86、バナバナ星 〜高速船を操るテスロ
広い火山湖の上を滑るように走る高速船。
高温多湿な空気が、容赦なく顔にまとわりつく。白いダウンジャケットのような魔道具服を着ていても、かなり不快だ。
ハイスピードで進んできたおかげか、島が見えてくると同時に、反対側から島に向かうたくさんの舟が湖に浮かんでいるのが見えた。
(まだ、大半は湖の上なのかな)
「もう半分以上は、島に上陸しているみたいだな。おそらく白い女神は、人が歩けないような樹々が密集する場所にワープしてくる。密林側から行くか」
高速船の運転手は、魔石のような何かを操縦席横の箱状のものに放り込んだ。するとぐんと加速し、船の進行方向が変わった。燃料だろうか。
「テスロ、張り切ってるじゃねぇか」
「あ? レギュロー、さっきの話は嘘じゃないだろうな? 行商人、おまえ達はキャプテンアールと本当に取引があるのだな? 嘘なら命はないと思えよ」
(キャプテンアール効果、すごいな)
テスロと呼ばれた男は、一番近くにいる白いダウンジャケットのような服を着た一人に、鋭い視線を向けている。そんなことくらいでビビる城兵じゃないけど、不意をつかれたためか、慌てた表情で口を開く。
「リ……えっと、キャプテンアールは、店長の店によくポーションを買いに来るし、店の2階に部屋を借りている」
(はい? なぜそんなことまで言う?)
「ふぅん、そうか。ふふん、それならいいぜ」
白いダウンジャケットのような魔道具服は、多少の状態異常も弾くはずだ。だけど、城兵は……。
「おい、テスロ! その妙な力を使うなと言っただろ。石像信仰の奴らに使ったときは、関係ない俺達まで殺されそうになったじゃねぇか!」
「おまえみたいに、識別番号を埋め込まれる気はないからな。だが、本当にキャプテンアールの団に、おまえみたいな奴が入団できるのか? その識別番号はどうする気だ?」
(識別番号? あ、呪詛のことか)
テスロと呼ばれた男は、自分の首を指差している。生きている呪詛のことがわかっているんだな。
「何の番号だ? 俺には、そんな番号なんてものが付いているのか?」
「ふん、ますますわからないな。こんな無能な奴をなぜキャプテンアールが……あぁ、無能だから使いやすいのか。しかし、俺のような逸材の噂は、彼の耳に届いていないのか?」
なんだかブツブツと独り言のような愚痴を言いつつ、テスロという男は、高速船を操る。
島が近づいてきた。だが、彼は減速しない。
(へ? ぶつかる!?)
僕達は、衝撃に備えた。だけど、ビビりのレギュローさん達は平気な顔だ。そして、お頭さん達も平然としている。
「島に衝突しません?」
僕は思わず尋ねていた。
「ふん、まさか。これは高速船だぜ?」
「いや、でも」
(だからこそ、高速でぶつかるじゃん)
「ククッ、何も知らないんだな。商人なら無知なのもわかる。まぁ、見てなって」
得意げな表情の彼は、そのままのスピードで、島へと突っ込んでいく。
ガンッ!
船底に衝撃を感じた。座礁して止まるつもりなのか……えっ? なぜか浮かび上がっている。
(空を飛んでる?)
いや、木々の中を船が突っ走っていくような感覚だ。船に巻き付いたツタのようなもののせいで、何も見えない。
僕は、『眼』に魔力を込めて『見て』みた。
(空を飛んでる!!)
船に巻き付いたツタのようなものが、船を高速で運んでいるようだ。この船は、樹海を走っている!
視界を奪われている城兵達が、動揺しているようだ。状況を伝えてあげないとな。
「高速船って、木々の中も高速で移動できるんですね。空を飛んでいるみたいで、なんだか楽しいです」
僕がそう言うと、城兵達は安堵の表情に変わった。
「へぇ、あんたは、植物じゃないのにわかるんだな」
(うん? 植物じゃないのに?)
運転をしながら、テスロという男が意外そうな表情を見せた。彼は、植物なのか?
