76、バナバナ星 〜町に戻ると
クレープを食べ終えると、黒い女神はウトウトとし始めた。椅子から落ちそうで、あぶなっかしい。女神様が、尻尾状態の魔道具ホウキを使って、チビっ子が転がり落ちないように支えているようだ。
もしかすると黒い女神は、夜は眠るのだろうか。白い女神と交代なのかという気もする。でも、白い女神は、火山にいるんだよな? 星の門を守るという黒い女神とは、役割が違うから関係ないかな。
「ライト、そろそろ、町に戻る時間じゃろ」
外を見なくても、女神様は黄色の太陽が沈んだことがわかるらしい。まぁ、創った本人だもんね。
「そうですね、では、僕はちょっと出掛けてきます」
女神様がなぜ、黒い女神をこのテントに招いたのか、わからない。たぶん何か話したいことがあったのだろう。でも、チビっ子は寝そうだもんな。
「ライト店長、俺達もご一緒します」
さっき、蔵に一緒に行った城兵2人が立ち上がった。
「俺達も、青色店です!」
ジャックさんと一緒に、町をまわっていた3人の城兵達も、声をかけてくれた。火山に行くのは、そんなに人数はいらないよね。
僕が断ろうと口を開きかけると、その前に女神様が口を開く。
「そうじゃな。青色店として行ってくるとよいのじゃ。人数が必要になることもあるやもしれぬ。この星は、転移魔法は使えぬからな」
(ワープワームは普通に使えるよ?)
あぁ、そうか。黒い女神がいるからかな。ウトウトしているけど、聞こえているかもしれない。
でもそういえば、黒い女神は、大人の姿をしていたときから、ずっと念話だよな。音で話せないのだろうか。女神バナバナ様は、花の状態だったから念話でも違和感を感じなかった。だけど、デンデンと呼ばれる松ぼっくりは、普通に話せるよね。
城兵達は、黒い女神から見えない場所で、出かける支度を始めた。食料品も、他の城兵から受け取っているようだ。火山湖にある島で捕まっている人達へ渡すつもりらしい。
僕は、少し不安を感じた。黒い女神をテントに残して、僕が離れても大丈夫なのだろうか。タイガさんやジャックさんは当然強いけど、黒い女神は彼らを怖れていない。
「ティア様、黒い女神さんを……」
話しかけて僕は言葉に詰まった。本人の前で、どうするつもりかとは聞けない。
「うむ? このチビは、妾に任せておけばよい。眠ってから、話をするのじゃ」
「えっ? 黒い女神さんが眠ってから?」
女神様は、夢の中に入り込むつもりだろうか。
「そうじゃ。このチビが眠ると別の黒い女神が起きるじゃろ。妾は、チビではなく、ガーディアンと話したいのじゃ」
「黒い女神は、他にもたくさんいるのですか?」
「たくさんおるが、他にはおらんのじゃ。黒い女神は、女神バナバナから切り落とされた1本の切り花だと考えればよい。花は一つではないのじゃ。ひとつずつそれぞれに、個性があるようじゃな。今起きておるのは、最近咲いたばかりの若い花じゃろ」
(へぇ、なるほど)
「黒い女神は、ティア様よりも強いのでしょうか」
「は? 妾は、妖精族じゃぞ? 植物に対しては圧倒的な上位種じゃ。変なことを言うてないで、さっさと行くのじゃ。白い女神に会ったら、女神バナバナの指示を伝えるだけでよいからの」
(だから黒い女神は、女神様を怖れていたんだ)
「伝えるだけですか? 女神バナバナ様からは、火山湖の島にいる人を救出して、宇宙海賊を追い払えと言われていますが」
「伝えるだけでよい。下手なことを話すと勘違いする。女神バナバナは、魔力は高いが知能は高くはないのじゃ。あとは、その場のノリで適当に合わせればよい」
「適当にって……」
「シッ! そろそろ眠る。はよ行くのじゃ。黒い女神はライトに懐いたから、次の花が起きたら出かけられないぞ」
「えっ? あ、はい、じゃあ行ってきます」
