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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十九章『要石』

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138話「命令違反」

鎮痛剤の影響か、少し微睡むまでもいかずともぼんやりとあらゆるものが鈍くなる感覚に目を伏せた。

ややあってバタバタと騒々しい足音が聞こえたと思えば、まっすぐにその音が特務室に向かって来る。その勢いでバン!と激しくドアが開けられ、肩で息を切らせたスメイラが汗だくで飛び込んできた。

「…どうした」

ほんの2,3秒だけ息を整えるように膝に手を置いて、顔を上げた。

ガーネの顔を見た瞬間にスメイラの双眸から涙が滲み、大粒の雫となってぽろぽろと頬からこぼれ落ちた。


「ガーネくん、…ガーネくん!…ごめんなさい、できない、…たすけて…!!」

思えばそんなに長くはないが、一番古い付き合いのスメイラ。

そんな彼女の涙を零した顔は、初めてだった。


その瞬間に、ガーネはつい数秒前まで熱に浮かされていた身体が一気に冷えていくような感覚になり椅子から立ち上がった。

机の引き出しを開けてホルスターを肩と腰に装着して拳銃の銃の残弾数を確認し、予備弾倉と警棒をホルスターに差す。ナイフを定位置のベルトの隙間に捩じ込むと、官服は着ずにスメイラに歩み寄った。


「場所」

「じょ、城下、にし…ッの、…結界、の、…っ」

「状況」

「一般人、十数…ラズ、…先輩、が、みて…エイミーちゃん、けが、ッ」

「敵」

「ひ、ひとり、吸収、…っま、…魔力…均衡……!」

「よし、来い」


スメイラは全力疾走して来た息切れと泣いた嗚咽のせいでまともに喋れてはいなかったが、ガーネには充分だった。

そのままスメイラの腕を引いて部屋を出て、王城の大広間で声を張り上げた。


「────衛兵、人員配備命令! 城下西地区、結界拠点公園へ急行せよ! 魔導師、巫術官、医師を至急手配! 負傷者多数、一般人に死者が出ている! 現場指揮は俺が執る、遅れるな!!」

ガーネのよく通る低い声が大広間に響き、その緊迫感に空気が引き締まる。

しかし、スメイラは聞き慣れたその声に酷く安心した。

事実上の『退任』で『統裁官権限に付随する決裁権・指揮権・命令権は全て停止』と通達を前日の朝一番で出した男の『命令』に一瞬全員が戸惑いはしたが、従わない者は誰もいなかった。

「はい!!」

大広間での返答を聞くと、スメイラの腕を引いて入口を向かせてから手を離してガーネはそのまま走り出した。

それに続くようにスメイラも走り、袖で涙をぐいっと拭った。

「スメイラ泣くのは後にしろ、まだ走れよ!」

「…ッうん…!」

「走りながら他共有しろ!!」


ガーネは熱っぽいのも脇腹が痛いのも思考の端に追いやった。しかし、身体は思うようについて行かず、足の遅いスメイラの全力疾走に合わせた訳では全く無かったがいつもの速度で走れない。妙に息が上がるのも早い。

状況を聞き整理しながら、現場へと駆けた。



「────2238、現着」


一般人被害、初報時点で負傷者18名、死者3名。統裁官代行らの現着後、追加負傷者4名。処置と隔離の上、近隣医療機関へ搬送済み。

敵は魔力吸収型の呪具、または術式を使う均衡教徒。対象は1名。

公園一帯は聖女の聖結界により周辺被害を抑制中。

特務魔導師、右大腿部裂創、出血あり。特務医師の支援を受け応戦中。

特務鑑定士、周辺警戒を継続中。その他詳細被害状況は未確認。


「……スメイラ、ここからはお前の仕事だ。記録しっかり取れ」

「…ッはい」

「ガーネ…!」

スメイラだけでなく、全員の酷く安堵した泣きそうな顔に思わず苦笑いが漏れた。

「全員、泣くのは早い。まだ仕事はある。…ラズリはアメジの回収と治癒。カルセは二人の保護結界、サイフィルは『視てろ』。なにかあれば声上げろいつも通りだ。スメイラは記録と、さっき呼んだ連中が来たら公園から二区画先まで封鎖指示、巫術官に結界を張らせろ。魔導師には周辺の結界監査の依頼。……全員よく持ちこたえた。ここからは俺がやる」


