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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十九章『要石』

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136話「初陣」

ややあって、衛兵が謁見の順が回ってきたと呼びに来た。

スメイラは青い顔のまま、鏡を取り出して申し訳程度に髪を整えて立ち上がった。

「…よし、行こう皆」

スメイラの号令で立ち上がり、入口に向かう。ただ一人、ガーネを除いて。

サイフィルも、さすがにいつもと違い空気を読んで茶化すような真似はしなかった。ただ、ガーネの傍に歩み寄り一応の確認とばかりに声をかけた。

「…ガーネは、行かないの?」


声をかけられたのはわかっていた。ただ、頭が異様にぼんやりして反応が一拍遅れて顔を上げた。

「……行かねぇよ。権限も無いし現場に出てない俺から報告することも無い。それに…」

「それに?」

「『お前の顔は見たくない』って言ってたろ」

「……」

「だったらわざわざ俺が行く必要もない」

もちろん意地を張っているわけではない。ただ、顔を見れば余計なことを考える。

陛下の顔は純粋に可愛いと思っていたし、惜しいと思う気持ちも無いでは無い。

ただ、更迭処分を待つだけの立場で、そんな面倒を増やす気になれなかった。

「……わかった。書類仕事、あんまり根詰めちゃだめだよ」

「おー。お前こそ、ぴしっと立ってろよ」


部屋に一人きりになるのは何度目か。

妙に静かにゆっくりと閉じる扉を見つめ、息をゆっくりと漏らす。

喋ると脇腹に響き、息をすると脇腹が引きつる。おまけにずっと暑いのに寒気がして、なのに汗が垂れる。

「…シャツだけ変えるか…」

謁見で不在の隙に、着替えだけ済ませる。

シャツを着替える、ただそれだけの動作が尋常ではないほどに重い。

こんな状態で敵に襲われたら────ああ、俺は不要だった。ただ、痛いのは嫌だし普通に死にたい訳ではない、抗いはするだろう。でも死ぬなら即死させて欲しい。どうでもいいが、俺が正式更迭されたら狙われなくなるのか?そういう訳ではなさそうな気もするが、まあいい。

とにかく怠い。暑い。あー、アイスなら食えるかもしれん。いや寒いか。無理だ。

更迭されたあとはどうしようか。身分凍結解除で警察官として戻るのか。『クビになったのか』っていじられそうだな、めんどくさい。あーそうだよ。否定出来ないのがなんとも言えん。

今よりは間違いなく暇になるだろうな、何か趣味でも…あ、俺趣味ねーや。

そも、趣味ってなんだ。俺が平和になんか編み物でもして日がな一日過ごすのか?待てなんで編み物だ、ばーさんか俺は。老後かよ。

大体平和ってなんだ、平和だったら警察いらねぇんだよクソが。じゃあ俺もいらねぇじゃん。

え、またクビか。なんでだよふざけんな。またってなんだ。

まずもって俺が平和だったこと一度もねーだろ。親は二回死んだ『扱い』になるし。女が出来たと思ったら変な因縁付けられるし。半殺しにしたけど。あとはなんだ、「付き合わなくていい」とか言うから遊んだら「私のモノになって」?なんで俺がお前のモノになるんだよお前が俺のモンになるべきだろうがクソが、俺を所有物にしていいのは『あの女』だけだよ。


そこまで考えて、はっとした。

────どの女だよ、俺はバカか。

前髪を雑に掻き上げて、天井に視線を向けた。



*****



「……『統裁官』はどうしたスメイラ」

「は、はい。あの…自分は現場に出ていない、権限も無いので出る必要がない…と」

「役職だけ置いてやったのを忘れたのか。連れて来い」

「チッ、アタシ呼んできまーす」

ラズリがわかりやすく舌打ちをしながら謁見の間を後にし、特務室に向かった。


腕を組みながら長い廊下を進み、特務室の扉を開いてぼんやりと天井を眺めるガーネに声を掛けた。

「…アンタ、今なに考えてんの」

「……あー…趣味と………老後…?」

首を傾げながら返答するガーネの双眸は潤んでいて、一瞬泣いていたのかとラズリは若干ぎょっとする。しかし、呼吸の浅さや汗の滲みから発熱兆候による目の潤みであることを察する。

