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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十八章『誤断』

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127話「眉間か心臓か」

「アメジ、本当にこのガキどもがこの入口触ってないのか『身体に』聞いとけ」

「はぁいガーネ様。……ね、ぼく?ほんとに触ってなぁい?」

フリルたっぷりのワンピースを纏った180前後の筋骨隆々のどこからどう見ても男であるオネェのアメジが、若者たちに迫る。本人的には『優しく』聞いているつもりらしいが、圧が半端ではない。

「さ、触ってねぇ!!です!!!」

涙目で必死に頷く若者に「ほんとぉ?『お姉さん』、今なら怒らないから素直になってもいいんだゾ」とウィンクをしながら距離を詰めていき、涙目になっていく様子を横目で見ながらサイフィルが走って取って戻った観測用具を広げてガーネが結界の破損具合を確認していく。

急ぎで簡易的に見た範囲ではあるが、破損は凡そ1〜2日前。

ガーネはすっかり萎縮した若者に歩み寄り、目の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。どこからどう見ても、ヤンキーのメンチ切りにしか見えなかったが一同はもはや口を挟まなかった。

「おい、この辺にお前らみたいな舐めたガキは多いのか」

「ヒィ!お、俺らくらいです!だってこんな田舎の村っすよ!」

「ここで度胸試しするような連中もお前らくらいか」

「はい、で、でも今日が初めてです勘弁して下さい!いつもなんか弾かれて入れないのに、昨日急に入れるようになってんのに気付いたから!ここ、少し前になんかやべーの出たって聞いたから肝試ししようぜって!!まだ入ってねぇし誓ってなにも触ってないっす!!」

すっかり敬語になった若者を一瞥し、ガーネは懐に手を突っ込み携帯している警察手帳を目の前に晒して先程の自身が警察であるという証拠を提示しながら脅すように圧を掛けにかかった。

「おいガキども。今日は特別に見逃してやる、次は殺……しょっぴくからな。わかったら散れ、立入禁止だ」

「アンタ今殺すって言った?」

「言ってない」

地元の若者を帰らせてから、改めて入口の結界の観測に戻る。

外側からの強引な突破の痕跡が、妙に『雑』でわざとらしい。しかし、破損している以外の異常は特に確認出来ず、内側からの損傷ではないとほぼ断定出来た。

「……外から無理矢理結界を破って中に入った可能性が濃厚だな」

「と、申しますと…やはり中に、例の欠片があるのでしょうか」

「それはこれからだ。俺はとりあえず中に入る」

そう告げて、ガーネは遺跡の中へと入っていった。


件の遺物、封鍵が出土したポイントは入口からそう遠くはない。

当時の禍々しいような異質そのものと言わんばかりの雰囲気は残っておらず、静かなものであった。


「…あの時の、嫌な気配はいたしませんわね。ガーネ様、また地面…掘るんですの?」

カルセが周辺を見回しながら観測用具の準備をするガーネに視線を向けた。

「いや、堀りはしねぇ。ここには『ない』からな」

「え、ガーネなんでわかんの?」

不思議そうに声を掛けたサイフィルを横目で見遣り、ガーネは計測針と銀粉、座律盤を用意して計測針の揺れと動きに視線を凝らした。

「……一回触ったから、勘。なんとなくわかる。それよりサイフィル、違和感とかないか視てろ。俺は『女王の力の残滓』を見る」

「うん!わかった!」

「…ガーネ様、力の残滓を見る…とは、どういうことですの?」

「ここにそれがあったのか、最初からなかったのか。あったとしたら、どの方向に移動したのか、座標と空間の微妙な捻じれから力の通過点探る」

端的に返すとガーネが座律盤に銀粉を撒き、手を当てて霊力を注いでいく。

盤面に撒いた銀粉の上に、小さく何かに振れるように波紋と紋様が浮いてった。

「あ、ガーネ。遺物が出土したところ、石の下に別のなんか呪いっぽい術式埋められてる」

「………ん、……あとで見る」

サイフィルの言葉はガーネに届いていたが、霊力の出力を微調整するというガーネが最も苦手とする繊細過ぎる作業にまともに返事を返す余裕がなかった。

「…呪いなのでしたら、祈りの力で封じておきますわ」

そう言ってカルセがガーネの右斜め後ろで膝をついて、いつものように意匠を握り指を組んで小さく祈りの言葉を口にした。

ガーネの手元の盤面に、変化があった。

まるで何かに引かれるように、座標が歪んで捻じれ、4時の方向へと紋様が振れていく。


────何故、『祈りの力』に反応した?


