85、バナバナ星 〜火山湖へ
「わかりました。回復魔法を使っても大丈夫かな」
アンデッドにとって、回復魔法は逆にダメージを与える。『見た』感じだと、根切り男は闇属性だしアンデッドの王だと言っているけど、回復魔法は普通に回復効果として効きそうだ。
「ワレは、しなナイ。よわいどうぶつデハないかラな。おまえもそうだろう? アンデッドのおう」
「確かに、僕は回復魔法で普通に回復できます。僕は、半分アンデッドだけど、半分は人間なので」
「ふん、どうぶつのアンデッドは、よわイからな」
(植物のアンデッドは弱くないと言ってるんだよね?)
彼らは、自分達を動物と言ったり植物と言ったり……まぁ、その定義が曖昧なんだろうな。
「じゃあ、回復魔法を使ってみますね」
僕は、スッと根切り男の後頭部に手を入れ、回復魔法を唱えた。皮膚の火傷というか凍傷はすぐに治った。さらに魔力を重ねて髪を生やそうと思った瞬間、緑色の髪が肩まで伸びてきた。
「おお、ナオったのダな」
「皮膚の治療をしただけですが、髪が伸びましたね」
「ワレは、もともとカミがあっタからな」
(自然治癒能力ってこと?)
「根切り男、アイツらが集まってるぞ! しかも火山湖を渡り始めた。すぐに根切りしろよ」
白い女神は、いつの間にか白銀の鎧を身につけている。この姿は、彼女の戦闘形なんだよな?
「しろイめがみ、あわてルな。シマにはいってカラ、ワープすればよイ。アンデッドのおうト、そのハイカもいくノだろ?」
僕が返事をする前に、お頭さんが口を開く。
「俺達も行く。女神バナバナ様から直接、見届けるようにと言われたからな。それに、外で待つ奴らも行くのだろうな」
(あー、宇宙海賊レギュローさん達か)
「デンデンも行くのか? おまえは火に弱いじゃないか。邪魔にしかならない」
「女神バナバナ様が、見届けるようにと言われた。罪なき子供が、火山湖で死ぬと困るからな」
お頭さんの反論に、なぜか、白い女神がポカンと呆けた顔をしている。指を折って何かを数えているようだ。
「デンデン! 私は両手の分しか移動させられない。数がわからない。デンデンは、片手の分しかワープできないだろ。足りるのか?」
「外で待つ奴らは、やはり捨てるか。だが、連れて行く方がいいような気がする」
(僕達にはワープワームがあるけど……)
僕が魔法を発動できることを知っているのに、彼らは僕にワープができるかとは聞かない。火山湖にはワープ妨害があるのかな。
「そレならば、ワレとシロイめがみハ、あとかラいく。そとのヤツラと、さきにユケ」
根切り男がそう提案すると、白い女神がイラついたのがわかった。僕達だけだとワープを使えないから、到着が遅くなると思ったのだろう。火山湖を渡り始めた宇宙海賊を、島に着く前に止めたいのかもしれない。
「そうだな。根切り男と白い女神は、姿を現すと戦いになるからな」
「デンデン、それハちがう。ワレたちがいくト、ジャシンはすがたヲみせナイ。ざっそうハ、ネをぬかねば、おいはらエなイ」
(根切り男は、わかってるんだ)
「根切り男、何を言っているかわからんぞ。おまえらが姿を見せると、争いが起こるからだろ? 罪なき子供が死ぬと、女神バナバナ様は……」
お頭さんはそこまで話すと、ブルブルっと体を震わせた。怒った女神バナバナ様を想像したのかな。
「私は、行くぞ!」
白い女神は、戦闘スイッチが入ったままだな。
「しろイめがみ、マナがナイだろ。しょくじヲしないト、またやられルだけダ」
確かに、白い女神は大人の姿にはなったけど、魔力は、あのポーションでは回復しないもんな。
「クッ……早く食事を出せ!」
そう言うと、白い女神はカウンターの奥へと入っていった。厨房で食べるつもりだろうか。
「どうぶつのアンデッドのおう、ワレだけでは、ジャシンをおいはらえナカった。そのとキに、あたまのうしろヲやられたのダ。だが、おまえガてつだえバ、ヨユウだ」
「根切り男さん、わかりました。僕も、女神バナバナ様に追い払えと依頼されましたから、協力しましょう。あっ、だけど首には、その邪神の呪詛が……取り除きましょうか」
(このままだと、石像に操られるよな?)
