88、バナバナ星 〜子供達の回復と、彼の到着
石像……呪詛神デルガンダの指示で、そばにいた石像信仰の人達が、砕かれた木の根の穴を広げようとしている。だけど、テスロさんが木の根のバリアを修復していくから、なかなか木の根の覆いを取り外せないみたいだな。
さっき、お頭さんが、テスロさんのことを異星人だと言っていた。彼が植物であることは間違いないらしい。だから、こんな風に、木の根を操ることができるのか。
彼は、宇宙海賊レギュローさんからキャプテンアールへの口利きを期待して、僕達を白い女神に会わせ、そして無事に町に戻れるようにと、自らこんな危険な役割を……。
(何か事情があるんだろうな)
火山湖のほとりで、彼が高速船の運転手をしているのは、神戦争が終わった後からだと、お頭さんが言っていた。
お頭さんは、この星の女神バナバナ様が生み出したデンデンと呼ばれるいわゆる土着民だ。お頭さんが知ってるということは、女神バナバナ様も、テスロさんのことを知っているはずだ。
あっ! 僕と同じようにテスロさんも、女神バナバナ様から何かを依頼されて、火山湖にいるのだろうか。
(うん、きっとそうだよな)
だから彼は、この星の植物を自在に操ることができるんだ。依頼されているとすれば、やはり、火山湖に罪なき死人が沈まないように、ということかな。
そう考えると、彼の行動は理解できる。子供達が捕われている檻の中に入ったのも、子供達を守る木の根のバリアを作ったのも、女神バナバナ様の依頼によるものだろう。
(彼の力を知りたいけど……)
高速船の中で、もっと話を聞いておけばよかった。今更こんな状況で、テスロさんの能力を尋ねることはできない。
「何が起こっているの?」
「おじさんは誰?」
子供達は、小声で話しているが、テスロさんが仕草で彼女達に喋らないようにと指示をしたようだ。
僕は、まだ透明化は解除していない。檻の中にいる子供達の治療は完了したけど、念のためだ。独特な回復魔法の使い方をしたから、僕の名前を出している子がいた。僕が姿を見せると、騒ぐ子がいるかもしれない。
呪詛神デルガンダは、全盛期のチカラはないようだ。本来なら魔防バリアも砕かれただろう。それでも、僕が簡単に抑えられる相手ではない。用心深く行動しなければ。
「石像神、どうやら植物のバリアは、我々を阻もうとしているようです」
『ふん、女神バナバナが逆らうか。それならば』
バキバキッ!
再び、強い衝撃を感じた。石像から放たれた魔力が、さっきよりも広範囲の木の根を破壊したようだ。だが、魔防バリアは破られていない。
石像信仰の人達がこちらを見て、呆けた顔をしている。彼らの視線の先には、子供達がいる。捕われて弱っていたはずの子達が、みんな立ち上がっているから、驚いたみたいだな。
「石像神! 木の根に阻まれています!」
『チッ! 女神バナバナに、ここまでの力があるなんて聞いてないぞ。ならば、仕方ない。全力でいくか』
「石像神! そんなことをすると魔人の子供まで殺してしまいますよ」
(うん? 何か変だな)
石像に従っている神らしき人のひとりは、石像を……呪詛神デルガンダを思い止まらせようとしているかのようだ。
呪詛神デルガンダに従っているが、黄の星系に、いやイロハカルティア星に、ゆかりのある神なのかもしれない。
僕は、『眼』に魔力を込めて、彼の顔を『見て』みた。うーむ、記憶にはない。だけど僕は、神戦争で死んで赤ん坊からやり直したから、神戦争以前の記憶には自信ないんだよな。
テスロさんの様子を見てみると、かなり疲れているような気がした。緊張しているのだろうか。
ゲージサーチをしてみると……彼は体力も魔力もかなり減っている。特に体力がヤバイ。赤色に近いオレンジ色だ。
ゲージの色は残量が、80%以上なら青、60%以上なら緑、40%以上なら黄、20%以上ならオレンジ、それ未満なら赤だ。
彼の今の状態は、体力は20%ギリギリくらいしか残っていない。普通なら、ダルくて動けない残量だな。
どちらのゲージも2本あるから、イロハカルティア星の住人ではない。イロハカルティア星の住人なら、ゲージはそれぞれ1本ずつだ。
(ちょっと、試してみるか)
呪詛神デルガンダがいる前で、サーチ魔法は使えない。魔力の痕跡を辿られると、姿を隠す僕のことがバレる。
僕は、テスロさんの手に、火無効付きの体力1,000回復ポーションを置いた。
「えっ? これは?」
「疲れた顔をされてるので、飲んでください。体力を少し回復します」
「あぁ、助かる」
テスロさんは、ラベルを確認すると、すぐにポーションを飲んだ。すると、ゲージの色は黄色に変わった。たった1,000回復で、20%以上も体力が回復したようだ。
僕は無言で、もう2本手渡した。テスロさんは素早く飲んでいる。体力ゲージは青色になった。
イロハカルティア星の人族の体力は1,000程度だ。冒険者になると、数千から1万を越える人もいる。魔族はピンキリだけど、高い人なら10万を越えるんじゃないかな?
