78、バナバナ星 〜宇宙海賊レギュロー
「行商人さんは、もしかして、白い女神に味方するのか?」
貧民通りを襲撃していた宇宙海賊団レギュローの団長は、オドオドした表情で、そう尋ねてきた。僕が牽制のために脅したからなんだけど……予想以上にビビられて、僕も少し困惑している。
「レギュローさん、貴方達が手伝っているというその神は、女神バナバナ様との契約を破ったそうですからね。この星に出入りするポーション屋としては、当然、女神バナバナ様の意に反することはね……」
僕は、明確な返事は避けた。白い女神には会ったことがないし、あの女神バナバナ様に無条件に味方する気もない。
「俺達は、直接命令を受けているわけじゃねぇ。下請けの下請けだ。それでも、そっちについていると死ぬのか? あっ、行商人さんが白い女神の味方をして、宇宙海賊団を殺すということなのか?」
「僕達は、そもそも白い女神に会ったこともないので、味方するも何も……」
「じゃあ、なぜ、白い女神に会いに火山に行くのだ? 土着民に案内させるということは、あんた達は女神バナバナの下僕なのか?」
(はい? 下僕?)
武装した彼らは、僕を怖れているはずなのに、僕の前から消えない。彼らは、僕から何かの情報を引き出そうとしているのだろうか。
『ライト! そやつに案内させるのじゃ! 適当に、ちゃちゃっと言いくるめればよいだけじゃろ? 絶対に逃すでないぞ!』
(痛っ!)
女神様からの大音量すぎる念話で、頭をガンと殴られたような強い衝撃を感じた。このベレー帽に、音量増幅系の何かを仕込んであるのだろうか。
僕だけでなく、城兵達もこめかみを押さえている。ほんと、女神様の方が災害級だよ。
(しかし、どうすればいいんだ?)
案内させるには、もうちょい脅すか? いや、でもなぁ……この人達って、すぐにビビるんだよね。
僕が真っ直ぐに見るだけで、団長レギュローさんは落ち着かないらしい。ジワジワと額に汗がにじんでくる。
『おーい、オレの名前を出せば、そいつは従うぜ』
(えっ? リュックくん?)
どうしようかと悩んでいると、リュックくんからの念話だ。あっ、今、肩に戻ってきてる。たぶん魔力の補給だよね。
『リュックじゃねーよ。キャプテンアールだ。おまえが、キャプテンアールの相棒だと言えばいいぜ』
(リュックくん、知り合いなら直接話してよ)
『は? オレは、知り合いじゃねーぞ。ただ、オレの名前が知られてるだけだぜ。今は魔力の吸収に忙しいんだ。すぐに消えるから』
(ちょ、何とかしてくれてもいいじゃない)
『だから、オレの名前を出していいって言いに来たじゃねーか。この星、外からの念話を弾きやがる。だいたい女神が治める星って、うぜーんだよ』
(リュックくん、女尊男卑のアマゾネスの人達が聞いたら怒られるよ? そもそも、ローズさんの……)
『あー、そーだった。さっきちょっと戻ってきたら、ローズが、アマゾネスの女の子の救出を任せて申し訳ないって言ってたぜ。アイツ、この星に連れて行けとか言い出して、うるさかったんだ。足手まといだからやめとけって言ったら、やっと黙ったぜ』
(それ、女王様に対して酷くない? リュックくんはローズさんの伴侶でしょ)
『いーんだよ! アイツは大量の若い男をかこってんだからな。ふん』
(それは、アマゾネスの女王陛下だからでしょ? でも、歴代の女王と比べて、ローズさんは少ないって言ってたよ)
女尊男卑のアマゾネスでは、男性にはほぼ人権がない。だからローズさんは、そんな中から優秀な若者を、伴侶候補として城で働かせているそうだ。
ローズさんも元日本人だから、女尊男卑という習慣には違和感があるみたいだ。
『さっさとオレの名前を出せよ。そいつら、おまえが黙っているから緊張で死にそーになってんぞ』
(えっ? あー、うん、わかった)
「レギュローさん……」
「は、はい!!」
名前を呼んだだけで滝汗だ。リュックくんの言う通り、緊張でガチガチになっていたのかな。
「キャプテンアールって、知ってます?」
そう尋ねた瞬間、彼は固まってしまった。僕の口から出た言葉が、予想とは違ったからだろうか。
「あ、あの、あの、行商人ではなく、あの……」
「宇宙海賊のキャプテンアールですよ」
そう答えると、レギュローさんだけでなく、他の武装した人達も、態度がガラッと変わった。なんだか、急に顔が熱を帯びているような……。
「し、知ってます! アプルゴルド星に新たなアジトを築かれたという噂は聞きました。イロハカルティア星の生まれらしいですが、アプルゴルド星を本拠地にされるようですよね。堅固なアプルゴルド星を選ばれるとは、まさに天才です! それにアプルゴルド星は巨大な星であり未開の地も豊富ですから、大きな団には最適です!」
(なんか……やばくない?)
