第3話 最初の資格
——煌歴3624年 6月14日 10時24分
セントラル区 防衛軍訓練センター——
「よし、着いたぞ〜!!!」
白を基調とした建物の内部では、軍服や白衣を着た人が忙しなく動き回っている。訓練場らしき部屋からは怒号が聞こえてきた。周り様子を見る限りいつもの事らしい。
歩さんの方を見ると、顎に手を当てて館内マップを凝視していた。そしてすぐに頭を抱えてお手上げのポーズを取り、こちらに目を向ける。
「エルシア〜…道案内頼む……」
風船がしぼんだように小さくナヨナヨなっている歩さんの近くに来て、展示されているマップを見た。
思ったよりもそれは複雑怪奇だった。子どもが書いたような、でもなんか違うようなそんな描き方。
「おい、そこのお前ら。そんなとこで突っ立って何やってんだ」
「「ヒェッ!?」」
振り向くと背の高い、180cmくらいだろうか。黒がかった赤髪の女性が立っていた。耳にはヒレ?のようなものが着いている。服装的に軍人さんだろうか。
「え、ええええっと…!!オレら……道!道が分からなくて…!!怪しいものじゃな…」
「道?そんなのそこのマップ見りゃ…ああ。それ、多分どこの骨か知らんガキがイタズラしたやつだ。ほら、剥せるだろ。これ」
女性は勢いよくそれを破った。下から本物のマップが出てくる、破られたものはくちゃぐちゃにされて遠く離れたゴミ箱に投げ入れられた。
「チッ…また火龍んとこのガキが……まあいい、そんな緊張してんじゃねぇよ。で?お前らどこに行きたいんだ?」
「ひぇっ…お…オレらは…エルシアの、この子のライセンスを取る為だけに来ただけで…っ…」
「ライセンス?なら俺がそこに連れてってやるよ。ついでに教官になってやろうか?アイツは仕事でまだ館内にいるだろうしよ」
「えっ…でも。貴女の仕事は…?」
「あ?仕事?仕事なんて後回しでいいだろ。あと俺暇だし。遠慮すんなって、ほらこっちだ。行くぞ」
ズカズカと歩いていく彼女に二人でついていった。まるで飼い主に追いつこうとしている子犬2匹みたいだった。
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走り始めて5、6分程度だった頃だろうか。ようやく追いついてある扉の前で止まった。赤髪の方が扉に手をかける前こちらに振り向いた。
「ん、ああそういえば。何時以内に取るとか考えてたりするのか?回答によってメニュー変えるから、初めに聞いておこうと思って」
「あ…1週間以内に取ってきなさいとキトさんが…」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の目が光った。まるで獲物を見つけた猛獣のような目線を向けた。
「1週間以内ねぇ…わかった。じゃあその期間内に取れるようにスケジュール組んどいてやるよ。今日からやるか?それとも明日から?」
「え…た、多分今日からの方が良いと思います。その方が依頼を早く遂行出来ると思うので…」
「へぇ…わかった。じゃあ今日から始めるのか…そうかそうか、やる気があるヤツはいいな。んまぁそんなとこで。じゃ、中入るぞ」
彼女はドアをノックした。「誰ですの?」と声がしたあとドアがガララと開けられ、中から金髪の白衣を着た女の子が出てきた。
「あら、ロレウス大佐?私に何か用ですの?」
「「た……大佐…?」」
金髪の女の子はこちらにブリキのようにかくかくと顔を向け、目を見開いて私たちを凝視していた。信じられないものを見ているような目線……
「あ、貴方達…何も知らないで大佐と一緒に行動してたんですの?正気?よく失神せず来れましたわね…」
「酷くね?」
「酷くないですわ妥当な評価ですわ!!!……頭をわしゃわしゃしないでくださいまし!!」
「ははっ。さっ、とっとと本題に入ろうぜ?客人が待ってっからさ。な?」
金髪の子は頬をふくらませながらも溜息をつき、また椅子に座り直した。
「はぁ…めんどくさい事になりましたこと……まあいいですわ、まずは私の自己紹介に行きますわ」
「私の名前はクロエ・アンリ=フェリアーノ、防衛軍第4課の遊撃部隊所属の研究員ですわ。以後お見知りおきを」
「で、こちらはフカ・ロレンス大佐。説明は…省きますわ、後で彼女に聞いておいてくださいまし」
「貴女の自己紹介は不要ですわ。ライセンスの申請で簡単な情報は存じ上げありますわ」
クロエさんはパソコンを操作し、部屋の隅にあった機械を作動させた。
「さっ、最初に武器種決めますわ。さっ、この機械の中に入ってくださいまし…別に痛いことをする訳ではありませんわよ」
