89、バナバナ星 〜それぞれの策
僕は、透明化と霊体化を使い、檻をすり抜けた。アマゾネスの子供達が、僕のことをテスロさんにどこまで話すかはわからない。でも、まぁいい。なんとなくだけど、彼のことは信用できると感じた。
(かなり離れていったんだな)
檻の前には、見張りが2人いるだけだ。石像の姿もない。他の全員は、根切り男の方へと移動したようだ。
僕の足元に透明化したワープワームが現れた。いつもながら、ほんとコイツらは優秀だね。僕は、霊体化だけを解除して、ワープワームのクッションに乗った。
霊体化を解除したとたん、この星の高温多湿な大気がまとわりついてくる。僕が簡易バリアを張るのを待って、ワープワーム達は、僕を移動させた。
(ほんと、優秀だよな)
◇◇◇
僕が到着した場所は、子供達のいる檻が見えないくらい離れた湖岸だった。
透明化しているのに、僕が来たことに根切り男は気づいたようだ。まぁ、うん、彼のすぐ近くにワープしたからだよな。
こっちが戦闘形なのか、彼は、緑髪の大男ではなく、後頭部に無数の花が咲くバケモノの姿をしている。だけど、花に水がかかると枯れるんじゃなかったっけ? 大男の姿なら、花は隠れているのにな。
(しかし、なぜこんな場所に?)
ワープワーム達は、効率を考えたみたいだけど、周りをぐるりと石像信仰の人達に囲まれている。しかも、石像が今にも魔力を放とうと、膨大なマナを集めている真ん前だ。
「アンデッドのおう、ワレが、ちと、しくじッタのだが……」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
僕は、石像との間に、魔防バリアを張った。そして、根切り男の後頭部に、簡易バリアを張る。
「ウん? ワレのあたまに、なにヲした?」
「花がぬれないように、後頭部にだけ簡易バリアを張りました。白い女神さんは、一緒じゃないんですか?」
根切り男と小声で話していても、彼らに声は届かないらしい。こちら側は火山湖の波が高い。その音にかき消されているようだ。
「しろイめがみは、かざんのホウにいる。せきぞうガ、なぜかワレのほうニ、きたノだ。こうほうかラ、タタくつもりだっタが」
(作戦を立ててたんだ)
ワープワームから映像が届いた。ちゅうど反対側の湖岸で、白銀の鎧を身につけた白い女神が、石像信仰の人達と対峙している。
さっき石像のそばにいた神らしき男の姿も映っている。そうか、二手に分かれたんだな。
『臭いアンデッドは、凍てつき枯れよ!』
石像……呪詛神デルガンダの目が光った。
広場で見たものとは少し違う、何本ものビーム状の光が、広範囲に突き刺さる。だが、魔防バリアは砕けないようだ。
根切り男は、腕でガードする仕草をしているが、彼には石像の光は届かない。
「あレ? バリアか」
(あっ、言ってなかったっけ)
「石像との間に、魔防バリアを張りました。とりあえず、石像を壊しましょう。根切り男さん、闇の放出はできますか」
「ハ? ワレは、つねに、ヤミをたれながシテいると、しろイめがみが、いってイル」
そういえば、彼の足元というか、踏み締める足跡には闇の痕跡が残っている。彼はこの星の土壌だったよな。
『なぜだ? なぜ、バナバナのアンデッドが凍らぬ? 炎を操る白い女神は、火山側の船着き場で足止めをしているのではないのか!』
(誰に言ってるんだ?)
石像と会話をしていた弱小神呼ばわりされていた人達は、皆、白い女神の方に行っている。奴は、根切り男と白い女神を分断したつもりらしいけど、逆に奴が分断される結果になったようだな。
「せきゾウ、ゆるサない! こわす」
根切り男が、地面から石像を攻撃し始めた。土の中から、トゲのようなものが勢いよく飛び出してくる。強毒性の闇エネルギーの塊のようなトゲだ。
(うわ、やばそう)
トゲに触れた石像信仰の人達は、一瞬で身体が溶けて、そしてミイラのようになって崩れていく。
だが呪詛神には、同じ闇属性の攻撃はイマイチ効いてないようだ。石像に傷は付くけど破壊はできない。
『ふっ、この星の処刑人は、この程度か。俺様に逆らったことを後悔しながら朽ち果てよ!』
呪詛神デルガンダは、石像からふわりと身体を浮かせた。石像から、黒い影のような幽霊が立ち昇っているように見える。
奴は、さっきとは比べ物にならないマナエネルギーを身体に集め始めた。この術には、石像が邪魔らしい。
「は、はウ……」
根切り男からは、声にならない声が漏れた。僕に話しかける余裕すらない。
(だが、チャンス到来だ)
僕は、剣を抜き、石像へと駆け寄った。透明化しか使ってないのに、呪詛神デルガンダは、僕に気づかない。
剣に、回復魔法を纏わせ、石像を目掛けて力いっぱい振り下ろした。
ガチッ!