テスロさんは、イロハカルティア星の人族の中級冒険者並みの体力だろう。植物なら体力値は高いと思っていたから、ちょっと意外な結果だ。
僕は、最近はステイタスを測ってないけど、体力値は彼より低いと思う。赤ん坊からやり直して、かなり改善されたけど、種族的に半分アンデッドだからね。体力オバケの脳筋魔族のようには育たなかったな。
「オレンジの香りがするわ」
「しーっ、ライトさんのポーションよ。珍しくもないわ」
「でも、誰かが回復してくれたよね? それで、あのおじさんが体力を……うん? 魔法を使ったら魔力が減らない?」
「静かにしなさい。死ぬわよ?」
アマゾネスのリーダー格の少女に叱られて、子供達は、慌てて口を閉じた。だけど、ソワソワしているんだよね。僕が来たと勘付いたのかな。
いや、他の星だから、リュックくんが来たと思ったのかもしれない。リュックくんは、アマゾネスの女王ローズさんの伴侶として、あまりにも有名だもんな。
『はぁぁ、もう、うるさい! それに、妙な奴が来た。すべて、凍てつかせてやる!』
石像が飛び跳ねたのか、地面が少し揺れた。呪詛神デルガンダは、かなりチカラを落としているようだな。その苛立ちからか、ヤケを起こしているのだろうか。
(あっ! 根切り男が来たんだ)
木の根を砕くことを中断し、奴らは別の方向に気を取られている。
「マズイ奴が来たぜ。根切り男と呼ばれる処刑人だ。女神バナバナの朽ちた花から生まれたというアンデッドだぞ」
テスロさんは、根切り男に気付き、木の根のバリアの修復を急いだ。檻を覆う木の根によって、さらに暗くなり、子供達は不安げな表情を見せている。
「テスロさん、大丈夫ですよ。僕は、根切り男さんとここで待ち合わせをしていました。ここまで空を覆う必要はありません。堅固すぎるバリアの維持は、魔力を使いますから」
「は? 処刑人と待ち合わせ? あんた、一体、何者なんだ?」
「僕は、ポーション屋ですよ。動物の子供達は、暗さに恐怖を感じます。木の根の内側に魔防バリアを張りました。さらにその内側には、水系の変異バリアを張っています。石像の凍てつく波動は通しませんから、安心してください」
そう言うと、空を覆う木の根がサーっと動いた。
「あんたは、まさか……このポーションを作るイロハカルティア星の神族か」
テスロさんがそう言うと、子供達はキョロキョロし始めた。姿を見せる方がいいかな。リュックくんじゃなくてガッカリされるかもしれないけど。
僕は、透明化を解除した。
「あっ、やっぱりライトさんだっ」
「しっ、静かにしなさいっ!」
(叱る声の方が大きいよ)
「皆さん、お静かに。ちょっと僕は、邪神を狩ってきますね」
「うん、わかった〜」
「しっ、静かにしなさい!!」
僕は、リーダー格の少女に魔法袋を渡した。
「お弁当が入っているので、皆さんで食べて待っていてください。あのおじさんは、テスロさんという船の運転手さんです。僕をこの場所まで運んでくれました。彼にも、分けてあげてくださいね」
「はい、わかりましたわ」
「ちょっと、あんた……石像は、おそらく青の神ダーラの直臣だぞ。動物が狩れる相手じゃない」
「テスロさん、僕は一人じゃないので大丈夫です。それに、奴の手グセは熟知していますからね。子供達を守ってやってください。あー、女尊男卑の国の子供達なので、ちょっと言葉遣いは悪いかもしれませんが」
「えっ……いや、おまえ……」
僕を引き止めようとする彼の手に、リーダー格の少女が弁当の包みを置いた。
「テスロさん、ライトさんのことなら心配いりませんわ。彼は、奴らが恐れている魔人リュックの主人ですから」