レギュローさんは、熱に浮かされたかのように、惚けた顔で熱く語っている。
『じゃ、オレは行くから』
(ちょ、リュックくん、それで次はどうするの?)
『あん? まぁ、口利きしてやるといえば、いいんじゃね? オレの団に入りたい奴は多いからな。きっと尻尾振って、おまえに従うぜ。知らんけど』
(また、最後に変なのつけて……無責任発言でしょ)
そう反論したけど、肩からリュックくんの気配は消えていた。ガツンと魔力を持っていかれたな。
「レギュローさん、僕はね、キャプテンアールと知り合いなんですよ」
「な、なんですとっ!? それは本当ですか!」
(近い近い近い)
僕を怖れているはずの彼は、思いっきり近寄ってきた。
「ええ、僕達も、イロハカルティア星から来ていますよ。キャプテンアールとは、念話で話す仲です」
「ふぉぉおっ、ふぉっ、な、ななんと! そういえば、キャプテンアールの海賊団の団員は、伝説のポーションを大量に持っていると聞いたことがありますぞ! ふぉぉおっ」
ポーションは、すべて魔道具『リュック』で作っているもんな。だけど、リュックくん本人にはポーションは効かないんだ。それに、主人の許可なく勝手な処分はできない。
だからリュックくんは、店でポーションを買っている。ネコババすることもできないらしい。その点は、女神イロハカルティア様とは大違いだよね。
「今、キャプテンアールと話していたんですが……」
「な、なんと! この星にいて、遠く離れたアプルゴルド星との念話が可能なのですか! な、ななな、なんと! 恐るべしキャプテンアール」
(えっ? 僕じゃなくて、そっち?)
すると、城兵のひとりが口を開く。
「俺の方にも、念話が来ましたよ。宇宙海賊が集まる町にいるなら、良さげな奴をスカウトしておいてくれってね」
(リュックくん……勝手に)
「な、なななななな……」
彼らは、その城兵の方にすごい勢いで近寄っていく。すると、別の城兵が口を開く。
「ライト店長が気に入った奴なら、弱くてもいいって言ってましたよ。アジトの建設ラッシュで、アプルゴルド星のアジトの案内人が足りないらしい。アプルゴルド星の全土にアジトを作ってるそうですよ」
(えっ? 森だけじゃないの?)
「そ、それは、そうですか。アプルゴルド星は巨大な星だから、アジト間の移動には、案内人が必要ですよね。俺達は、決められたことを着々とこなすことには、定評があります!」
武装した彼らは、なりふり構わず必死だ。城兵達は、僕に目配せをしてきた。うん、いい流れを作ってくれた。
「じゃあ、レギュローさん達にも、白い女神のいる火山に案内してもらおうかな」
僕がポツリと小さな声で呟くと、彼らは僕の方にすっ飛んできた。
(近い近い近い)
「ぜひ! 俺達が有能な案内人だと証明してみせます!」
キラキラと目を輝かせる彼らは、さっきまでとは別人のようだな。貧民通りの人達は、怪訝な表情だ。
「あっ、でも僕は、この付近のお頭さんに案内を頼んでいるのです。貴方達は、ここの人達と仲が悪いみたいだけど……」
「それは、さっきまでのことです! 食料を強奪されたから奪い返しに来ただけです! もう、食料のことは忘れます! 大丈夫です! ご安心ください!」
(貧民通りの人が、盗んだのか)
「それに、確かに白い女神に会いに行く用事があるなら、土着民に案内させるのが一番です! 俺達は、その護衛をします!」
「いや、護衛はいらないんだけど……」
「し、失礼しました! ただ、宇宙海賊がウヨウヨしているので、お役に立てるかと……」
彼らは、また怯えた顔をしている。僕の機嫌を損ねたと思ったのかな。
「じゃあ、レギュローさん達にも、案内を頼みますよ」
「はい!! よろこんで!」
水木金はお休み。
次回は、1月14日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




