87、バナバナ星 〜ライト、檻に入る
「おっと! 全く……。素性は知られたくないのに」
高速船を操るテスロという男が姿を消すと、船は一瞬、大きく傾いた。
空を隠すほどの枝葉と、この船を覆うツタのようなものを一体化させていたみたいだが、彼が外に出たことで、ツタがゆるんだのだろうか。
真っ暗な中、デンデンと呼ばれるお頭さんが、慌てて操縦席に滑り込んだようだ。
(あっ、松ぼっくりになってる)
宇宙海賊レギュローさん達には、もちろん、ほとんど見えてないと思う。だけど、明らかに人の形ではないんだよね。
お頭さんは、本来の姿にならないと船を維持することができないようだ。逆に、松ぼっくりになれば、操れるんだな。
(やはり、テスロさんも植物だな)
僕は、『眼』に魔力を込め、彼の姿を捜した。石像をぶっ壊してくると言っていたけど……石像は、呪詛神デルガンダの憑代になっている。
テスロさんが何者なのかも、その能力もわからない。だけど、呪詛を受けないように防ぐ力はあるようだ。ただ、それでは石像は壊せない。それに石像を壊しても、呪詛神デルガンダはダメージを受けないよね。
僕達がいるこの場所の下には、多くの人が集まっている。彼らからは、高速船は見えないだろう。石像も気づかないくらいだからね。
飛び降りたテスロさんは、彼らの前ではなく、檻の中に入ったようだ。檻は高い柵があるだけで、上には仕切りがないのか。魔法を発動できないこの星では、これでも十分なのかな。
テスロさんは、何かの能力を使っているらしく、檻の中に捕われている子供達は、彼に気づいてないみたいだ。彼は、石像が檻の中に入ってくると考えたのかな。
だけど、呪詛神デルガンダにとって、石像はただの憑代。実体を持たない奴は、檻の柵なんて簡単に通り抜けるし、檻の外から捕らわれた人達に術をかけることも可能だろう。
(やはり、僕が行かないと)
「お頭さん、僕の店員達を守ってくれますか?」
僕が、白いダウンジャケットのような魔道具服を脱ぎながらそう言うと、松ぼっくりがこちらに身体を向けたのが見えた。真っ暗だから、レギュロー団の人達には、僕の行動が見えてないと思う。
「行商人さん、どうするつもりだ?」
「テスロさんだけでは石像を壊せないし、たぶん彼は殺される。ちょっと行ってきます」
「アイツは、行商人さんが考えているような動物ではないぞ」
(植物なんだよね)
「テスロさんは、女神バナバナ様の分身でしょうか?」
「は? まさか。アイツは、他の星の動物だ。神戦争の後に、この星に来た異星人だ」
(異星人? 変な言い方だな)
「そうですか。とりあえず、店員達をお願いしますね」
「ちょっと待て。扉は開けられないぞ。俺には、あの異星人ほどの力はない。扉を開けると、この船は下に落ちる」
僕は、白い魔道具服を店員の一人に渡した。僕の闇が付着しているから、何かのときには魔法発動の媒介にできる。
「お頭さん、大丈夫ですよ。食堂での話をお忘れですか?」
僕がそう言うと、松ぼっくりはピクリと身体を揺らした。
「あの約束か」
あっ、白い女神や根切り男が、ここに遅れてくることを思い出したのかな。僕は、自分が半分アンデッドだと言いたかったんだけど。
「ええ、それもありますが、僕の種族のことですよ。じゃ、お願いしますね」
念話は、石像に気付かれるらしいから、僕は近くにいた城兵に小声で、簡単な指示を伝えた。
「行商人さん、扉は……」
(しつこいな。見せる方がいいか)
僕は、霊体化! を念じて松ぼっくりに近寄った。青い死霊の姿を見て、松ぼっくりは操縦席から転げ落ちそうなほど、ビクビクと怯えている。
あっ、レギュローさん達にも見られたかな。死霊の姿だと、僕は淡い光を発するようだ。
「お頭さん、じゃあ、行ってきますね」
「えっ? 行商人さんなのか?」
「はい、僕は、この通り、船も壁も通り抜けられるんですよ。では」
そう言って、僕は透明化! を念じた。
「はぇ、もうすり抜けて行ったのか。さすがはアンデッドの王だな」
(ちょ、それを言う?)
