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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十六章『鳥籠』

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105話「木彫りの熊です」

窓から朝日が差し込み始めると、一番に目を覚ましたのはカルセだった。

覚醒しきらない目を擦りながらも、無意識にガーネが眠っているはずの布団に視線を向けると、前日と同じように布団はもぬけの殻でカルセは慌てて飛び起きた。

「ガーネ様…!?」

「なんだよ早いな」

声に視線を向けると、窓辺の椅子に腰を落とし新聞を広げていたガーネと視線が絡んだ。

カルセは安心したように深く息を漏らすと、窓際のガーネの傍に小走りで近寄った。

「おはようございます、ガーネ様」

「おはよ。乳出てんぞ」

「えっ、きゃあ!」

寝乱れた浴衣がはだけていることを指摘されカルセは思わず悲鳴を上げた。

「……アンタ、カルセの浴衣脱がせた?」

その声に起きたラズリとスメイラが、布団から身体を起こして遠巻きにガーネを非難する視線を向けた。

「なんで俺がコイツの浴衣脱がせるんだよ。やるならもっと上手くやるわ」

「冗談よ、あーあ良く寝たおはよー」

「…ガーネくん、もしかしてまた寝てない?」

呑気に欠伸混じりに身体を伸ばすラズリと対象的に、ガーネの目の下の隈に気付きスメイラは眉を寄せながら問いかけた。

「寝れるかよこの状況で」

「…アンタ、何しに来たの?」

やや呆れたようなラズリの問いかけに、ガーネは苦笑いを漏らした。アメジはどうかはわからないが、少なくともラズリは結界に反応して起きる。

そう聞いてはいたが、それでも警戒心の方が勝ってしまった。

「……………疲れに、かな。そう、俺は疲れる為にここに来たんだって初日に言い聞かせてる」

「一睡もしてないわけ?」

「いや、座って30分くらいは仮眠取った」

「それ寝てるうちに入らないからね」

読み終わった新聞を雑にたたみ、身体を伸ばす。未だ気持ちよさそうに眠っている男子二名を見遣り、気楽でいいなとやや呆れたような顔で息をついた。

「おい、そこのバカ二人さっさと起こせ。朝飯食ったら出るぞ」



「うーん、ガーネ荷物重いよぉ…!」

「土産と銃の予備弾倉入ってるからな。重いだろうよ」

旅館で朝食を取りチェックアウト手続きをしてから駅に移動した。

当たり前のように荷物をサイフィルに持たせながら王都行きの汽車に乗り込むと、懲りもせず行きと同じようにまた座席で一悶着起きた。

「今度こそあたしがガーネ様の隣よ!」

「だ、だめですわ!わたくしが正式なガーネ様の側近ですもの。ガーネ様はお疲れなんです、少しでもお休みいただかないと…!」

「あ、俺一般車両行こうかな」

逃げようとしたものの結果捕まったガーネは、諦めたように「もうじゃんけんでもすれば」と呟き結果何故か参戦したサイフィルが隣に座る結果になり、一同は最後まで騒々しく王都へと帰還した。


城へと戻り、ガーネはいつものように特務室で荷物を放り投げすぐに女王の執務室に諸々の報告へ行こうと腰を上げかける。

しかし珍しく何かを考えたようで、すぐにすとんと腰を落とした。

「カルセ」

「はい、なんでしょうかガーネ様」

「陛下への謁見の取次、して来い」

「?かしこまりました、すぐに」

カルセが手続きをしに部屋を出たのを見届け、ラズリが心底意外そうにガーネを見遣って吐き捨てた。

「めっずらし。アンタいつもならすぐに飛んでいく癖に」

「俺はそれでも許されてるけど」

「はぁ?」

ガーネの妙にマウントを取るような物言いにラズリは意図がわからずに首を傾げながら、窓際のソファへ移動したガーネを視線で追った。

「寝る。呼ばれたら起こせ」


ガーネ自身、アメジを筆頭にそれぞれの『力』を信用していない訳では決して無い。しかし、城の中の方が女王筆頭にヘルソニアもおり絶対的な安心感が異なる。

城に到着して、ガーネは『ようやく眠れる』とソファの上で腕を組んで仮眠の姿勢を取って目を瞑った。


「ガーネ、ガーネ。時間だよ、呼ばれたよ」

「……ん、…おー…どのくらい寝てた」

「え?うーん…二時間くらいじゃない?」

ガーネの身体を揺り起こしたサイフィルが時計を見て首を傾げ、「寝れた?」と声を掛けた。

ガーネが思っている以上に、意外なことに全員それなりには心配をしていた。

サイフィルが一番顔に出るな、と、ガーネは今度はそちらを鍛えてやるかと考えながら立ち上がり首と肩を回して欠伸を漏らした。

「ふぁ…はー、めんどくせ。おらお前ら行くぞ。全員」


謁見の間では全員が横一列に並び、ガーネだけが一歩前で待機した。

数分と待たずに女王が玉座に座ると、揃って最敬礼の姿勢を取り女王の「楽にせよ」との声で姿勢を正した。

「陛下、本日はご多忙の折にもかかわらず謁見の機会を賜り、誠に恐れ入ります。先般は格別の御配慮により、我々一同に休暇をお与えくださいましたこと、まずもって御礼申し上げます。お陰をもちまして英気を養うことができ、職務に支障なく帰還いたしました。陛下の御信任に背くことのなきよう、今後とも職責を尽くす所存にございます。なお、本件に関する詳細につきましては、後ほど改めてご報告申し上げますが、まずは取り急ぎ帰還のご報告と御礼まで」