(チッ、弱いな)
石像には、ヒビが入っただけだ。
『な、何だ?』
だが、呪詛神デルガンダの注意が逸れ、根切り男を狙っていたウネウネと動く呪詛が、空中で停止し絡まっているようだ。
(そろそろ、バレそうだな)
僕は、透明化を解除した。
『お、おまえ、いつの間に……俺様に近寄るとは、何と愚かな宇宙海賊だ』
(はい? 僕が誰か気付いてないの?)
「僕は、宇宙海賊になったつもりはないんですけどね。重い石が邪魔でよく見えてないんじゃないかな」
僕は、そう話しながら、左手を半分霊体化し、石像にスッと入れた。うわ、気持ち悪い。ネトネトとした陰湿な声が手にまとわりつく。
僕は、回復魔法を唱えた。
ピキピキ、ピキピキピキピキッ!
石像に細かなヒビが入っていく。やはり、呪詛には回復魔法だな。蘇生魔法が最も効果的だ。だが、それは石像なんかには使わない。
『なっ!? なぜか、どうやって、くそっ、維持できぬ』
呪詛神デルガンダが諦めて石像から出て行くと、奴の憑代だった石像は、ガラガラと音を立てて崩れていった。
「おオ、やっタな!」
根切り男が、目を輝かせている。だが残念ながら、まだ何もやってないに等しい。
『クッ、俺様の寝床を……おまえのような宇宙海賊に……』
そう言いつつ、浮かぶ呪詛神デルガンダは、全く悔しそうには見えない。霊体だから表情はわかりにくいけど、奴の感情は思念波として、辺りに広がっていく。
まがまがしい思念波は、呪詛神デルガンダの威圧も半端なく広げていった。石像信仰の人達は、その圧に耐えきれずバタバタと倒れていく。
僕も、簡易バリアを張っていても、息苦しさを感じるほどだ。だが、本来のチカラではないな。神戦争前の呪詛神デルガンダには、近寄る者をすべて殺してしまうほどの邪気があった。
「貴方は本当に、呪詛神デルガンダ様ですか?」
『なっ、なぜ俺様の……それに、なぜ寄せ付けぬ?』
(うん? あぁ、呪詛のことか)
「貴方は、身体だけでなく、多くの記憶も失ったようですね。なぜ、自分の星に戻らないのです? 石像を憑代にしていても、身体は戻らないでしょう?」
僕は話しながら、ジワジワと闇を放出していく。実体のない相手に確実に触れるには、やはり剣を使う方がいい。闇耐性の高い剣は、僕の身体から放出された闇を吸収していく。
『おまえは、おまえは、おまえは….』
(忘れてる?)
あー、そっか。僕も同じだ。アンデッドは記憶の引き継ぎが難しいから、僕が自己転生をしたとき、カースがいろいろな仕掛けを用意してくれたんだ。
呪詛神デルガンダも、身体を失ったときに、いろいろと記憶も飛んだのだろう。自分の星に戻り実体化できれば、記憶も戻るんだろうな。
「呪詛神デルガンダ様、こんな星で遊んでないで、さっさと自分の星に戻ったらどうですか。青の神ダーラ様に、見限られますよ」
『なっ、なななな、なんだと! それを知るおまえは……クソッ、なぜ俺様の呪詛を弾く? そんなことができる宇宙海賊は、キャプテンアールくらいではないか』
(へぇ、知ってるんだ)
「自分の星に戻れば、思い出すんじゃないですか」
『そんなこと、できるわけがない。手土産なしに戻ることなど……』
「手土産が、魔人の子なのですか? そんな者を、神ダーラ様がお望みなのですか」
『そんな者だと? ふん、その辺の魔人ではない。魔人リュックの子だ。クローン団を創れば、神ダーラ様の有用な兵器となる。おまえも、魔人の子の捕獲に手を貸せ』
(は? 何を言ってんの?)
僕は、咄嗟に反論しようとした言葉を飲み込んだ。正義を振りかざしても、誘拐事件は止められない。
「神デルガンダ様、魔人の子のクローン団なんかを創って、どうするんですか?」
『は? そうすれば、青の神ダーラ様が、この世界すべての覇者となられるのだ!』
僕は、ニヤッと口角をあげる。いつもの女神様の腹黒発言のときの顔真似だ。
「へぇ、それなら神ダーラ様の配下は、魔人の子のクローン団だけで良さそうですねぇ」
挑発するようにそう言うと、呪詛神デルガンダから威圧のオーラが消え失せた。




