第2話 任務の前に
煌歴3624年 6月14日 9時32分
開店から1時間ほど経った。お客さんはまだ1人も来ていない。白霧雑務店…便利屋という存在の性質上、仕事が来ない方が平和でいいのかな…と思ったり。
「あ、そうだエルシアさん、少し話をしてもいい?」
遊作さんは手に持っていた端末を持って、隣に座った。
「…はい。大丈夫です」
「そんなかしこまらないで、堅苦しい話じゃないよ。さっき、リルタから君宛に連絡が来たんだ。時間が良ければ見て欲しいなって思って」
私宛に…?何か書類に不備でもあったのだろうか。それとも、検査の内容に変化があったのだろうか…?頭の中でぐるぐると心配事が浮かんで消えていく。
「あっ、違う違う。不備とか、検査の話とかそういうのじゃなくて…ただの連絡だから。大丈夫、心配しないで」
「なら…良かったです。今確認しますね」
遊作さんから端末を受け取り、メールを開いた。
内容はこうだった。
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件名:対天使兵器のライセンスについての提案
本文:白霧雑務店 エルシア様
よー、元気にしてるか?急な連絡すまないな。急ぎの連絡ではないんだが、早めに話しておこうかと思ってな。
話はまあ件名通りだ、対天使兵器(のライセンスを取らないかっていう提案だ。
取るか取らないかは、あんた自身の意思で決めてくれ。取った方が仕事は楽だとは思うが、やりたくないならやらなくてもいいだろう。
早い人では1週間くらいで取れるから、心配するな。
リンクを下に貼っておくから、取りたい場合はそこから申請しておいてくれ。
リンク:*******……
PS.検診はちゃんと1ヶ月毎に1回来るようにしてくれ。
あと、俺の上司が今度の検診の時にあんたの身体のことが見たいって言ってた。次の検診のとき、見てる人が1人増えるが…よろしくな。
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対天使兵器…キトさんも歩さんも、遊作さんもヴァロカさんも持っているそうだ。
それに。もしライセンスが取れて、極夜に出入りできるようになったのなら……ヴァロカさんのことも探せるかもしれない。ならば…
「……申請します」
「うん、わかった。君の端末にこのメールごと転送しておくよ。後で空き時間にでも……」
チリンっと、入口のベルが鳴る。遊作さんとふたりで音の方を見ると長身の男性が立っていた。それと同時に、キトさんと歩さんも2階から降りてきた。
「……あら、お客さん?座ってちょうだい。今からお茶を出すから、ちょっと待っていてもらっても?」
キトさんと歩さんは給湯室らしき所へ行き、お茶とお茶菓子を青年の前に出した。
「こんにちは、白霧雑務店へようこそ。まずはお名前をお伺いしてもよろしいかしら」
青年は組んでいた足を直し、少し長い瞬きをした後こちらを見つめ、口を開いた。
「……ヒュース・プラメール、ヒュースと呼べ。軍の第五課所属」
「わかった、ヒュースさんね。それで?今日の依頼は何かしら?」
紺色の髪の青年…ヒュースさんは1度目を逸らした後、再び前を向いた。その目には少しの迷いがあるように思えた。
「……ここから数百メートル。サクラ地区とボタン地区の外れにある極夜に調査に行きたい」
「あっちのって、あの教団の跡地…?一応聞くけど…何のためにあそこに行くのかい?」
「…軍での任務、ただそれだけだ。それ以上も以下もない 」
教団…?知らない単語がスラッと流されてしまった。聞き返す勇気も時間もない。後で聞くべきかそれとも——
『そんな時のための私案内人でしょう?忘れちゃいましたか?それとも私のことを待っていたのですか?』
いきなり話しかけられて肩がビクッと震えた。急に話しかけられるとやっぱり驚いてしまう。幸い他の人にはバレていない。
(急に…話しかけないでください……怖いです)
『おや、失礼。話を戻しましょうか。なんでしたっけ、教団について知りたいと。ええ、わかりました。私が説明致しましょう』
案内人はコホンっとひとつ咳をし、また語り始めた。
『まず、教団とは何か、から話しましょうか。端的に言えば、“壊滅した極悪非道の組織”と言うのが正確でしょう』
『彼らの所業は人間ちのこと、違法な研究、焦土作戦etc…と、なかなかに酷いことをしていたのです』
『ですが、悪い事をした子には罰が与えられるように、教団にも天罰が下ります。ある明星の手によって』
『彼の名はルシアン・サンディー。彼の活躍により悪を殲滅させることができました。内容については省略させていただきますね』
ルシアンさん…この前遊作さんから貰った資料の中にあった名前。関わることは多分ないと思うけど…色々な事業をしているらしいから、名前はよく聞くようになるのかな。
『ああ、あと…教団の関連で大切な方がもう1人。この方も明星のひとりです。一応、ですがね』
『名は時喰伊織。彼女は第二創世…俗に言うちっちゃい世界の復元に成功したことで明星として名を上げました』
『ですが、彼女は教団と手を組みある一つの街を壊滅させました。まあ、今はこの話は必要ありませんので省略しましょう』
『さて、私から教えられることは無くなりました。彼らのお話に戻りましょうか』
そう言って、案内人は姿を消してしまった。色々と謎を置いていっちゃったな…
「そう、なら依頼成立。アタシたちに任せてちょうだい」
いつの間にか依頼の話が終わっていた。何も知らないまま依頼を受けることとなってしまった。どうしよう。
焦りを募らせていると、歩さんからメモを渡された。チラッと目をやるとキラキラした目でグッドサインをしている歩さんが見えた。
「ああ、そうだ。依頼開始まで1週間だけ待っててもらってもいい?新人を一緒に連れていきたいの。だから対天使兵器のライセンスを取る間、少し待っていて貰えないかしら」
ヒュースさんは数秒程度の間目を閉じ、何かを考える顔をしたあとにまた口を開いた。
「わかった、1週間だけ待つ。それ以上過ぎるようであれば先に依頼を遂行してもらう。それでいいか」
「わがままを聞いてくれてありがとう。じゃあ、私とあそこの紫髪の子、エルシアとで依頼を受けるわ。よろしくお願いするわね」
話が終わり、彼は会釈をしてお店から出ていった。お店の中では微かな静寂が広がっていた。
「さて、エルシア。先輩命令よ、1週間以内に対天使兵器のライセンスを取りなさい。絶対命令よ」
「え、えぇ…はい…」
「ごめんね、エルシアさん。キト先輩がこうなっちゃったらもう誰にも止められないからさ…ごめんね」
「まあ、エルシアなら大丈夫だ!オレが保証する。よーし!オレと一緒に今日から特訓だ〜!!!」
「え、ちょっとまっ…ひぁぁぁ!?」
歩さんは私の手を掴んで店の外に走っていってしまった。ほぼほぼ引きずられていると同義のまま、私たちはバスの方面に向かっていた。
「……騒がしくなりそうだね」
「そうね…」
大遅刻しました、申し訳ございません。