サッと促されて中に入れられた。
「少しの間だけ目を閉じてくださいませ、今から直接脳に情報を流しますわ。気分が悪くなったらすぐに言って欲しいですわ」
「目ぇ開けたら眼球焦げ焼けっからな〜、絶対に目を開けんじゃねぇぞ〜」
言われた通り目を閉じた。暗転した視界に映像のようなものが浮かび上がってくる。
———目を開けてください
機械音声が流れ、私は目を開けた。視界には先程の部屋ではなく、緑が生い茂った森の中だった。
「ここは…?」
『どうやら、ここはデータ世界のようですね。危険な場所では無さそうですが……』
———ここは対天使兵器使用ライセンス取得プログラム、武器種選択のエリアです。先にお進み下さい。
空から声がした。機械音声、館内アナウンスと同じ声。
『おや、私のご名答でしたね。さぁ、先に進みましょうか。大丈夫です、私がお傍に控えておりますのでご安心くだされ』
私たちは目の前に続く道の先に進んだ。データ世界と言われども、草花を踏む感触やなびく風の感覚はまるで現実世界にいるかのようにリアル。
『へぇ、これは素晴らしい。のどかで綺麗なところですね。あぁ…もし私に肉体があったのならば、貴女様と共に歩けるのに』
「それは…どういう意味ですか…?」
『あっ……フフ。ええ、お気になさらず』
「あ、はい…わかりました」
私たちは道のりに沿って先に進む。匂いも、風の当たり方も何もかもが本物に近く、何か案内人が喋っていたようにも思えるが…何も聞こえなかった。
道のりを進み続け、開けた場所に出た。中心だけ不自然に草が禿げている。まるでRPGの始まりの地のようだ。
———広場の中心にお立ち下さい。
また空から音声が流れた。その声に従って、私は広場の中心、草が禿げたところの真ん中へ立った。
———生体認証中……承認されました。武器サンプルを展開いたします。
ふわふわとした金色の光が集まり、1つの武器を作り上げた。百合があしらわれたレイピア、ただひとつだけ。
「これが…私の……?」
『ええ、そうですね。貴女様だけの唯一無二の武器…美しいですね。ええ…素晴らしいです』
「そ…そこまでなんでしょうか……?」
『そこまで?…フフフ、いえそれ以上です。ああ、貴女様は自分自身を卑下しないでください。あの男…ヴァロカさんの言う通り、貴女様は美しい人ですから』
怒涛の褒め言葉が私に目掛けて飛び出してくる、私は咄嗟に反応できない。何か言葉を発しようとしても喉元でつっかえてしまって出てこない。
———武器種承認中…承認されました。構築しています、ログアウトをしてお待ちください。
———ログアウトの準備中……
『おや、もうそんな時間ですか?早いですね…まあ、また向こうでまた会いましょうか』
「はい、また向こうで」
私は目を閉じ、ログアウトを待った。
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白い光が目を開ける合図を送る。それに合わせて私は目を開けた。無事に元の部屋、クロエさんの研究室に戻ってこれた。
「おっ、おかえり。どうだ?俺達の軍の技術は」
バンっとフカさんに背中を叩かれ、強制的に機械の外に出された。意外と強かったのか背中が痛い。
「おかえりエルシア!!どうだったか?痛いところとかないか?大丈夫か?」
「うるさいですわ、少しお黙りなさい2人とも。もう少し経ったら構築完了いたしますわ、お待ちくださいませ」
クロエさんは私たちをソファに促し、お茶を出してくれた。紅茶とチョコレート、好きな物だらけで幸せ…
「そういえば、ライセンス取得は何日くらいでとるつもりですの?1ヶ月?それとも…」
「あ?1週間。俺が教官を担当するから安心し——」
「1週間!?貴女が!?い…今すぐ撤回しなさい貴方たちっ!!1週間で取るのはまだしも、大佐を教官にしては自殺行為ですわ!!!今すぐにでも撤回しなさい!!」
「残念ながら、エルシアは先輩?に1週間で取ってこいって言われてんだよな。そんで俺とも約束した、もう撤回不可だぞ」
フカさんは私の背後からもたれかかるように抱きつき、猫を撫でるように顎を撫でてきた。ちょっと恥ずかしいけど、今はそれどころではない。
「なー?エルシア〜?約束したよな?俺と一緒に訓練を頑張るって。言ったよな?」
死刑宣告をされているような感覚がする。私は無事に生きて帰って来れるのかな……
ちらっと歩さんの方を見れば、十字を切っている。少し顔を青ざめさせて。あぁ…死ぬかもしれない…
「生きて帰ってきてくださいまし…エルシアさん…」
「死なないでくれ…エルシア……」




