第4話 試験開始
——構築完了。展開を開始いたします。
絶望感が漂う私たちの間に気の抜けた機械音声が流れた。今の状況を無視して仕事を全うする機械の鑑のような、そんな声。
「今ですの…?はぁ、迎えに行ってくださいませ、エルシアさん。この話は後で詰めますわ…」
輪から追い出されるようにして武器の元へ行かされた。少し強引め……。
武器の元に辿り着く。百合があしらわれた、綺麗で可愛らしいレイピア。私はそれを手に取った。
この世の汚れなど知らぬと言いたいような美しい白銀の刃、白百合が巻きついた鞘…全てが綺麗で美しかった。
まるで美術品のショーケースが外されているようだ。
「おお!!!すっっごく綺麗な剣だな!!エルシア!!」
歩さんが私の周りをぴょんぴょん飛び回りっている。珍しいものを見つけた子どものようだ。
「対天使兵器というものは、言わば所有者を表す象徴…または心象的物質なのですわ。でも…」
クロエさんは立ち上がり、私が手に持つレイピアをまじまじと見始めた。そして、また口が開いた。
「ここまで、色濃く出るのは初めてですわね…ねぇ大佐、貴方のものを1度見せてくださいまし?」
「ん?ああ、いいぜ」
フカさんは右手を掲げ、赤い宝石を落とした。それがピカっと光り、大剣の形に変わった。
「こんな感じだな」
「一般的な対天使兵器の装飾や形状はこの通り、多少のものになりますわ」
「簡単に言えば、お前は特殊な人間だってことだ。クロエんとこのあのチビの剣士と同じ様なな」
「あの人は…例としては特殊すぎます。ですが…それでいてあの強さなのですから、怖いですわね。普通に」
2人の話を聞く限り、私の過去は少し特殊らしい。何があったのかはまだ分からないけれど。
歩さんの方をちらりと見る。目をキラキラさせて、フカさんの大剣をまじまじと見ていた。どうやら、歩さんはかっこいいものが好きらしい。
「なぁなぁエルシア!!!この剣かっこよくないか!?これで天使をバッタバタ薙ぎ倒しているんだろ!!めっちゃかっこいい…」
犬であればしっぽをブンブンと振っているのだろうと思えるくらい、歩さんは興奮していた。可愛い、というものなのだろうか。
「アッハハ、喜んでもらえて何よりだ。こいつも嬉しく思っているよ。んじゃ、訓練始めるか」
明るい談笑が一気に冷えきったように感じた、フカさんの一言で一気に。
「……生きて帰ってきてくださいまし、エルシアさん」
「死なないでくれエルシアぁ…」
2人はもう諦めムードに入ってしまった。今から戦場に向かう兵士に対してかける言葉で、訓練に向かう人間に対してかける言葉ではない。そこまでたいへ——
「さっ、とっとと終わらせようぜ。お前の期限は1週間だろ?だったら今すぐ訓練しよう」
腕を捕まれ、部屋から引きずり出される。後ろから歩さんの悲鳴が聞こえる。確信した、私…エルシアはおそらくここで死ぬ……
『フフ…可哀想な貴女様……』
「え、まっ…私、死んじゃうのですか?」
『どうでしょうね』
案内人の曖昧な回答に少しムッとしながら、フカさんに抵抗出来ずに連れていかれた。
ここから始まることが地獄であるとは知らずに。
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——【1日目】——
「がんばれエルシア!!!あと1周だ!!」
「ひぇぇっ……!!!」
この施設にあるランニング場を十何周もさせられている。動いていなかったのが目に見えてわかるくらい、体力が落ちてしまっている…
歩さんが横で並走している。同じ時間走っていたはずなのに、彼には呼吸の乱れがない…体力多いのかな……
「はー!終わったぁぁ!!!お疲れ、エルシア!」
「ふぇ…ふぇぇ……」
——【2日目】——
「遅いエルシア!そんな振り方じゃ、仕事のために極夜に行っても生きて帰って来れねぇぞ!!!」
「は、はひぃ…!!」
今日は武器を使ってみる日だ。1週間しかないからか、スケジュールが缶詰並に詰められているような感覚がする。
かれこれ20分ぐらい振っただろうか、ようやく休憩の合図が出された。
「大丈夫か…エルシア……?」
歩さんが冷たい飲み物を首に当ててくれた。運動用の服に着替えたとしてもこのハードスケジュールはきつい…
「は…い、なんとか……」
飲み物を受け取り、ひとくち飲む。生き返る感覚がした…喉が潤う、生きてるって実感する感覚…
ふと、フカさんがいないことに気づき、彼女を探した。いた。出入り口付近で青髪の人と楽しそうに何かを話している。同僚なのだろうか…?