レギュロー団の人達が、めちゃくちゃビビってるよ。
僕は、そのまま船の壁を通り抜け、下へと降りて行った。
◇◇◇
「石像神、やはり、子供を死なせて火山湖に沈めるのは、マズイです。白い女神が怒ります」
「それに、この島を借りるときに、女神バナバナから条件を出されました。罪人を捕らえるために使うようにと。罪なき者が死ぬと、火山湖に何かが起こるそうです」
石像信仰の人達が、石像……呪詛神デルガンダを説得しようとしている。だからテスロさんは、様子見をしているんだな。
『そんなことは、どうでも良い。魔人の子を見つけねば、私は青の星系には戻れないのだ。自分の星に戻らねば、身体が再生しない』
(ふぅん、戻りたいんだ)
「ですが白い女神が怒ると、火山を噴火させますよ。せっかくふもとの街に築いた神殿が……」
『どの口が、そんな偉そうなことを言っているのだ? 身の程をわきまえろ。おまえごとき弱小神は、いつでも消滅させることができるのだぞ』
(あー、そういうことか)
なんだか、石像と対等に話してると思ったら、石像のそばにいる二人は、どこかの神か。
ゲージサーチをしてみると……あれ? 青の星系の特徴ではない。赤の星系か、もしくは中立の黄の星系?
彼らは、呪詛神デルガンダの本当の素性を知らないのかもしれないな。だから、気軽に付き合っている。青の神ダーラの側近だとわかれば、こんな風には話せないだろう。
(どうしようかな……ん?)
ワープワームが、僕に映像を送ってきた。いつもとは違う写真のようなものだ。
女神イロハカルティア様と、黒い女神らしき色っぽい女性の写真だ。そして、二人は大きな布を広げて持っている。
【作戦は完璧じゃ。アブナイ奴は逃さぬ。どどーんと、ばちっと、けちょんけちょんにしてやるのじゃ!】
(僕に伝言?)
あー、念話が使えないからか。布に、女神様の直筆でメッセージが書かれていた。しかも、いたるところに、肉球らしき絵が散りばめられていて、目がチカチカする。
それに何より意味不明だ。呪詛神デルガンダに、僕の素性がバレてもいいのかな?
すると、新たな写真のような映像が届いた。今度は、女神様の走り書きだ。肉球チカチカは無い。
【妾は、かわいい子猫じゃ。ライトはバレても良いのじゃ】
(あっそ)
女神様がこの星にいることは、秘密なんだな。だけど、僕の素性がバレていいなら、楽だ。
「石像神! それはマズイですって!」
石像が、魔力を集めている。
僕は檻の中で、霊体化を解除した。それとほぼ同時に、テスロさんが術を使ったようだ。檻を、木の根のようなものが覆った。
そこで初めて、子供達はテスロさんの存在に気づいたようだ。だけど、騒ぐ元気はないのだろう。瀕死の状態の子もいるな。
「なんだ? 木の根が突然せりあがってきた?」
「石像神、やはりマズイですよ」
『ふん、女神バナバナごときがどれだけ騒ごうが、痛くもかゆくもないわ。それに、こんな木の根など、余裕で貫通するぞ』
(だよねー)
僕は、木の根の内側に、魔防バリアを張った。呪詛神の術なら、これでも貫通するだろう。僕は、さらにその内側に、わらび餅のようなぷよぷよのバリアを重ねる。
「何? なぜ俺のガードの内側に……」
テスロさんは、キョロキョロと辺りを見回し、警戒しているようだ。
「シッ! 僕ですよ。一応、2つのバリアを重ねましたけど、大きな声は聞こえてしまいます」
「えっ? 行商人さんか。どうやって船から……」
「ふふっ、秘密です。先にここにいる子供達の回復をしてしまいますね」
「姿が見えないが……」
「はい、姿は隠していますよ。その方が、皆が安全です」
「うん?」
僕の言葉に、テスロさんは首を傾げている。うん、わざとわからないように話したんだけどね。
僕が姿を現すと、僕のことを知っている子供達が、名を呼ぶだろう。呪詛神デルガンダがそれを聞くと、どういう行動に出るか予想できない。
僕は、子供達を回り、身体にスッと手を入れ回復魔法を唱えていった。僕のいつもの回復方法だけど、今回は別の理由もある。回復魔法を使っていると、奴らに悟らせないためだ。
(よし! これでもう大丈夫だな)
子供達は不思議そうに顔を見合わせている。だけど、さっきの僕とテスロさんの話が聞こえていたのか、皆、静かにしてくれている。さすが、アマゾネスの女の子だな。
『こんな木の根は、打ち砕いてくれよう』
バキッ!
強い衝撃が、木の根を砕いた。でも、魔防バリアは破られていない。わらび餅バリアは、いらなかったな。
『ククッ、これでよい。檻の中に生存者がいるか、確認しろ!』




