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97、バナバナ星 〜3つ目の闇

「ママが、やっと帰ってきた」


(はい? 誰がママなんだ?)


 黒い髪の見たことのない年配の女性だ。僕を真っ直ぐに見つめている。この姿の彼女には会ったことないけど、たぶん黒い女神だよな? テントの前で、ずっと待っていたように見える。


「遅くなりました。もう朝になりますね」


「そうね、もう交代の時間だけど……」


 年配の女性は、僕にキュッと抱きついてきた。女神バナバナ様の花粉が付いた白い魔道具服は着てないのに、この行動はどういうことだ?



 誰かに事情を聞こうと、辺りを見回してみた。テントの中は静かだな。寝静まっているようだ。


 新たに別のテントも出してある。人が動く姿が見える。捕らわれていた子供達のために、新たなテントを出したようだ。だけど、子供好きな女神様の姿は見えない。タイガさんが世話をしているのかな。あっ、リュックくんもいるね。


 神族は、一晩くらいは眠らなくても大丈夫だけど、女神様は、夜は絶対に眠るんだよな。女神様は、イロハカルティア星にいるときは、何年も眠らなかったこともあるらしい。他の星にいるときには、回復できないから眠ると言っていたけど、やはりそれほど負担になるのだろう。



「ママに会いたかった」


 年配の女性は、僕に抱きついたまま、穏やかな笑顔を向けた。見た目に反して、子供のような振る舞いだ。


「僕が、ママなんですか?」


「ママがそう言っていた。ううん、違う。ママの……あっ、秘密なのかな」


(意味不明なんだけど?)


 理由を尋ねようと口を開くと、彼女は姿が変わり始めた。この花が閉じて、別の花が開くのかな。




「あれ? ママ? 何してるのかしら」


(また、ママだ)


 さっきの年配の女性よりも、さらに歳を重ねたように見えるキツそうな女性だ。こんなお婆さんに、ママと呼ばれても……。


「いま、島から戻ってきたんですけど、さっきの貴女がギュッと抱きついてきたのです」


 僕から距離を取り、怪訝な顔をしている黒髪のお婆さん。髪は白髪になったりしないんだな。


「ふぅん、そうかい。ママだから仕方ないね」


「僕が、ママなんですか? 女神バナバナ様ではありませんよ」


「ママの匂いがするモノは、ママだよ。さっきの花は、その匂いに惹きつけられたから抱きついたのだよ」


 そう言いつつ、黒髪のお婆さんは僕の胸元に顔を埋めている。慌てて離れたのに、結局くっついてるよ。


(どうなってるんだ?)



『翔太、花粉が闇に変わったみたいだよ』


(あっ、『ライト』? 起きたの?)


『何だよ、さっき、俺の闇も使っただろ』


 声の主は、この身体の元々の持ち主『ライト』だ。普段『ライト』は僕の中で眠っている。だけど、そっか、さっき闇の反射を使ったから、起こしてしまったんだ。


(そうだった。えっと、花粉が闇に?)


『うん、皮膚に付いていた花粉が、翔太の闇で朽ちたのかな? 気づいたときには、異質な闇が入ってきていた。薄い闇だから、意思はないみたい』


 僕は『眼』に魔力を込めて、黒髪のお婆さんがくっついている付近を『見て』みた。


(あっ、根切り男さんの闇を取り込んでしまったのかな? 確かに意思のない薄い闇だね)


『もっと前からあったんじゃないか? 薄くて弱いけど、俺達の闇とは混ざらない異質な闇だよ。そのお婆さんは、この異質な闇を吸収してるぜ』


(えっ? あ、匂いを嗅ぐと……)


 ゲージサーチをした瞬間、黒い女神の体力ゲージがパッと青く変わった。スゥハァと匂いを嗅いでいると、ゲージがぐんぐん回復していく。


『居座ってるけど、どうする? 追い出してやろうか?』


(全然気づかなかったよ。身体に悪い影響があるなら、排除しよっか)


『翔太、どっちかといえば良い影響だと思うよ。俺も、この闇を食えるみたいだ』


(ちょ、『ライト』、そんなことして乗っ取られない?)


『意思がないから、ただのエサだよ。植物系の闇ってことは、サラダみたいなものかな』


(へ? あー、そうかな? そういえば、さっき根切り男さんの闇を扱いやすいと感じたけど、自分の中にある闇と同じだからかな)


『あのアンデッドの闇の方が濃いぜ。たぶん、身体の中の薄い闇が発酵すると根切り男の闇になる。肥料と一緒だよ』


(肥料?)