そこに気付いた瞬間、ガーネは本能で身体が先に動いた。

カルセの身体を抱き寄せ、地面に転がる。ほんの少し、その挙動に遅れてガーネがいた場所から4時の方向の壁に何かが刺さる音と、右脇腹に一瞬走った何か冷たい感覚。

全員、何が起きたかわからずほんの数秒ではあるが無言になった。

ガーネが転がった軌跡を描くように、細く点々と血が飛んでいる。

しかしガーネは右脇腹に感じる痛みが熱を帯びるように感じると同時に、咄嗟に自分が下敷きになるように腰を抱いたカルセの顔に視線を向ける。

「────ッラズリ!カルセの治療!」

ラズリが呼ばれて慌ててカルセの様子を見ると、頬と掌に転がった時に出来たと思わしき僅かな擦過傷を確認した。

「ほっぺたと手以外で怪我は?カルセ」

「わ、…わたくしは大丈夫ですわ、それよりガーネ様が」

ガーネのシャツの脇腹が裂け、血が滲んでいるのに気付いたカルセが不安そうにラズリに訴えるが、ガーネはその言葉を制した。

「いいからラズリ、カルセが先だ。女だぞ、顔の傷残させるな。俺はまだやることがある」

「そうは言うけどガーネ、アンタ」

「命令だ!俺ごとき気にしてる暇があったらさっさとカルセの治療しろ、『聖女』だぞ!」

「……わかった。カルセ、おいで」

「アメジ、護衛。付いて行け」

ラズリとアメジがカルセを連れて先に村に戻ると、ガーネは再び盤面に向き直って手を翳し直した。

動揺が反映するように、先程まで比較的上手く出来ていた霊力調整が全く出来ない。

────今まで気を付けていたのに、初めて怪我をさせた。

ガーネは小さく首を振り、『目の前の今すべきこと』に意識を集中させる。霊力の出力を調整し直し、盤面で銀粉が波紋を描き始めるのを確認すると『覚えのある波長』を探るように盤面を凝視した。

「…ガーネ、腹…血が」

「うるせぇ!集中切らせんな!」

脇腹を怪我したのはわかっている。そこそこ深手なのも、痛みの感覚でなんとなく理解もしている。それよりも、今のサイフィルへの返答も、ただの自身の苛立ちを乗せた八つ当たりなのも十分理解していた。


20分程盤面の波紋の形状を確認し、『元々欠片はここには存在しなかった』と計測結果を出し深く息を漏らした。

それから立ち上がり、遺物の出土地点を確認する。被せられた土が真新しく、内側から何かが射出されたようにその土が散らばっていた。

術式を読み解くと、よりにもよって『祈りの力』に反応する術式が組み込まれている。

発動した矛先の向いた壁に視線を向け壁際に移動し、先程壁に深々と食い込んだ石刃と、サイフィルが反応した術式起点を一瞥した。そこからカルセが祈りを捧げていた位置までを脳内で線に起こし、舌打ちする。

「……しゃがんでたから外れた。立ってりゃ心臓、いや、今の姿勢なら…眉間だ」

カルセは基本、祈りの姿勢を取る時は膝をついている。

「…それって」

それまで黙っていたスメイラが、小さく声を漏らした。

「浄化反応を拾った瞬間撃つ単純型だ。反応した対象に対しての自動補正までする程の高尚な術式は組んでない。…遺跡内で祈りの力を使った『聖女』狙いか、『聖女を庇った俺』狙いかはわからん。が────殺しに来たのは、間違いない」

「…な、なんの目的?ガーネは今まで狙われてるからなんとなくわかるけど、いやそもそもなんでガーネ狙われてるのかもよくわかんないけどさ。なんで、カルセちゃんも?」

「そりゃお前、『聖女』だぞ。あんなぽやっとしてるけど、アイツの祈りの力は本物だ。そりゃ邪魔だろうよ、連中にとっては。…とりあえず、後はここには何もない。悪いが片付けして戻ってくれるか、俺は先に戻る」


ガーネは一足先に、村へと戻って行った。

同じ姿勢を敢えて取っていた観測中はまだ良かった脇腹の傷が、ドクドクと血を吹き出すような感覚で痛みを感じ始めており、アドレナリンで感覚が麻痺していたかと今更自覚した。

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