79、バナバナ星 〜火山近くの街にて
僕達は今、宇宙海賊の町を出て、火山へと向かっている。
「行商人さん、火山に入る前に、ふもとの街に行きますか? 監視がいるんで、素通りすると攻撃されると思うんですが」
僕の後ろから、宇宙海賊レギュローとその団員達が、ぞろぞろとついてきている。もともと案内を頼んでいたデンデンと呼ばれるお頭さん達は、そんな彼らに冷たい視線を向けつつ無言だ。
僕と同じく青いベレー帽を被って白いダウンジャケットのような魔道具服を着ている城兵達は、彼らが衝突しないように気を配ってくれている。
「お頭さん、その街に立ち寄る方がいいですかねぇ?」
僕がそう尋ねると、彼はやっと口を開く。
「あぁ、まぁ、そうだな。火山湖に近寄ると妙な奴らが出てくるからな。それに、良い口実が得られるかもしれない」
(良い口実?)
お頭さんは、嫌そうな顔をしながらも宇宙海賊の提案に同意している。僕達の目的が知られないように、言葉を選んでいるようだ。
彼は、僕達が女神バナバナ様と会ったときに、松ぼっくりの姿で一緒にいた。だから、女神バナバナ様が僕達に依頼したことも、わかっているからだよね。
(彼の言う良い口実って何だろう?)
白い女神に会うのには、何か口実が必要なのだろうか? あっ、貢ぎ物? 黒い女神が黒い物が好きなら、白い女神は白いものを好むのだろうか。
そもそも、白い女神がどんな人かはわからない。黒い女神と色違いなら、いくつもの花が咲く1本の花なのかな。その白い女神に、女神バナバナ様の命令を伝えて、情報を提供してもらえばいいんだよな?
もしかすると、白い女神の許可なく火山湖に行かない方がいいのかもしれない。火山や火山湖を守っているのが、白い女神らしいもんな。
ということは、街にいる監視に挨拶をして、それから白い女神への貢ぎ物を探し、火山に入って白い女神に会った後、火山湖の島へ行って誘拐されている子供達を救出するという流れだろうか。
(時間はあまりかけたくないけど)
「では、あちらの道から、街に入りましょう」
宇宙海賊の団員達は、レギュローさんが指差した道へと先導するように進んでいく。でも彼は、街の門とは別の方向を指差しているんだよね。
「レギュローさん、それは裏道ですか? 街へは門から入らなくていいんですか?」
「街の門は、旅人と商人しか使いませんよ。この街の住人やいつも出入りしている人は、門なんか通りませんから」
(大丈夫なのかな?)
レギュローさんは、僕がキャプテンアールの話をしてから、ガラリと変わった。もう、なんだかキャプテンアールの宇宙海賊団の団員かのように、僕達に愛想笑いを向ける。
あまりにも簡単に、火山湖の島の監獄を仕切っている神らしき人を裏切るんだな。こんな彼らを、信用していいのか不安になる。
◇◇◇
「あん? 弱小レギュロー団か。随分と数を揃えてきたみたいだが、今日は、おまえらに仕事はねぇぞ」
裏道のような細い道を進むと、広大な畑が見えた。高温多湿なこの星で、整然と整えられた畑があること自体、不思議な感じがする。
レギュローさんは、かけられた声を無視して、その畑のあぜ道を歩いていく。知り合いらしいけど、いいのかな?
