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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十八章『誤断』

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128話「縫合」

村は夜半ですっかり静まり返っていた。

ガーネはその静寂を無視して、村の診療所の入口を叩いた。

ごんごん、とドアを叩く不躾な音が響き、ややあってから屋内に魔宝石のぼんやりとした明かりが灯る。

いかにも寝起きといった風貌の初老の男が怪訝そうに扉を開け、入口前に立つガーネを一瞥した。

「…なんじゃ、急患か」

「急患だ。ちょっと切った、悪いけど縫うだけ縫ってくれ」

あまりにも淡々としたガーネの物言いに、村医者である男はガーネの頭から順に視線を下ろしていき、脇腹に視線が止まると表情を変えて扉を大きく開口した。

「早く入れ、そんな怪我で歩いてきたのか」

「歩けたからな」

診療所内の椅子に腰を下ろし、血に染まった破れたシャツを脱いだ。

医者である男は患部を見て眉を寄せた。

「内臓まではいってないはずだ、とりあえず血が止まって傷口申し訳程度にくっついてりゃそれでいい」

「…そうは言ってもお前さん、そういうわけにもいかんだろうよ。しかし生憎とここは診療所、そんな大した設備も道具もないから簡単な処置しか出来ないな…」

「わかってる。ウチも医者は連れてるが、設備も道具も無いのは同じだからとりあえずこっち来たんだ。王都に戻ったら病院に行く、止血と縫合だけでいい」

「……わかった。とりあえず消毒と…局所麻酔くらいしか出来んが、縫合はしよう。我慢しろよ小僧」


患部の縫合と消毒、何層にも重ねたガーゼで患部を圧迫するように押さえた上から包帯を巻かれる。

処置を終えたガーネは汚れたシャツを仕方なく着直してから、財布から数枚の紙幣を取り出して医者に渡した。

「夜中に悪かったな、足りるか」

「……いや、お前さんこんなにいらんよ。それよりもきちんと病院に罹るんだぞ、感染症とかが心配だ」

「わかった。迷惑かけたな、あと痛み止めだけくれ。強めのやつ、多めに」

「…眠気が強く出るぞ」

「丁度良い、ありがとな」


村医者から痛み止めを貰い、宿へと戻った。

ラズリに見せなかったのは、純粋に怒られて面倒そうだったというしょうもない理由以上に『カルセに怪我をさせた挙げ句に、自分の感情で命令だと怒鳴りつけた』バツの悪さが大半だった。何より、カルセが『自分のせいで』と気にすることは目に見えていた。なら、ラズリがここで診たところで、先程村医者に話した通り道具も設備も無い中であればラズリである必要はないと判断した結果だった。


宿に戻ると、ロビーで全員が待機していた。

カルセの頬と掌に貼られた絆創膏は、端から見れば取るに足らない擦過傷だ。

だがガーネの胸中に浮かんだのは安堵ではなく、自責だった。

自分がいたのに怪我をさせた。よりにもよって顔に。遺跡に連れて入った判断も、祈りの力を使わせた状況も、止め切れなかった一瞬も、全て己の判断の遅れに思えてならなかった。

「…カルセ、悪い。怪我させた。…しかも顔」

数日前に聞いた覚えのある、どこか悲痛さを孕んだ声にカルセは小さく首を振った。

「…ガーネ様のせいでは、絶対にありませんわ。庇って下さってありがとうございます」

全員、ガーネと一緒にいてガーネ以外が擦過傷とは言え怪我をしたのは初めてだと気付いた。以前に、ガーネ自身が『お前らは俺の配下である以前に陛下の持ち物だ、そのお前らに怪我なんかさせられるか』と言っていたことを思い返した。

ガーネ一人に無理をさせるつもりは毛頭なかった。

だが、ガーネの性格を考えれば『全部自分が』と先陣を切り、リスクも責任も怪我さえも引き受けてきたのだと、今更ながら一番嫌な形で思い知ってしまった。


「…ガーネ、そういえばアンタ脇腹」

「村医者に見せてる。遺跡にとりあえず目的のモンはなかった、全員今日はさっさと寝ろ。明日朝イチで王都に戻るぞ」

ラズリの言葉にかぶせるように言い放ち、ガーネは部屋に下がって行った。

「……スメイラ、あの子の傷の具合は」

「ちゃんと見ていないのでわからないですが、少なくとも遺跡内にいた時は大きな出血は見られませんでした」

「うん、痛がってる様子もなかったし、シャツに血は滲んでたけど…普通に歩いてたし、僕が見てる限りでは、そんな変な感じはしなかった」

「……そう」

ガーネの引っ込んだ部屋の扉に視線を向け、全員それぞれ部屋に戻り夜を明かした。



ガーネは局所麻酔が切れた直後から痛みを耐えて蹲っていた。処方された鎮痛剤を飲み、痛みが鈍くなったところで窓の外が明るくなり始めたのに気付くと、身体を起こした。

簡易的に縫合されただけの傷口を覆う包帯からは血が滲み、小さく舌打ちを漏らしながら汚れた包帯とガーゼを取り、医者から痛み止めと共に渡されたガーゼと包帯で腹部を圧迫し直した。

鎮痛剤を飲んでいるとは言え鈍く疼くような痛みに、冷や汗が滲む。

深く細く息を漏らし、洗面所で冷水を頭からかぶって色々な感覚を誤魔化した。


とりあえず、王都まで持てばいい。王都に入るまでは、カルセにいらん気を揉ませるわけにはいかない。城に帰ったら大人しくラズリに見せて、必要があれば再処置。王都に行くまで誤魔化せさえすれば、どうにかなる。

鏡を見れば、明らかに顔色は悪い。しかし、空腹と寝不足で押し切れる。


そう考えながら、先程飲んでから時間がさほど空いていないにも関わらず追加で鎮痛剤を飲んだ。濡れた髪を拭い、新しいシャツに袖を通してボタンを掛けた。


時計を見ていい頃合いなのを確認すると、ガーネは荷物を持ってロビーへ向かう。

ロビーでは既に全員が集合しており、珍しく自分が一番最後だった。ガーネは一番近くにいたサイフィルに財布を投げ渡し、「金払っとけ」と指示すると誰かに何かを言われる前にさっさと馬車へと向かった。

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