150話「やればできる」
「ガーネごちそうさま〜」
「お前朝からよくあんなに食えるよな、10人前は食ったんじゃねーの」
「そんなに食べてないよ、遠慮したし7人前だよ」
「……あっそ…」
その不健康そうな細い身体のどこにそんなに入るのかと思いながら、サイフィルと共に王城へと向かう。
特務室へと戻った頃にはそれなりにいい時間になっており、全員が既に部屋にいた状態であった。
「めっっっっずらしい組み合わせ。なに、朝から二人で」
スメイラとラズリと食事をした後も私室で書類仕事を多少片付けてから寝た上に明け方前に叩き起こされ、疲労と眠気で盛大に欠伸を漏らして椅子に腰を下ろした。
「案件で現場」
しれっと答えながら官服を脱ぎ、特に出番のなかった銃やホルスターを外して片付けていると『現場』と聞いたラズリがぴくりと反応した。
「現場ぁ!?アンタ、現場禁止ってアタシ言ったわよね!」
「うるせーなわかってるよ。…初報自体はお前が懸念してるような内容じゃない、だからサイフィルだけ叩き起こして連れてったんだよ」
「そうは言っても」
「大体な、魔導師伴ってでもお前らが座標見たとして、その先に『俺が何を拾って来て欲しいか』『俺が欲しい情報』に現場ごとに気付けて動けるんならお前らに行かせてるよ。これはお前らの力を見くびってるんじゃない、前にも言った通り俺はお前らを評価してる。その上で、『俺には俺の領分』がある。毎度言うが適材適所ってやつだ」
一同はぐうの根も出ずに黙り込んでしまう。
それを見て勝ち誇ったように笑みを浮かべたガーネは腕を組んで背凭れに寄りかかった。
「口喧嘩で俺に勝とうなんざ10年早い。カルセ、1時間経ったら起こせ。少し寝る」
「かしこまりました」
深く眠り過ぎないように、自席で椅子に座ったまま少し姿勢を崩して目を瞑ったガーネに、スメイラは肩を竦めて昨日の書類の続きに取り掛かった。
ガーネの小さな寝息が聞こえ始めて20分にも満たない頃、特務室のドアが叩かれた。
その音を聞いた時点でガーネは意識が覚醒していたが、案件内容によってはそのまま寝た振りをしようと目を閉ざしたままでいた。
「失礼します、特務案件の可能性ありです。王都北区、使われていない旧記録庫にて不審事案発生。保管棚脇に残されていた古い封印札の一部が一時的に発光し、現場確認に向かった衛兵からは『近づいた際に一瞬だけ音のようなものが鳴った』との報告が入っています。現時点で負傷者なし、実害も未確認。ただし術式、呪具の類の可能性ありとして特務判断待ちです」
「わかりました」
スメイラが短く返事を返し、確認であればガーネ以外でサイフィルが視れば事足りるかと、ちらりと居眠りをするガーネに視線を向ける。しかし姿勢はそのままにガーネの目は報告の衛兵に向いていた。
「その旧記録庫、今の管理管轄はどこだ」
「は、えぇと…たしか王城書記局記録管理室だったかと」
「音ってのはどんな音だ」
「はい、鈴のような金属音に近い音、と聞いております」
「わかった」
敬礼をして立ち去った衛兵を見送り、スメイラは改めてガーネを見遣る。
「……びっくりした。起きてたの?寝息立ててたじゃない」
「ノックで起きた。とりあえず全員行くぞ、支度しろ」
寝起きが悪い訳ではないものの、寝不足も相成ってガーネは機嫌が悪そうに言いながら立ち上がって外したばかりの装備を装着し直した。
「さっきは南で今度は北か。随分振り回すな、めんどくせぇ。…あ、ドーナツ。帰りにアレ買って戻ろうぜ」
王城を出て北区の記録庫に向かって歩く。途中見かけたドーナツ屋を指差し、ガーネが呑気に後ろを振り返る。
「ガーネくん、意外と甘いの好きだよね」
「意外とってなんだよ。いつも思うけど、お前ら俺のことどんな印象持ってんだよ」
「化け物」
「クソガキ」
「坊やかしら」
「手のかかる方ですわ」
「財布!」
「ははは、お前ら俺のことそんなに嫌いか。よーくわかった。…じゃあ遠慮なくこき使わせてもらうぞ。…サイフィルはまず外周視ろ、スメイラ・ラズリはアメジとここで待機。カルセは一旦俺と来い」
軽口の延長のような声音だったが、指示の内容は既に完全に仕事のそれだった。
目的の旧記録庫を前にした瞬間、ガーネの目つきはさっきまでとは別人のように鋭く変わっていた。
サイフィルが先に周辺を見て回り、その間先程と同じようにガーネは念の為座標観測をしながら隣に控えさせたカルセに声をかけた。
「『浄化の対象』になりそうなモンは」
「……ありません。そのような『悪しき雰囲気』のものは、感じられませんわ」
「中もか」
「はい」
「よし」
「ガーネ、外側なにも無し」
「りょーかい。…お前ら、中入るぞ。俺が先頭、アメジは殿、女連中は間、サイフィルは俺の横」
念の為銃を右手に構えたガーネが先頭に立ち、記録庫のドアを開ける。
暫く使っていないことがわかるほどに中は埃っぽく、開いたドアから差し込む明かりに照らされた床板には、乾いた埃の上に複数の足跡がある。
恐らく、通報を受けて中を確かめた衛兵か警察のものだろうと想定される。
「カルセ」
「はい」
カルセは名前を呼ばれただけで荷物から魔宝石を取り出し、軽く叩いて明かりを灯した。
奥の方まで明るく照らされた室内をぐるりと見回し、ガーネはサイフィルに視線を投げた。
「呪具・遺物の類は中もなにも無し」
「ラズリ」
「呪術系統も使用痕跡無し、霊力残滓無し」
「…スメイラ」
「報告の保管棚は、右の区画のC棚」
「…お前らさ、こんだけやれるのに…なんで俺ごときがいないだけであんなにベソベソしてたんだか…」
ガーネがからかうように言いながら肩を竦めて銃をホルスターにしまった。




