103話「統裁官閣下の街歩き」
粗方の手筈が整うと、ガーネは荷物から呪力遮断布を取り出して以前のようにローブ代わりに頭からかぶった。
「よし、お前ら出かけるぞ。どこ行きたいんだっけ?観光地?なに観光すんの」
「え、この状況で出かけるの?」
「この状況だから出かけんだよ。せっかく延泊したんだ、ゆっくり遊ぶぞ」
観光地らしく定番の土産物屋や工芸品、遊戯場や軽食屋が立ち並ぶ通り。
一行は観光客らしく当たり障り無くこの場所を訪れた。
「あー、そういや土産買わねーと」
「え、誰に?」
「可愛い可愛い女王様に決まってんだろ」
「…それ、さ。ガーネくんだから聞くけど私たちも買ったほうが良いのかな…買っても買わなくても失礼になりそうで」
「お前らはいい。どうしても気になるなら俺が『お前らから』って一個別に添えて渡しとく」
ガーネがそう言うのなら、それでいいかとスメイラは納得したが、食い気味な『お前らはいい』に若干の引っ掛かりを覚えた。
アメジとカルセが近くの射撃屋を覗きに行ったのを見て、思い出したようにラズリに視線を向けた。
「おっとそうだ。ラズリさっきの鳥の方」
「はいはいどーぞ」
ラズリから鳥形を受け取ると、方角を確認してからガーネは鳥形にふっと息を掛けて飛ばした。あっという間に風に乗って飛んでいく鳥形を見守り、サイフィルは首を傾げた。
「え、あれ?ガーネが飛ばした?ラズリちゃんじゃなくて?」
意外と目敏いなとガーネは少しばかり感心しながら、わざとらしく肩を竦めた。
「まさか。ラズリの霊力込められてんだから、『俺は風に乗せただけ』だろ」
「ふーん」
ガーネは『自分の霊力を込めた』鳥形がきちんと飛ぶ確証は半々ではあったものの、届かなかったらそれはそれと、これもまた『実験』感覚で完全に遊んでいた。
「さ、何して遊ぶんだ」
「ガーネ様、わたくしアレが欲しいですわ、取ってくださいまし」
カルセがガーネの服の袖を引いて射撃屋の景品の一つを指差した。
「あ?どれ」
「あちらです、あのぬいぐるみ。上の段の小さいうさぎのが欲しいのですが、全然当たらなくて」
「うさぎがうさぎ欲しがってんのか。貸してみ」
残り二発の弾があるのを確認し、玩具の銃に弾を込めるとカルセのねだったうさぎのぬいぐるみを目掛けて引き金を引いた。ぽん、という軽い音と共にコルクで出来た弾が弾かれ、ぬいぐるみの頭部に当たって見事に後ろに落下した。
店主が「兄ちゃん上手だね」と言いながら拾い上げたぬいぐるみをガーネに手渡し、ガーネはそのままカルセに差し出した。
「ほら。これで合ってたか?」
「これです!すごいですわ!ありがとうございます大事にします…!」
「んな景品ごときで大袈裟な」
「あっカルセちゃんずるーい!!ガーネ様あたしもあたしも!!何か取ってぇ〜!!」
「テメェは自分で取れや」
そのやり取りを聞いて店主は笑いながら「この人びっくりするくらい下手くそであっという間に全発撃っちゃったんだよ」と言っていたのを聞き、仕方無しに残っていた一発を込め直してアメジに視線を投げた。
「おめーはどれが欲しいんだ」
「んー、じゃああれ!あの髪飾り!リボンの!」
「どれだよ…あの右のやつか?」
同じように狙いを定めると先ほどと同じようにぽんと軽い音が弾けるのと同時に髪飾りが落下した。
「きゃー!!ガーネ様ありがとう!!エイミー嬉しいっ」
「はいはい良かったな」
嬉しそうに早速髪飾りをポニーテールにつけて満足そうにする様子に些か複雑な心境のガーネであった。良くも悪くもガーネ自身は純粋で健康な男子なので、性別不詳のオネェがきゃっきゃと喜んでもあまり嬉しくはなかったのが本音であった。カルセの方がまだ可愛いとすら思いながら、「さっさと行くぞ」とその場を立ち去った。
「あらアメジ、可愛いじゃないそのリボン」
「うふっガーネ様に取ってもらったのぉ、んもぅ超かっこいい!」
アメジとラズリが似たような系統の服で並んで歩く姿を後ろから眺めて、他人事のように「すげーな」と考える。
かたや一方は推定身長180cm前後の筋肉質過ぎる『明らかに男性』の身体付きのポニーテールの自称魔法少女、もう一方は推定身長145cm前後の華奢で『明らかに女児』の身体つきのハーフツインテールの自称14歳の32歳。
「スメイラ、連中遠巻きに見るとキャラが濃いんだけど。俺アレの連れだと思われたくない」
「…キャラ濃いのは…否定もフォローもできない…」
スメイラも同じようなことを思っていたらしく小さく返答しながら少し距離を取って歩いた。
「スメイラ、ちょっと身体貸して」
「は?」
「肩抱いていいか」
「え、なんで」
「後でなんか買ってやるから」
そう言って半ば無理矢理スメイラの肩を抱いて歩くガーネに、スメイラは数分で察した。
すれ違う女性客の、ガーネを見る目。
日頃一緒にいすぎて忘れる設定だが、顔が良いのが売りのような男である。
体良く『女避け』に扱われなんとなく不服ではあったが、9つ年下とは言えこれだけ顔の整った男に肩を抱かれるのが存外悪い気がしないところがなんとなく腹立たしかった。
サイフィルたちも、ガーネがスメイラの肩を抱いて歩いているのに一瞬ぎょっとはしたものの、なんとなく状況を察して触らないように下手な気を回してそれぞれ適当に店を眺めた。
坂の上にある茶屋に立ち寄り、ようやく一息ついた。
「結構坂道疲れたね…」
体力のないスメイラが疲れを露わに椅子に深く腰掛けて力無く呟いた。
適当に注文した甘味が席に運ばれると、ガーネはいの一番に串団子に手を伸ばして頬張った。
「お前運動不足過ぎ、少し動かねーと足腰から衰えていくぞ」
「デスクワーカーなんですけど私。…でもアレだね、ガーネくんが女の子と歩く時意外と歩幅とか歩調合わせるのちょっと感動した。無視してぐいぐい引っ張りそうじゃん」
「無視してぐいぐい引っ張ったら怒られたことあんだよ」
「それよりガーネ様、意外と甘い物お好きなのね。今度エイミー趣味のお菓子作りの腕発揮しちゃおうかしら」
「甘いモンは好きだけどお前が作ったのはなんか得体の知れない薬盛られてそうだから食いたくない」
「ま、失礼しちゃう!」
「ガーネ、僕と一緒に女の子ナンパしようよ!!」
「なんなのお前ほんと、一人で行けよ俺は女に困ってない」
「ガーネがいれば僕頑張れそうだよ!!」
「つーか俺、女に声なんか掛けた事無いんだけど。向こうから来るし」
「ほんと腹立つよねコイツ!!」
「…いや、良いこと考えた。俺は天才かもしれない。ラズリ人形」
ガーネは立ち上がってラズリから人形を二枚受け取り、代わりに自分の財布をラズリに渡した。
「好きに飲み食いしてろ。サイフィル行くぞ」
「え!行く行く!ガーネ年上お姉さんでしょ、僕はね〜女の子なら誰でもいいかな!女の子はみんな可愛いからね」