「テスロさん、僕は透視魔法が使えるので、ツタのような植物に覆われても、外の様子は見えるんです」
「ふぅん、じゃあ、あんたが、キャプテンアールと取引のある店長か?」
「ええ。キャプテンアールは、僕の店に来ると大量にポーションを買っていきますね」
「ふぅん、やはり、あんたか。白い服を着たおまえらの中で、あんただけが俺の術を弾くから、そうじゃないかと思ってたぜ。それくらいの奴じゃないと、キャプテンアールとは取引できないだろうな」
(キャプテンアールを高く評価しているみたいだな)
「彼は、気まぐれですからね。付き合う相手は、気分で選んでいるような気がしますよ」
「なるほど! だから俺のような逸材に、これまで勧誘がなかったのか。さすがキャプテンアールと取引をする商人だな、よくわかっている!」
(はい? めちゃくちゃ自信家かよ)
僕は、一応、愛想笑いを浮かべておいた。視界がほとんどない状態だけど、彼は見えているかもしれない。
船が止まった。
「この先が集会所らしい。ここで、白い女神を待つ。念話は使うなよ。石像が近くにいるからな」
「テスロさん、ここって木の上ですか?」
僕は、状況が見えない城兵達のために、あえて尋ねた。止まったためか、外はとても暗く感じる。枝葉が生い茂って空を隠しているのだろう。
「あぁ、木の上というか、空を覆う樹々の一部になっている。この下にはひらけた湿地があるが、そこには監獄が作られている」
(えっ? 監獄?)
僕は、『眼』にさらに魔力を込めて、船の下を『見て』みた。外が薄暗くて気づかなかったけど、今、僕達が乗る高速船は、監獄の真上に浮かんでいる状態だ。
「監獄には、罪なき子供が捕われている。宇宙海賊は、子供の売買をしているのだろ? その売り物の置き場を火山湖の島にするのは……」
お頭さんは、そこで、ハッとしたように口を閉じた。女神バナバナ様からの依頼を、口走りそうになったらしい。
「ふん、念話でなければ、外には聞こえないぜ? 植物ならそれくらい常識だろう」
「なぜ、俺が植物だなど……どう見ても動物だろ!」
お頭さんが反論しても、テスロという男は聞いていないかのようだ。『眼』のチカラを使っても、この場所では船内は真っ暗で、その表情はよくわからない。
「俺のような逸材でなければ気づかないがな。おまえら土着民は、この星の木の実だな?」
「なっ……なぜそれを……」
(認めちゃったよ)
「ふふん、原始的な植物の星の住人には、理解できない話だ」
(自分も植物だと言ってる?)
「あんた達を、白い女神に会わせれば、俺の仕事は終わりだな?」
テスロという男は、僕に話しかけてきたようだ。レギュローさん達がキョロキョロしている。彼らにも、何も見えてないみたいだな。
「テスロ、それは、俺に聞いているのか? 白い女神と商談後、無事に町に戻るまでが案内だ」
「は? そんなわけないだろ。そもそも案内にそんなに大勢で来る必要があるのか? レギュロー団」
「共に行動しないと、いつどこでキャプテンアールからの迎えがあるかわからないじゃないか」
(うん? リュックくんが迎えに来るの?)
「そうか。キャプテンアールは……あの団には、竜族もいるのだったな? 竜なら、迎えに最適だ」
(竜族?)
そういえば、アプルゴルド星を乗っ取ろうとしていた白い竜は、リュックくんの宇宙海賊団に入ったんだっけ。
テスロという男が纏う気配が変わった。
「チッ! 石像の方が早く着いたようだな。いつもの儀式ではなさそうだ」
僕は、『眼』に魔力を込めて『見て』みた。
(檻の前に石像がいる!)
『イロハカルティア星から、行商人が来ていると言っていたな? まさか、神族ではないだろうな?』
(この声! 間違いなく呪詛神デルガンダだ)
「石像神よ。行商人は、イロハカルティア星の魔族のようです。宇宙海賊達の町に調べに行かせましたが、獣人の子供もいました」
『ふむ、魔族か。この星なら脅威にはならぬ。それに神族なら、まずこの島に来るか。まだ一人も来ておらぬな?』
「はい。売り物の到着を待っているらしく、星の門近くの森で、テントを立てたようです。あ、一部は、町に戻ったようですが、接触した者によると、白い女神を探していたようです」
(町の入り口近くにいた人は、調べに来てたのか)
『なぜ、白い女神を探すのだ? あぁ、魔石か』
「はい、火山の地底湖の魔石を手に入れたいのでしょう。行商人は皆、魔石を求めてこの星に来ますからね」
(変な誤解をしてくれている)
僕が耳をすましていると、高速船の中にいる人達も無言になっていた。呪詛神の念話は、はっきりと聞こえる。だがそれに答える人の声は、聞き取りにくいからな。
『それならば良い。さて、捕らえた獲物の中に魔人の子がいるか、試すとしようか』
「あ、あの、石像神! あの方法だと子供は死にます」
『死ななかった子が、魔人の子だ。死んだ子は、火山湖に沈めればよい。跡形もなく消えるぞ』
(呪詛神……腐ってるな)
「火山湖に死体を放り込むと、白い女神は怒り狂うぞ。仕方ない。俺は、あの石像をぶっ壊してくる。土着民! この船を維持できるな? ツタが外れると、監獄に落ちるぜ」
テスロという男は、スッと姿を消した。
水木金お休み。
次回は、1月28日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