「おい、レギュロー団、聞いているのか!? 悪いことは言わねぇ、今日は来た道を帰りな。奴隷を連れてきても無駄死にだぜ」
ふいに目が合った僕に、その男は警告してきた。奴隷というのは、お頭さん達のことだろうか。確かに汚れた服を着ているけど……。
「あの、僕達はレギュロー団ではありません。白い服を着ているのでわかりますよね? 背中に文字が……」
「は? 文字なんて知るわけねぇだろ。レギュロー団の団員じゃねぇのか? 何者だ!?」
(まずかったかな)
すると、レギュローさんが彼らを睨みつけた。
「おまえほど無知だと笑えないな。彼らは行商人、伝説のポーション屋だ。白い女神と商談があるらしい。だから、俺達が案内を引き受けた。そっちの汚ねぇ奴らは土着民だ。白い女神を呼ぶ力があるのは、土着民だけだからな」
(へぇ、ちゃんと案内人をするつもりなんだな)
彼の口から白い女神という言葉が出たためか、呼び止めた彼らは舌打ちしている。
「伝説のポーション屋ってことは、イロハカルティア星か。よりにもよって……」
後半は何を言っているのか、聞こえなかったが、歓迎されてないことは、わかる。
「黙ってろ。彼らは、あのことは何も知らない」
レギュローさんがそう言うと、絡んできていた男達は、僕達に何か魔道具らしきものを向けた。魔道具服が、何かを弾いた感覚が伝わってきた。
(さすが、クマちゃんマークの魔道具だよな)
おそらく、弱体化系の魔法だと思う。魔法は発動しにくくても、魔道具は使えるのかな。
「チッ、弾かれたのか? レギュロー団、こいつらは街に入れるわけにいかないぜ」
突然、あぜ道を塞ぐように、10人ほどの男が現れた。いかにも荒くれ者という風貌だな。
「おまえ、行商人さんに何かの術を使ったのか? 命知らずだな。余計なことをすると死ぬぜ。彼らは、この星でも普通に魔法が使える」
レギュローさんがそう言うと、あぜ道を塞いでいた男達は、サッと畑に下りていった。
(わかりやすいよね)
僕が視線を向けると、目を合わさないように逸らしているようだ。あぁ、操られるとでも思ったのかな。
「行商人さん、あの畑の柵の先が、街になってますぜ。この街は、火山に用のある人達の宿場町として発展してきたようですぜ」
「へぇ、宿場町ですか。ちょっと楽しみです」
まだ、絡んできた男達は、あぜ道からは下りたが、畑の中をずっとついてくる。
レギュローさんは、キャプテンアールに寝返ったことは、伏せて行動するつもりらしい。だけど、本当にそうなのかな? だんだん心配になってくる。
リュックくんは、確かに最強の魔人だとは思うけど、宇宙海賊になったのは、わりと最近のことだ。この星に隠れ住む神らしき人の下請けの下請けをしていた彼らが、簡単に寝返るのだろうか。
(ちょっと揺さぶってみようか)
「レギュローさん、さっきあの人が言っていた話なんですが」
「あぁ、はい、何ですか?」
彼が緊張したのが伝わってくる。
「僕達は、何も知らないと聞こえましたが」
「あー、あはは。白い女神とは関係のないことですよ。お気になさらず」
(どっちだ?)
彼は、絡んできた知り合いに目配せしながら、僕に愛想笑いを浮かべている。彼の心の中はわからない。まぁ、信用しない方がいいな。
小声で何かを打ち明けてくれるかと思っていたけど、そんなそぶりはない。ただ、ひたすら笑ってごまかしている。
(まぁ、どっちでもいいか)
レギュローさん達は、この街にスムーズに入るための案内人だ。だから用済みだとも言える。それに、火山湖の島には、ここからいつでもワープワームを使って行ける。あとは、白い女神に貢ぎ物を用意すれば良いかな。
ボゥオッ!
強い炎が、街の方からあがった。明らかに攻撃魔法の炎だ。
(ケンカか?)
そう考えた瞬間、ワープワームから映像が届いた。
大きな石像のある場所で、スキンヘッドの性別不明な人が剣を振り回している。あの剣から攻撃魔法のような強い炎が出るのかな。
(強いな)
スキンヘッドの人は、白銀の鎧を身につけ、細い剣を使って宇宙海賊らしき人達を、ガンガン倒している。何か叫んでいるようだけど、残念ながら声は聞こえない。
「チッ! あの炎は……面倒なことになったな。レギュロー団、知らんぞ。白銀の状態の奴に近寄ると、死ぬぞ。忠告したからな!」
そう言うと、彼らは畑の中を戻っていく。
「レギュローさん、何があったんですか」
僕がそう尋ねても、彼は冷や汗をかいて固まっていた。
「行商人さん、白銀の状態は、白い女神の戦闘系だ。宇宙海賊を討てと、女神バナバナ様が命じたのかもしれない。用事は無くなったな」
デンデンと呼ばれるお頭さんは、こっそりと僕に教えてくれた。
(あのスキンヘッドが、白い女神?)