全員が全員、毎度ガーネの『ちゃんとしたところ』を見て感心したような顔をする。普段の口の悪さが垣間見えず、きちんと喋れるのかとまるで別人が立っているのかとすら錯覚するほどであった。アメジだけが『公式仕様』のガーネを見るのが初めてであり、隣のサイフィルに「どうしよう惚れ直しちゃう」と小さく声をかけさすがのサイフィルも苦笑いを隠せなかった。

そしてガーネが振り返り、「ほら、全員きちんと陛下にお礼言え」と促し、女性陣だけが「この為に正規の謁見の手続き手順踏んで全員連れてきたのか」とようやく理解した。


全員、それぞれ『休暇』の謝意を伝えたところでディアマントが口を開いた。

「…その割に、ガーネよ。お前は休んでおらんようだな」

「お言葉ですけど、よくこの面子で俺が休めると思いましたね。貴女の『命令』だから渋々連れてったんですよ。…ま、とは言え俺も十分『遊ばせて』もらいました」

「そのようじゃな、『頑張ってるから褒美を寄越せ』とふざけた式を飛ばしおって」

「あ、届きました?いやーさすが『ラズリが飛ばした』だけありますねーははは、あ、これ土産です」

冒頭の丁寧な口調はどこへやら、と、さすがに敬語ではあるものの普段通りの口調に戻ったガーネが許可も無くディアマントに歩み寄り、ディアマント自身もそれを咎めることも一切無くガーネから差し出された土産を手にした。


「…あれ?そう言えばガーネ、お土産何買ったんだろ?僕持たされてたけど中身聞いてないや」

「たしかに…」

全員がなんとなく注目する前で、ディアマントが土産の包みを開いた。

「…木彫りの熊」

「木彫りの熊です」

「妾は確か、お前に『木彫りの熊以外』と言ったはずじゃ」

「なので木彫りの熊にしました。……工芸品だぞ、女王の癖にそういうディスりは良くねーだろ。熊可愛いだろうが熊、多分アンタよりずっと御しやすいぞ」

「ふ」

「ヘルソニア」

「はいすみません陛下」

ヘルソニアが堪らず吹き出して笑うのをディアマントが横目で睨みつけながらも一応は受け取る。

「陛下が信任を寄せておられる腹心の部下が、心を込めて選びました土産にございます。陛下のことを思い選ばれたその真心を、まさか無下にされることはございますまい。一国を統べる御方であられる陛下におかれましては、なおのこと」

「ガーネよお前、随分と弁が立つな」

「はは、まあその熊は半分冗談ですよ。あとで別の土産お持ちします」

「ふん、で?褒美か。また膝枕でもして欲しいのか」


────この面子の前で膝枕のワードを出すとは、また随分可愛いことをする女だな。

ガーネがそう腹の中で思いながらディアマントの誰かに向けたマウントに堪らず小さく笑いながらも、一瞬だけちらりと背後に視線を向ける。

振り返ったガーネと視線が絡む前に、顔はすぐに正面に戻された。

向き直ったガーネの視線で、ディアマントは一瞬だけ表情を変えた。

「んなもん、コイツらの前で言えないこと要求するに決まってるじゃないですか。コイツらに礼言わせるのが目的だったんで、下げてもよろしいでしょうか」

「……後で妾の部屋に来い。土産を持って、な」

「承知いたしました」

再度敬礼をし、謁見の間を後にした。


「ガ、ガーネ」

「なんだサイフィル顔がうるせーな」

「女王様にさ、膝枕してもらったの…?ほんとに?マジで言ってるお前?」

さすがKY代表、全員が聞きたくても聞けなかったことをあっさり聞きに行く。


「なんだよ羨ましいのか」

「羨ましいとかじゃなくて僕、純粋に何してんのって感じなんだけど?」

珍しくまともなことを言うサイフィルに、一同小さく頷いた。

官服のシャツに袖を通し、ネクタイを締めながらガーネは楽しそうに笑っていた。

いつだったかラズリが揶揄したように、『女王と同じ笑い方』をしているガーネの顔にサイフィルはなんとなく不安そうな目を向けた。

「お前らは駄目。羨ましいかもしんねーけど、俺の特権だからな。じゃーな、膝枕してもらって来るわ」

そう言いながらしっかりと官服を着込んでから部屋を出たガーネ。

「え、ねぇほんとに膝枕なのかな!?アイツ度胸すごいけど別の方向に度胸振り切ってない!?やばくない!?」

「…サイフィルくん、ガーネくん『統裁官』として陛下の部屋に行ったのよ。普通に、私たちには聞かせない案件の仕事の話しだと思う」

一応は、休暇は本日いっぱい。

その上で着替えて行ったのを見た女性陣はさすが察しが良く、閉まった扉を見つめて肩を竦めて息を漏らした。

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