154話「悪しき力の権化」
その足でガーネは一度管理指定図書区域を引き上げ特務室に戻った。
両手には先程書き写した魔法陣と何冊かの書籍を抱えている。
「おかえり。遅かったね」
「まーな。スメイラ、ネックレス数日貸しといて」
「…無くさないでよ」
「無くさねーよさすがに」
ドサっと書籍を数冊机に雑に置いて、埃っぽい官服を脱いだ。
「あー、くたびれた。カルセ、なんか飲むもんと軽く食うもんくれ」
「ビスケットくらいしかないですがそれでもよろしいですか?他のものがよろしければ購入してまいりますわ」
「めんどくせぇからそれでいい、あとスメイラさっきの件どうなった」
「封印札だよね、結論『あの施設から新施設に移った時に全てのものは移動しているはずだから、そんな札一枚が残っているはずもないしウチは王城書記局記録管理室だぞ、そんな札なんか知らん』…だって」
「だろうな。まあ裏取りできたからそれでいい、サンキュ」
「どういたしまして。で?その本なに」
スメイラの視線はガーネの机に積まれた書籍に移っており、呆れたように目を細めていた。
「禁書庫からパクってきた。こっちが『禁術魔法事故録第六版』、これは『新解・よくわかる魂の剥離と人体の破壊〜図解付き〜』、それとこれが『対人制圧における急所封鎖術』 『近接戦闘における補助術式運用論』。いいな禁書庫、宝庫だわ」
「陛下に怒られても知らないわよ」
「だから言ってんだろ。怒られねーよ『これ』は」
カルセが用意したビスケットを齧りながら、挑発的に返す。
そして積み上げられて羅列された書籍のタイトルに、サイフィルが一番余計な一言を発した。
「ガーネさ、これ以上人殺す手段増やしてなに目指してるの?殺し屋?」
一瞬だけ特務室内がしん、と静まる。
サイフィルの言葉に、ガーネが「ははは」と小さく笑った。
「そうかもしれねーな、だって俺『悪しき力の権化』だし。な?サイフィル」
「あ、ごめんなさい。ほんとにごめんなさいすみませんでした」
「聖なる力なんて無いからな、抹殺するしかないもんな、お前の魂ごと。どうやって殺されたい?精霊の餌にしてやるか、地霊への生贄にするか。それともシンプルに銃殺してやろうか。ああ、最近引き籠もってたから腕鈍ってるかもな。的には丁度いいか。どこに撃ち込んだら一番苦しいのか検証しようぜ」
「ねえごめんなさい!!僕ガーネのこと大好きだよ!!」
「心配すんなって。俺警察学校時代は射撃成績良かったから、即死しないようにきちんと狙えるよ。それに俺は、別にお前のことそんなに好きじゃない」
「アンタやっぱり悪魔と契約でもしてんの?」
「冗談だよ。…半分」
半分、とはっきり吐き捨てながらスメイラから預かったネックレスを無くさないように自分の首に掛けた。
「遅いし、なにも無いならさっさと上がれ」
スメイラとラズリ以外がぞろぞろと引き上げ、ラズリもある程度のところで切り上げて退散していった。
相変わらずスメイラは書類の山を睨んで向き合っていたが、集中が切れたタイミングでペンを置いた。
「22時か…ガーネくんまだ仕事?」
「ん?あー、もうそんな時間か」
ガーネも書類仕事を片付けていたが、スメイラの声で顔を上げ時計を見た。
「明日から違うことしたいから、こっち今日中に片付けたい。さっさと戻ってたまには早く寝ろ」
「それこっちの台詞なんだけどね。君、昔私に社畜ワーカーホリックとか言ってたけど今じゃどっちがって感じだよ」
「はは、確かに」
「上がる前にお茶くらい淹れるよ。なにがいい?」
「あー、うーん…悪い、売店でおにぎりかパン買ってきて。ビスケットだけじゃやっぱ腹減るわ」
「でしょうね。他は?」
「適当に甘いのと茶でいい」
「はーい、待ってて」
十数分後、スメイラがおにぎりを2個とおやつのチョコレート、缶のお茶を3本買って机に置くと「あんまり根詰めないでよ」と言い残し部屋を出た。
「…随分気の利くラインナップだな」
さすが一番付き合いが長いだけあるな、と変な感心をしながらおにぎりの包みを開いて齧り、半日禁書庫に籠もったせいで溜め込んだ本日分の書類に向き直り直した。
日中の案件についてはスメイラがほぼまとめておいたらしく、簡単に注釈含め書き足してサインをする程度で良かった。
改めて机に積んだ書類を見つめる。
権限を剥奪されて名ばかり統裁官になり、書類仕事だけを命じられた折りにほぼ片付けたはずの書類は、その後も細々したものが溜まりに溜まってスメイラだけで処理しきれずにいる。
回せるものはラズリにも回してはいるが、さすがに案件が細々とありすぎて手に負えない。
とは言え、カルセに任せてこちらの手が止められるくらいなら自分たちでやったほうが早いとどうにも自分もスメイラも判断してしまい結果自分で自分の首を締めている。
サイフィルとアメジは論外である。
「…しかしなぁ、そんなどうでもいい指導育成までしたくない…」
多少の時間を犠牲にしても『育成』した方が今後楽なのは目に見えている。しかしその方向に根気を割く労力まで持ちたくない。
ガーネは深く溜息を漏らしながら、チョコレートを一欠片割って口に放り込んだ。そのまま山の一番上に手を伸ばし、手にした警察移管案件の仕分け書を見て面倒そうに眉間を揉んで眉を寄せた。
他にも書類は文字通り山のようにある。関係部署からの照会返答、呪物・証拠品保管台帳の更新、封鎖継続許可願、回収遺留物の確認書など。
「あー、めんどくせぇ…」
すっかり集中の切れたガーネは禁書庫から無許可で持ち出した本を手に取り、気分転換に一冊読んでから渋々再度書類へと向き直った。




