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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十九章『要石』

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139話「4分」

深夜の王都内の公園で、何発か目の発砲音が響いてから再び静寂に包まれた。

脇腹を真横から殴打され膝をつくように姿勢を崩したガーネにとどめを刺すように木剣を振り上げた男の身体が小さく揺れ、スローモーションのように傾いで崩れ落ちた。

ガーネは数秒だけ動きを見た後、銃を構えたまま慎重に間合いを詰める。

反撃の気配がないことを確認してしゃがみ込み、首筋に指を当てた。


脈は無い。呼吸も止まっている。瞳孔反射も見られない。

「スメイラ、時間」

「え、…に、……22時、42分」

「2242、対象の死亡確認。魔導師、仕事だ到着してるか」

「は、はい」

「死体は保管して城に運べ。右手掌に禁忌術式あり、所持品と合わせて洗い出せ。何も無ければ処理しろ」


「…お、おいまじかよ。現着4分で…邪教の男、殺ったぞ…」

「バケモンかよあの人…あの『通達』…なんだったんだ…」


遠巻きに見ていた衛兵や魔導師、巫術官たちは、王城大広間での命令から現場到着後の指示、戦闘、制圧に至るまで、一切の無駄がないその動きにただ呆気に取られていた。

件の『通達』はさておいたとして、何故この男が統裁官として名を馳せていたのか、ガーネの『仕事』を初めて目の当たりにした者は特に言葉も出なかった。


「アメジ。相性最悪だったろあの野郎、よくあそこまで耐えたな。さすがだ。怪我の具合はどうだ」

「きゃん!ガーネ様に褒められちゃった!怪我はへーきよぉ、こんなのね、ちょっと足に力入れて筋肉キューッ!!…って締めてたら止血出来ちゃうんだから」

「出来ちゃわないと思う。怖いよお前」

「でも実際出来てるのよね、アタシもコイツ怖い」

「ところでガーネ様ぁ、噴水ぶっ壊しちゃったごめんなさぁい」

「んなもんどうでもいい、俺が責任持つって言っただろ。ラズリこのバカ頼むぞ、…スメイラ」


アメジの怪我は見た目と出血のわりには大したことが無さそうで一先ず安心し、あとはラズリに託せば心配無いだろうとスメイラを呼んだ。

「な、なに」

「最初にやられた杭、どれだ」

「えっと、…ここ。これ」

スメイラに案内された結界杭を確認すると、刺し直した上で封印が施されていた。


周辺に違和感は無い。

杭の表面を一瞥したガーネが、根元へ指先を触れさせる。

「封印は生きてるな。……固定の流れずらせばいけるか」

低く呟いた直後、杭の周囲でぴしりと乾いた音がした。

封印を壊したわけではない。ただ一瞬だけ力の噛み合わせを強引にずらしたのだ。

「この程度なら出力調整しなくても出来るな」

そのまま遠慮なく杭を引き抜く。

「あっ、ちょっ」

「うるせーな、また封印すりゃいいだろ」

せっかく封印したのにと言いたげなスメイラに雑に返しながら、抜いた杭をその辺に放ると杭の刺さっていた箇所を確認した。

「……あった。やっぱり術式隠してあんな」

「でもガーネ、それって元々あるやつじゃないの?他の杭も僕視たけど、全部奥の方に同じ術式あったよ。なんだっけえーと、結界固定…なんちゃら。忘れたけど。魔導師の人言ってた」

サイフィルが手持ち無沙汰に近寄り興味深そうにガーネの行動を眺め、数時間前に魔導師と確認していたらしい内容を共有する。

「『結界固定用座標術式』だろ。要は杭を『指定座標箇所』に固定して結界を成立させる術式だ。そこへ別座標の術式を被せてやがる。……これは見落としても仕方ねーわ。おい、そこの衛兵。観測具」