「どうした」

「…謁見。アンタも来いって」

「現場出てねぇ俺が?」

「役職名だけ残ってるんでしょ」

「………ああ…チッ、ハイハイ」

ラズリと同じように舌打ちが漏れ、ガーネは立ち上がって背凭れに掛けたネクタイだけ手にして部屋を出た。


ラズリと並んで廊下を歩きながら、ネクタイだけ締め直す。

その所作を横目で見上げながら、ラズリが溜息混じりに声を掛けた。

「…ガーネ。熱、あんの?」

「……人は誰しも熱はあるだろ。お前バカか、熱無いと死ぬぞ」

「そうじゃ、…ッはぁー…バカ」

「誰がバカだ。……ラズリ、ネクタイ曲がってねーか」

「曲がってないわよ」

ラズリは先程メンバーにキレ散らかしたことを思い出し、今のガーネの顔を見て確信した。


────コイツは今、熱が出ている自覚がない。一体どれだけ自分に無頓智なんだろう。

まあいい、宮廷医に見せているんでしょう。あとでカルテを見せて貰って解熱剤くらいは処方してやるわ。


わざとらしく呆れたような溜息を盛大に吐き出し、謁見の間に揃って入る。


室内に入ったガーネが玉座に向かって敬礼をし、いつもより三歩下がった位置で姿勢を正した。

シャツにネクタイだけ、特務の人員よりも一歩下がった場所で立つガーネの姿に女王は眉間に皺を寄せてガーネを見据えたが、すぐにスメイラへと視線を移して口を開いた。

「…スメイラよ。報告を聞こう」

「……ご報告、します。本日、城下外周結界の杭一本に不自然な抜去を確認しました。現場は直ちに封鎖し、宮廷魔導師を手配。他の杭も確認しましたが、現時点で同様の異常は確認されていません。周辺一帯では軽度の体調不良、頭痛や吐き気を訴える住民が複数おり、魔力干渉によるものと判断して病院へ搬送しました。……聞き込みも実施しましたが、証言に食い違いが多く、容疑者像の確定には至っていません。遺物や呪具の類も、サイフィルく、いえ、サイフィルの視認では確認されず……」


そこまで話すと、不安そうな顔でちらりと一瞬ガーネを振り返って顔を確認したスメイラは、きゅっと唇を結んで再び前に向き直った。


「……戻りが遅れたのは、私の判断が遅かったせいです。ええと、ですので……現状、被害拡大防止と一次封鎖、周辺確認、結界杭の刺し直しと再封印までは完了しています。追加調査が必要です。対応自体は完了していますが、初動判断には改善の余地があったと考えます」

「……ふむ。まあ、初陣にしては良くやったのではないか。ご苦労、よく務めた」

「は、ありがとうございます。勿体ないお言葉にございます」

「……『統裁官』、何か言うことは?」

女王の挑発的な視線がガーネに注がれ、言葉を促された。


「陛下御前にて同じ報告を拝聴した限り、初動の遅れを含め改善の余地はございます。されど、初めて現場指揮を執った者として、あの程度まで事態を収束へ向かわせた点は評価に値するかと。スメイラ・フレイブ・グリウは、統裁官代行として十分職責を果たしたものと存じます」

異常なまでの他人行儀な物言いに、女王の眉が動いた。

「それだけか」

「…それだけ?」

ガーネは女王の表情に、『また何か言葉足らずだったか』と直前の発言を振り返った。ほんの少しだけ考えて、「ああ」と合点がいったように小さく声を漏らした。

「…失礼いたしました。正式な更迭日までに、全ての業務の引き継ぎを滞り無く済ませます」


ガーネの言葉に、女王の瞳が僅かに揺れた。

彼女の後ろに控える側近のヘルソニアは、どこか呆れたような興味の無さそうな顔で女王に視線を投げている。

女王は玉座から立ち上がると、一歩だけ足を踏み出してガーネを睨みつけた。

「更迭…!?何故そうなる!妾はそのようなこと、一言も申しておらぬ!」

「お言葉ですが陛下、権限の剥奪とはそういうことかと存じます。『顔を見たくない』とも仰せでしたので、早急に立ち去るべきかと」


女王は意味がわからなそうに黙り込んだ。

彼女の中では、ここで一言ガーネが謝罪をし、『もう一度やらせて下さい』と辛勝に自らに懇願してくれば、謹慎も権限剥奪も無かったことにする腹積もりだった。

────なのに何故、更迭とこの男は言う?何故妾の気持ちがわからぬ?妾は、ただ、自分を顧みなかったことを反省させて、療養させたかっただけじゃ、何故。


無言の沈黙を肯定と受け取ったガーネは、恭しく敬礼をして「お約束通り、半月以内に」と静かに告げて謁見の間を立ち去った。


小さく溜息をついたヘルソニアが、「其方たちも下がってよろしい」と声をかけ、スメイラたちが立ち去ったのを見届けてから玉座に力無く座り直したディアマントに視線を向けた。

「…陛下、貴女が先日統裁官に告げたことは、こういうことです。ですから申し上げたではないですか、『拗れますよ』と」

「……お前は妾を後ろから撃つつもりか」

「とんでもない。陛下の御心を思って申し上げているのです。私は正直、ガーネなどどうでもいい。貴女が愛玩するからこそ、私も手と目をかけたまでです」



────数時間後、すっかり日が落ちた頃。

一般人が十数名が倒れ、数名の死者が出ている。何かしらかの術式が作動したものと想定されるという第一報が届き、特務室にその案件が持ち込まれた。

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