——【3日目】——
今日は座学らしい、この前施設のどこかの部屋に呼び出された。フカさんの姿は見えない。
「あのかっこいい人、どこいったんだろうな〜」
「そうですね…いつもは私たちよりも早く来ているはずなのですが…何かあったのでしょうか」
そんな話を二人でしていると、入口の扉が開き、クロエさん…ではなく、リルタさんが入ってきた。
「よっ、久しぶりだな2人とも。元気にしてたか?」
「リルタ!!リルタじゃないか!!!本当に久しぶりだな!!」
歩さんはリルタさんに勢いよく飛び込み、握った手をブンブンと振っていた。まるで大型犬だ。
「えっと…お久しぶりです。リルタさん」
「おお、エルシアか。体の不調は…特になしか。2人とも、元気そうでなによりだ」
「ここに来たってことは〜…リルタが座学をしてくれるのか!?いや〜、たのし「俺は座学はやらんぞ」
歩さんの動きが止まった。握っている手が空中で止まっている。表情がどんどん憂いを帯びていく…
「あー…泣くな歩。今日は渡すもん渡しておさらばするだけだ。それに…俺に会いたいのなら、エルシアの検診に着いてくればいいじゃねぇか」
パーッと、ブルーな表情からイエローな表情に変わって行くのは目に見えてわかるように鮮明だった。分かりやすい。
——渡すもの?
「あの…リルタさん。渡すものって一体…」
「ああ、これだこれ。フカ大佐が言ってたんだが、『これを今日中に読み終わってくれ。明日テストをするから。』だそうだと」
目の前に出されたのはミステリー小説で鈍器として扱われそうなくらい分厚い本。推定500ページはある。
「ただの法律書…対天使兵器のためだけのな。まあこんなのは2時間で覚えきれ「「無理だ/です!!」
——【4日目】——
「ふぇ…ひぇぇ……」
正午を丁度2回回った14時、ようやくテストが終わった。本は好きだけど、当分読みたくないなと思う…
「大丈夫かエルシア…あ、親父が言ってた!頭が疲れている時は糖分を摂った方がいいって…あった!」
差し出されたチョコを受け取り、ありがとうと小声で伝えて口に放り込む。美味しい…甘い…生き返る……
「ありがとうございます…歩さん……何日も一緒に、泊まりで付き合ってくれて…」
「ん?なんで『ありがとう』なんか言うんだ? オレらは家族。家族に付き添うのは当たり前のことだろ?」
顔をぷんぷく膨らませてむすーっとしている彼の顔を見た、また怒らせてしまったのかな…
「エルシアはここに来たばかりで、右も左も分からないんだから、最初はオレらについて行けばいいの」
頭にもうひとつチョコを乗せられた。彼自身も1つ口に放り込む。怒っていた顔が一瞬で砕け、ほんわかとした表情になった。甘いものの力はすごい…
2人で小分けされているチョコを食べていると、採点が終わったのかフカさんが戻ってきた。手にはさっきのテストが握られている…
「おー、イチャイチャしてんな。これから地獄のテスト返しが始まるってのに」
じ、地獄の…?そう言われると…一気に不安になってくる。落ちてたらどうなるのだろうか…
「おっ、怖がってる怖がってる。まあ安心しろ、地獄とか言ったが……」
思わず固唾を飲む、不安で不安で仕方がない…
「……筆記試験は、合格。おめっとさんだな」
安心しきったのか、椅子から崩れ落ちてしまった。
「エルシア!?ちょ、大丈夫か!?」
一夜漬けだし、そもそもの話1回で受かるとは到底思っていなかった。その反動か安堵が半端ではない。
「まさか、筆記試験を1発で合格しちまうなんてな。自分の想像以上に要領がいいんじゃないか?お前」
「すごいじゃないかエルシア!!俺も先輩として誇らしいよ!!」
すごい褒められている、2人から出る致死量の褒め言葉に等しい量を浴びせられて、恥ずかしくて死にそう…
「これで明日の実技試験にも期待できるな」
「「え…?」」
——【5日目】——
武器を持ってフカさんに呼ばれた部屋に着いた。タイムスリップしそうなポットのようなものが等間隔に並んでいる。
「あ、ようやく来たか。よし…今から最終試験と行こうか。ん?こんな所で何をするつもりなのかって顔してんな」
「ま、百聞は一見にしかず。とりあえず、エルシアはそこのポットに入ってくれ。今から起動するから」
促されるままに中に入り、楽な体勢を取った。武器種の選定の時の機械と似ている……?
「セット完了っと。今からこの前みたいにお前の意識を仮想空間に飛ばす。そして、制限時間内に決められた数の天使を倒せば合格だ。わかったか?」
「はい、頑張ります…っ」
ポットが閉められ、私は目を閉じた。
——受験者を確認、転送を開始します。
お久しぶりです、霜月東です。本当にお久しぶりですね。さて、この次の話からしっかりと話を進めていくので、楽しみに待っていてください。
それと、Xやポケユニの方で小出ししている新作もちょこちょこ書き始めさせていただいています。
これからも応援していただけると幸いです。
それでは、また次の話まで。