「いや、ワレは、しゃべるナニカよりツヨイ。それに、これがアルから、ジャシンのいばしょガわかる」
「そう、ですか? 操られる可能性も……」
「ふン、こんなモノには、あやつらレナいぞ。ワレは、アンデッドのおうダ。しかも、よわいどうぶツではナイ」
(すごい自信なんだけど……)
ドカッ!
何かが扉にぶつかったような大きな音がした。ギギギとわずかな隙間が開いた。扉の外では、何か争っているのか?
「行商人さん! 行商人さんにすぐに伝言してくれ!」
(あれ? 宇宙海賊のレギュローさん?)
お頭さんが、扉に近寄っていく。
「何だ? 宇宙海賊は、ここには入れな……おい!」
レギュローさんが扉をこじ開けたみたいだ。その直後、扉と店内の間には、緑色の薄い膜のようなものが現れた。たぶん目隠しだろうな。根切り男のチカラか。
「行商人さん! 聞こえるか? この店で待っていても、白い女神は来ない」
(あれ? 気づいてないの?)
白い女神は、扉から入ってきた。子供の姿だったけど。
「行商人さん! 白い女神は、火山湖だ! 石像信仰の奴らが舟を出したんだ。大勢で島に向かった。何かの儀式の日らしい。行商人さん! 聞こえているか!?」
レギュローさんは、必死だ。そうか、キャプテンアールの宇宙海賊団の団員のつもりなんだ。この街で、こんなことを叫ぶなんて……裏切ったと勘付かれるよね。
「さきにユケ」
「わかりました」
僕が短く返事をすると、彼はバケモノの姿に変わった。おそらくバケモノの姿は、根切り男だとは知られていないのだろう。
僕は、城兵達に目配せをして、店の扉へと歩いていく。
「あー! 行商人さん!!」
僕の顔が見えると、彼らは明らかにホッとした表情を浮かべた。植物っぽい人に、扉を封じられていたからかな。
「レギュローさん、聞こえましたよ。今ちょうど、火山湖に向かう方が良いかと考えてたんです」
「白い女神は、火山湖に現れます! そして、島にはイロハカルティア星の罪人もいるらしいです。早く行かないと争いが起こります。白い女神がやられると、次はいつ商談できるかわからないです!」
(あー、商談ってことにしてたっけ?)
お頭さんが何か言おうとするのを、僕が制した。白い女神と会ったことは、レギュローさんには知らせない方がいい。
「じゃあ、僕達も、火山湖に向かいましょう。えーっと、舟が必要なんですか?」
「大丈夫です! 舟は俺達がいれば、使えます! 俺達が、案内します!」
レギュローさんは、キラキラとしている気がする。案内人の役割を果たすことに、酔いしれているようにも見えるけど。
「レギュローさん、助かります。では急ぎましょう」
「はい! あっちから出ると早いです! ついて来てください」
そう言うと、彼らは火山とは別の方向へと駆け出した。暑いのに走るなんて……大丈夫なのだろうか。
(張り切りすぎだよね)
◇◇◇
「あん? レギュロー団か。何を急いでいる? 何も聞いてないぜ?」
船着き場に到着すると、宇宙海賊らしき人達がいた。
「急いで案内しているのだ。彼らは、白い女神と商談があるという行商人さんだ。土着民は白い女神を呼ぶために連れている」
「は? 行商人? レギュロー、誰からそんな案内を依頼された? 勝手に島に渡るつもりか?」
(だよね。ワープワームで行こうかな)
「おい、シュラフ。おまえ、キャプテンアール様に惚れ込んでいたよな?」
「は? なぜ、キャプテンアールの名前を出す? まさか、キャプテンアールからの依頼か?」
「ククッ、この行商人さんは、キャプテンアール様とも取引があるんだよ。なんとキャプテンアール様は、アプルゴルド星で、案内人ができる者を探しているそうだ」
レギュローさんが、声を落としてニヤニヤしながらそう話すと、船着き場にいた人達の顔が変わった。
「まさか、レギュロー……」
「そのまさかだぜ。だが、この案内を失敗すると、この話はパァだ。俺が入団できたら、口利きしてやるぜ? なんせ、キャプテンアール様のアジトは、人手不足らしい」
「そ、そうか! あ、あんた達、すぐに行くといい。高速船を出すよ。今夜は、石像信仰の奴らが島に渡っている。儀式の前に、白い女神を見つけないと、次いつ会えるかわからないからな」
(あっさり、裏切ってるよ)
僕達は、運転手つきの高速船を借りて、島へと向かった。




