死にたくはない。痛いのも嫌だ。

なら、死なないように立ち回らなければ。


目を開き、先程付けた左手の切り傷を見つめた。


「このタイミングでコレか。……俺、あの人苦手なんだよな…」

────明日から、各方面の調整をしよう。


ふう、と小さく息を漏らし、ガーネはそのまま意識を沈めようと目を瞑って寝る体勢を取った。



*****



翌早朝、『いつも通り』の顔で特務室に向かう。

昨夜やらずに放置した書類に手をかけ、ペンを走らせる。

少しするといつも通りの時間に特務の面々が順番に顔を出し始め、いつも通りの朝が始まる。

「……あ、そうだ。スメイラ、これ。サンキュ」

首元からネックレスを外してスメイラへと差し出す。スメイラもそれを受け取り、ガーネの顔を見た。

「もういいの?」

「いや、まだ行くつもりだけど……もう『入れる』んじゃねーかな。一番奥は暴いて書き換えて来たし、女王も知ってんだろ」

「……私は君が怖いよ、ほんと」

「はは、お褒めの言葉ありがとよ」

「あんまり褒めてないけどね」

それから銀ペンを持ってアメジの元へ近寄る。

「アメジもこれ。ありがとな」

「どういたしまして」

「……ちょっと待った!ガーネ、アンタこの手なに!?」

アメジの傍に寄った際に、目敏くラズリがガーネの左手の傷に気が付き手を掴んだ。

「あ、あー。ちょっと切った」

「ちょっと?ちょっとの傷じゃないでしょ、明らかに刃物による切創じゃない」

ラズリがガーネをソファに座らせ、いつの間にか揃えていたらしい応急処置用具一式をローテーブルに置いて隣に座った。

「はい、手出して」

「大袈裟。つーかいつの間にそんなん用意してたんだよ」

「怪我の絶えないクソガキがいるからね!早く出せ!」

いかにも渋々といった様子で左手を差し出したガーネの手の傷を確認し、消毒をしてテープで固定した上で包帯を巻いた。

「…アンタね、なんでこんなとこ切るのよ」

「そりゃ、それなりに血が出る場所だからだろ」

「よりにもよって親指付近なんてよく動かす場所なんだから、ちゃんと手当しないと治り悪くなるでしょ」

「次からもう少し違うとこ切るようにしようと思いました、反省」

「だから反省の方向がおかしいのよ!あと雑!!……で?何かあったの。どうせ言わないんだろうけど」

「どうせ言わないのわかってんなら、いちいち聞くんじゃねーよ。野暮な女だな。何もねーよ」

「ハイハイ!今日はそこ動かすんじゃないわよ!」

「わかったわかった、わかりました」


何か落ち込んでいるような、打ちのめされているような顔だった。

ただ、ガーネの性格上聞いたところで『言わない』のは、特務の誰もがわかっていた。

それは昨夜、禁書庫から戻ってきた時のガーネの顔で、既に『何かあった』のは全員理解していた。

ガーネという男は決して弱くはない。しかし、年相応にそれなりに傷つきはすることも、それを自己処理出来ない自分に対する雑さがあることも、自己認識が低く役割依存であることも、先の『統裁官更迭騒動』で全員が痛感していた。

ガーネは決して感情が顔に出やすい男ではない。だが、長く同じ部屋で過ごしてきた彼らには、そのほんのわずかな沈黙や声音の沈みだけで十分だった。怒りや苛立ちではない、もっと扱いづらい感情を抱えていることくらい、もう誰の目にも隠せない。


溜息をついたのは、ラズリだけではなかった。


そんな一同の気を知ってか知らずか、ガーネは机に積まれた禁書庫から持ち出した書籍を抱えて入口に向かった。

「あれ、ちょっと待ってどこ行くのよ、『終わった』んじゃないの?」

「あー、まあもう少しな。大丈夫、今日は30分以内に戻る」

「ガーネ」

珍しく真面目で静かな声音で、ラズリがガーネを引き止めた。

「……なんだよ」

「前に約束したでしょ。覚えてる?」

「わかってるよ。それは約束する」

それだけ告げて、ガーネは改めて大図書館へと向かって行った。


大図書館の奥の区画、管理指定図書区域。

昨日まではスメイラの鍵が必要であった。

検証はしていない。

本まで抱えて来て、入れなかったら無駄足でしかない。

ガーネは自分の左手の指輪を、入口の封魔法陣へ翳した。


カチャリと、聞き慣れた解錠音が小さく鳴り、初めて『ガーネの鍵』が認証された。

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