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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十九章『要石』

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142話「駒、盤面に犬」

特務以外の者たちにも、詳細こそわからずとも、ガーネが突然出した通達の意味と、スメイラが統裁官代行に据えられた理由だけは察せられた。


この場にいる多くの者は、ガーネの先程の仕事振りを目の当たりにした者ばかりで、それだけを切り取っても排除されるべき人物では当然無いと、誰もが思っていた。

状況が読めた瞬間、女王への非難めいた感情が向きかける。

しかし、一国の主である女王の悲痛な顔と泣きそうな声、これだけの人がいる中にも関わらず自らの失態を素直に認め謝罪し、縋るように懇願する様子に、それ以上のヘイトが向くことはなかった。


城内の静けさと相反して、城の外が急に騒がしくなった。

何事かと女王が状況の確認の指示をしようとしたタイミングで、一人の衛兵が駆け込んできた。特務室は大広間に比較的近い一角で、衛兵が人だかりの中に女王と『統裁官代行』であるスメイラの姿を確認するとそちらに駆け寄り敬礼をした。


「し、失礼します、至急の報告です…特務案件です…!」

「ハァ!?こんな時になに!!」

飛び込んできた衛兵に八つ当たり気味にラズリが声を掛け、ちらりと女王に視線を投げた。

先の一件で、『特務案件はガーネでなければ成立しない』ことを痛感した女王も、眉間に深く皺を寄せていた。

「ご報告いたします!北門外郭通路にて夜警が襲撃されました!門衛二名負傷、敵は均衡教徒と思しき一名、現在外縁へ逃走中です!均衡の印のローブを纏っております!」

そこまで告げてから、視線を落として横たわるガーネの姿を見て『そういうことか』と言わんばかりに目を見開いて改めて女王へと向き直った。

「…なお、敵は逃走時『番犬は伏せたか』『今なら崩せる』と発言しておりました…!」

「……どういう、こと…なんで、均衡が……ガーネくんが倒れたの知ってるの…」

スメイラの小さな呟きが、不安と不穏に一気に輪郭を持たせた。


「…場所、どこだ…」

「…ガーネ!?」

掠れたか細い、聞き慣れた低い声が床から聞こえラズリは慌てて視線を落とした。

ガーネの目が薄く開いてはいるが、焦点があっておらず瞳は揺れ、呼吸が浅い。

「…ばしょ」

「は、はい!北門外郭…、」

「ちげぇ、…『今の』場所だ、…どっち行った」

「そのまま北西方面へ…!」

それだけ聞くと、ガーネは視線を周囲に投げてゆっくりと見回した。

「……サイフィル、お前はまだ動けるな」

「うん!動ける!動けるよ!」

ガーネは細く息を吸い込み、ほんの少しだけ黙り込んだ。女王も、何も言えずにガーネを見下ろした。

「…衛兵長、呼べ……敵を追うな、外縁だけ見ろ、…門、閉じて…巫術官、門周り…魔導師は痕跡追え…、…サイフィルは、衛兵長と行け、使われて来い、いつも通り視ろ、…配置は、あの人に任せりゃ、問題ない…スメイラとカルセは、城で待機。狙いは城じゃねぇ、反応見てるだけだ…」

力の籠もっていないガーネの指示に、一同は何も言えずに黙ってしまった。ほんの一瞬ではあるが、その沈黙を破ったのは女王であった。

「即時、統裁官の命令に従え!衛兵長、動け!」

「はっ」

「……教官、…頼みます」

「任せとけガーネ。安心しな」

「し、城の中の警備はどうしますか衛兵長!」

「…城ん中はいい、……陛下の、加護が働いてる…城内に、連中は入れない」

城内結界として、女王の加護があることなど誰も知らなかった。

女王自身もガーネのその発言に言葉を失い、驚きに満ちた顔でガーネを見下ろした。


ガーネは再度視線を動かして魔導師の一人を見つけると、血圧の低下で震える手を伸ばして力無く指を差した。

「…連中が、俺の座標つかって、何見てたかようやく理解した…居場所じゃない、もう連中に、見せてやる必要は、…ない、…おまえ、……筆頭魔導師に…ヴェルトラウリの結界、閉じる…伝、…」

そこまで告げると限界を超えた様子でガーネの腕がぱたりと床に落ちた。

「きゃーっ!!ガーネ様!!」

カルセの涙声の絶叫が響き、女王も思わず一歩ガーネに踏み出した。

「騒ぐな!気絶しただけ!息はある、死んでない!担架乗せて、処置室準備出来てるね!?アタシが執刀する!!」



バタバタと処置室に運ばれたガーネを見送った後の廊下には、生々しく血の跡が残されていた。

「…ガーネの、全てガーネの指示通りにせよ。魔導師を至急ヴェルトラウリ区国境の防衛結界に派遣。仔細は筆頭魔導師と筆頭巫術官が把握しておる」

「承知いたしました!」

女王の静かな命令が響き、バタバタとそれぞれが持ち場に戻っていく。サイフィルは衛兵長と共に現場へ向かい、侍女たちは片付けの為に動き始めた。


壁に凭れるように寄りかかり深く息を漏らした女王に、カルセがしずしずと歩み寄った。

「…妾は、カルセの身体を庇ったガーネを褒めずに叱責した。単純に、他者ばかり気にかけ自分を顧みなかったあやつに腹が立ったのじゃ。…それを、反省させたかった」

「陛下、…わたくしは、ガーネ様のお陰でここに立っております。陛下の御心も、わかっております」

「休ませたかっただけじゃ、…少し、反省させたかっただけじゃ。……あやつは、強いだけではなかった。血を流し、熱に浮かされ、立つことすら危ういあの状態でなお、あれだけの指示を迷いなく出せる。見るべき場所も、切るべき順も、使うべき人間も、何一つ違えておらなんだ。あやつの状況判断力も知識も指揮力も、すべて本物じゃ。妾は本当に、見誤った」

「わかっております。わたくしたちも、ラズリさんに叱られましたもの。…夜も遅いですわ、陛下は先にお休みになってくださいまし。ガーネ様がお目覚めになりましたら、ご報告に上がります」

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