『あー! ちょ、俺のお気に入りの場所に入ってきた! 追い出してくる!』


 そういうと、『ライト』の気配はスッと消えた。ナワバリ争いだろうか。お気に入りの場所なんてあるの?




「ライト、遅かったやないけ」


 新しいテントから、タイガさんが出てきた。そして僕の腕の中に視線を移すと、面白そうにニヤリと笑っている。


「タイガさん、お疲れ様です。あの、この方は黒い女神さんですよね?」


「あぁ、おまえが聖魔法を使ってからは、ずっと外におるんや。死花まで、花が咲くようになったとか言うとったわ」


「死花?」


「せや。黒い女神は、死花だらけになっとったらしいで。だから、霧のような死霊のような姿で森を漂っとったんや。その寝とる婆さんも、死花やったんちゃうけ?」


「そういえば、黒い女神さんって亡霊みたいに漂ってましたね。聖魔法が、ここまで届いたんですか?」


「いや、さすがにそれはないやろ。土壌で繋がっとるんちゃうか? 知らんけど」


(元祖知らんけどだ)


「タイガさん、その知らんけどって……」


「なんや? 文句あるんか」


「ありますよ。リュックくんが真似するんで、リュックくんには変な言葉を教えないでください」


 思わず語気を強めてしまった。すると、タイガさんは呆れたような顔をしている。


「ライト、おまえなー。いつまでそんなこと言うてんねん。魔人は、100年で安定するんや。リュックは、もう魔人的にも大人やで」


「いま、めちゃくちゃ反抗期なんですよ」


「おまえ、あほか。反抗期やなくて、ただ逆らっとるだけやないけ? リュックを甘やかすから、そうなったんや。それが嫌ならビシッと命令せぇや」


「すぐに、知らんぷりするんですよ。誰かにそっくりな顔して」


「ふふん、そら、しゃーないわ。女神が作った魔道具やから、性格は似とんねん。せやけど、リュックはマシやと思うで? 知らんけど」


(また、知らんけどって……)


 はぁ、タイガさんも、わざと知らんけどって言ってる気がする。もういいや。




 腕の中で眠っていたお婆さんの姿が変わった。別の……お婆さんだ。ゲージサーチをしてみると、死にかけの赤色だ。黒い女神は、花ごとに、体力も魔力も独立しているのかな。


「あっ、ママ!」


(また、ママだよ)


「体力が減ってますね」


「そりゃ、年寄りだからねぇ」


 さっきのお婆さんとは違って、穏やかな雰囲気だな。だけど結局、スンスンと鼻を動かすと僕の胸元にくっつくんだよね。



「ライト、婆さんにモテモテやんけ」


「この人も死花だったのかな。僕には、根切り男さんと同じ回復効果があるみたいです。女神バナバナ様が勝手に、僕に何かを植え付けたのかもしれません」


「ふぅん、根切り男とかいう奴と、同じアンデッドやからやろ。根切り男は、女神バナバナの分身体やけど、弱っとったらしいからな。おまえの素性を知って、利用しようと考えたんちゃうか?」


(あれ? 知らんけどって言わない?)


「タイガさん、それ、どこからかの情報ですか?」


「いや、俺の勘や。まぁ、だいたい当たってると思うで」


(まただ。知らんけどがつかない)


「タイガさん、知らんけどって付けないんですね」


「は? 何を言うとんねん。不確かな勘の話やで?」


(うん??)


 もしかして、知らんけどって付けるときは、自信があるのかな。無責任発言にしか聞こえないけど。



「そろそろ朝やな。リュックが、娘を呼びおったで。もうそろそろ来るやろ」


 タイガさんは、ため息まじりにそう呟いた。


「えっ? アマゾネスの……」


「ちゃうわ。デイジーは人間やないけ。やかましい方や」


 そうか、そうだよね。魔人の子を捕らえようとしていた奴らがいる星に、デイジーちゃんを呼ぶわけがない。やかましい方って……デイジーちゃんの方じゃないのかな?


「えっと、ドラゴン族のマリーさん?」


「あぁ、アイツは、アマゾネスの女王と仲良しやろ」


「確かに、前世は日本人でしたね。なぜ、マリーさんを?」


「アマゾネスの子供達の迎えや。行方不明になっとった宇宙船の試運転を兼ねてるらしいわ」


「迷子の宇宙船が見つかったんですね」


「あぁ、マリーが見つけたらしいで。知らんけど」


(この知らんけどは、自信ありか)



水木金はお休み。

次回は、2月18日(土)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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