ガーネは銃のスライドを引いて初弾を装填しながらカルセに声を掛けた。

「カルセ。アレ序列か」

「………いいえ、違いますわ」

「あっそ。雑魚か、りょーかい」

そうは言ってもあまり余裕は無いのが正直なところではあった。

ガーネはラズリたちがアメジを回収しやすいように配置を考慮しながら一発発砲すると、とりあえずどういう手段なのかを確認しようと距離を詰めた。


「来たな、『統裁官』」

「来てやったよ、ウチの連中が世話ンなったみたいで。泣かせてくれた礼はしっかりしないとな。あと先に言っておくが今日の俺は体調が悪い、『余裕が無いから覚悟』しろよ」

「覚悟?それはお前だ」


男が右手を翳すように突き出すと、掌に術式の刻まれた入れ墨を確認した。

「────…ッ、くそ!」

アドレナリン含めた脳内物質のせいで色々な感覚が麻痺して動いてはいるが、根本的に治癒したわけでは当然ない。それはガーネ本人も一番理解しており、視界が普段よりも霞んで術式の内容が確認出来ない。もう少し距離を詰め、近接武器が飛んできてはいまの身体状況では食らいかねない。

敵の足元を狙い狙撃を試みるも、今日のコンディションでは銃は使い物にならず、銃身がブレる。右腕に明らかに力が入っていない。

とにかく視界が揺らぐ。呼吸が浅い。

身体に負荷は相当かかることを覚悟で、左手で腰から取り出した警棒を伸ばして男の懐目掛けて突き出した。

「う、ぉ…っ!あぶね!」

利き腕では無いため無駄にモーションが大きかったせいか攻撃の軌道を読まれ、呆気なく避けられた挙げ句に術式の刻まれた右手を突き出された。


「…なるほど、魔力吸引に自己体内変換の術式か。なんかそれ、進研ゼミでやったわ。…あ、違うか。あのカルト本か。お前それ『禁術』だろ」


至近距離に術式の刻まれた箇所を晒してくれたお陰で、仕組みを理解した。

────吸った魔力を自分のものに変換して出力する、なかなか厄介な『禁術』だ。

アメジが歯が立たなかったのがようやく理解できた。


「しかしおかしいな、『お前の魔力は吸えない』のは何故だ。お前こそ禁術に手を染めたか?」

「そんなおっかねーことしねぇよ、俺は健全に生きてるんだ。まあ、…これでお前から貰える『情報』は満足だ。お前が『俺の魔力の種類』を知らないって言う情報をな」


「ガーネ!左手!仕込み!」

「……だろうな…!」

サイフィルの声と同時に男が左手を振り上げると、指の隙間にナイフが数本挟まれていた。そのままガーネに向かって投げられる。

しかし、これが陽動なのは見えていた。

ナイフを避ければ『本物の仕込み武器』に胴か首をやられ、それを見越して避けなければナイフが当たる。後ろに飛んで避ける余裕はない。袖の中のナイフよりは重い気配に、得物を確認しようと声を上げた。

「サイフィル!デカい方なんだ!」

「わかんない!でも刃物じゃない!」

なら、これ以上腹を掻っ捌かれる心配はないなと左手で握った警棒で飛んでくるナイフ数本を叩き落とした。視界が揺らぎ霞むのは相変わらず、そのせいで一本仕損じて首元を掠め、皮膚を切って出血した。

一瞬、『あ、やべ怪我したわ』と脳裏を過ぎる。しかし、今は権限無しの身であることも同時に思い出し、痛みに眉を寄せる。傷は出血こそあれど深くは無い為、無視した。


目下、目的はそこではない。なんの為に身体を張ったのか、思い出せ。


そして想定通り袖の中から左手に短木剣が滑り落ちてくるのを視認するが、体勢的に避けられないのはわかりきっていた為、衝撃が来る前に歯を食いしばった。

「い、ッ…!!ぐ、──── …っあ…!!」

偶然なのか知られていたかは定かではないが、よりにもよって先日負傷して縫合しただけの箇所をピンポイントで殴打され声が漏れた。

まさかここに来るとは思わず、激痛と衝撃に思わずガーネは膝をついた。

しかし、勝ちを確認したかのようにほくそ笑む男を見上げた顔にはいつもの悪どい笑顔が浮かべられていた。


右手だけを翳して左手はほぼ動かさずにいたため、仕込み武器があることは初めからわかっていた。

アメジ程の火力で突っ込んで来て殺傷力の高い銃の類を使わなかったことから、仕込み武器が銃火器の類ではないと凡そのアタリはついていたため、一か八かの賭けで甘んじて攻撃を受けた。


────この瞬間は、懐に入り込める。


「言ったよな?今日の俺は余裕がない、つまるところ…手加減をしてやる余裕は一切無い」


ガーネは右手を伸ばし、男の胸元に銃口を押し当て容赦なく引き金を引いた。

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