「は、魔導師手配します」

「いらん俺が見る、道具だけ早く持って来い」


衛兵から観測具を受け取ると、座標の情報を確認しながらスメイラに確認を取る。

「他、抜かれた杭は」

「無い、それは間違いない。…でも『刺し直されたか』って言われたら、自信ない」

「よし、お前も『調子』戻ったな。その線で魔導師に刺し直された痕跡ないか確認させろ」

「わかった」

頭のキレと回転の戻ってきたスメイラに指示をし、ガーネは周辺を見回し蓋の閉じられた古い井戸に近寄った。

井戸の口は分厚い木蓋で塞がれている。錆びた鉄帯まで打たれており、普通なら大人一人でどうこう出来る代物には見えない。

だが、よく見れば蓋の縁に溜まっていたはずの苔が一部だけ途切れ、鉄帯の端には新しい擦れ跡があった。

気にしなければただの劣化で済む程度の違和感。だが、一度開けられていると見るには十分だった。

「バールかなんか持って来い。ここ開ける」

衛兵が数人で蓋をこじ開けると、水は張っていない枯れ井戸のようであった。

「誰か明かり持って来い。…枯れ井戸か?」

「多分、掘れば出ます」

「深さは」

「およそ2.4m」

「俺で腕伸ばしてギリギリだな、まあ行けるか」

衛兵が明かりを持って来て井戸の奥が照らされると、ガーネは底を確認して井戸の中に入った。

「ガーネくん!?なんで入ったの!?」

ガーネはスメイラの問いかけには答えないまま井戸の底の地面に触れて掘られた痕跡を探した。

「…暗い、魔法石一個落とせ、手元見えねぇ」

上から落とされた明かりを放つ魔法石で土が新しく掘り返された場所を確認し、術式の内容の確認をすると、ガーネは「フーン」と小さく呟きながら立ち上がり、腕を伸ばして少し背伸びをした。井戸の縁に手をかけ、石壁に足を引っ掛けながら腕の力で這い上がると手をパンパンと叩いて払った。

「と、統裁官、このまま開けておきますか」

「開けとけ。ええと…あーあれか、アメジがぶっ壊した噴水」

もはや噴水だったのかわからない程に破壊された残骸と、周辺に滲み出た水と氷の欠片。

周囲を見回し、見知った衛兵の顔を見つけると声を掛けた。

「教官、じゃねーや、衛兵長。この瓦礫退かすの人貸して下さい」

「おー、待ってなガーネ。おーいお前らこっち手伝え」

衛兵長の呼びかけで若い衛兵が駆け寄ると数人がかりで瓦礫の撤去に取り掛かる。

「サイフィル来い、術式あるはずだ探せ」

「わかった、待ってて」

「…ガーネくん、衛兵長と知り合いだったの?」

「俺の警察学校時代の教官。警察学校と便宜上言ってるが官職の軍事課程だな、そこの先公。ちなみに元警察官」

「そ、コイツのクソガキっぷり知ってる数少ない知り合い」

「…やっぱりクソガキだったんだ」

「やっぱりってなんだオイ。衛兵長も余計なこと言わんでくれますかね」

「ガーネ!あった、あそこ」

どかされた瓦礫の隙間から術式の痕跡を見つけたサイフィルの言葉に、指を差された場所へ近寄る。

井戸の中の術式と同じものであることを確認したところで、周辺の結界杭の確認に走った魔導師がガーネの元にやって来た。

「統裁官。『刺し直し』の痕跡はこの区画にはとりあえずなかった。王都を囲むもの全てとなるともう少し確認に時間がかかる」

「わかった、手分けしろ。それと公園内の術式剥がせ。結界杭の結界固定用座標術式に被せられた術式と、その術式の指定座標が井戸とここ。『刺し直す』ことがトリガーになる術式だ、水の性質と自然魔力使って地面から魔力吸収するタイプのやつだから魔導師より巫術官の方がいい。魔力が多いやつは作業中吸われる、特に結界杭と井戸と噴水結ぶ区画内には立ち入るな。念の為王都内全域水路・水栓徹底的に調べろ、三次被害起こさせるな。衛兵長そっちにも人員割いて下さい」

「わかった」

そこまで指示をして、ふうと息を漏らした。


「よし、特務は引き上げる。……帰るぞ、疲れた」

そう言って踵を返した瞬間、脇腹の奥で鈍い痛みがずきりと跳ねた。

首筋も今さら思い出したようにひりつく。


────あ、やべ。普通にいてぇわ。

だがまだ大丈夫、『最後の報告』をするまでは、名ばかりとは言え『統裁官として』保て。

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