僕は、タイガさん、ジャックさんと目配せをして、そーっとテントから出た。青いベレー帽を被った5人の城兵が揃ったのを確認し、僕達は宇宙海賊の町へと急いだ。
◇◇◇
「行商人さん、こっちだ」
宇宙海賊の町が見える場所まで歩いてくると、貧民通りで見た顔が僕達を待っていた。
「あれ? お頭さんは?」
「あぁ、お頭は、今、眠っているんだ。俺が案内を頼まれた」
(うん? なんか変だな)
確かに、この人は昼間、貧民通りにいたし、粗末なテントにも出入りしていた。だけど、何か胸がザワザワする。
火無効付きのポーションを飲んだのかもしれないけど、町の結界の外で待っていることにも、違和感を感じた。
「僕達は、ちょっと町の中で、飲み物を買って行きたいんですよ」
「えっ……あ、こんな時間には、店はやってねぇよ」
(やはり怪しい)
そう考えていると、ワープワーム達から町の中の映像が、次々と届いた。露店も普通に営業しているし、昼間に開いてなかった店も灯りをつけている。
僕は、案内をするという男のゲージサーチをしてみた。体力2本、魔力1本。魔導系ではない。彼は物理攻撃系だ。
お頭さん達のサーチはしなかったけど、女神様が、女神バナバナ様は魔力は高いと言っていたよな。その木の実も同じ性質だろう。
「僕は、遠視能力があるんですよ。壁のような建物が随分と明るいし、その先の露店通りにも灯りが見えます。飲み物は、露店で売ってるもので構わないんで」
そう反論すると、その男は慌てたようだ。
「いや、行商人さんが買うような良い品を売る店は、この時間はやってないというか……とりあえず、案内しますよ。白い女神がいる火山の近くには、大きな街もあるんで、飲み物はそこで買えばいい」
(町に入れたくないのか)
その男の言葉遣いが、少し丁寧になったような気がする。僕が怪しんでいることに気づいたのかもしれない。
ワープワーム達から、貧民通りの映像が届いた。煙のようなもの見える。また、テントを襲撃している宇宙海賊がいるのかもしれない。
僕としては、必要以上に干渉すべきではないと思っている。それに、宇宙海賊側が悪いとは限らない。貧民通りのテントには、明らかに宇宙海賊から盗んだとわかる物も、雑多に転がっていた。しかし、なんだか胸がザワザワするんだよな。
「あっ、貴方達のテント付近から煙があがっているようですよ? 襲撃されているんじゃないですか」
「えっ? そんなものまで見えるんですか」
「煙は高く昇りますからね。お頭さんが寝てるなら、様子を見に戻る方がいいのではないですか?」
「いや、行商人さんを案内しないと……」
「何を言ってるんですか。僕達の案内よりも、テントの無事確認の方が大切でしょう? さぁ、町に戻りますよ」
僕がそう言って町の門へと向かうと、その男はしぶしぶついてきた。
(何者だろう?)
さっき、白い女神という言葉が彼の口から出ていた。ということは、僕達が白い女神に会いに行くことは知っているようだ。デンデンと呼ばれる松ぼっくりではないことは、明らかだよな。
「やぁ、行商人さん、夜も露店を開いてくれるのかい?」
門に着くと、門番達は好意的だった。昼間とは違う人達だけど、白いダウンジャケットのような魔道具服が、制服として身分証明効果を発揮している。
「いえ、ちょっと買い物を思い出しまして」
「そうかい。夜しか開かない店もあるからな。酒なら、この時間がいいよ。ささっ、通ってくれ」
「行商人さん、新たな売り物は、朝には届くのか? 昼になるなら、俺は寝ているかもしれないな」
(あぁ、そういう設定だっけ)
「たぶん、明日の朝には届くと思いますよ。黄色店が、発注していると思います」
「そうかい。黄色店ってことは、女の店だったな。朝からまた、綺麗な姉さん達が来てくれるんだな」
城兵達のことを言っているんだよね? 女神様のことは、あまり記憶には残ってないのかな。アプルゴルド星とは、大違いだ。
「黄色店の店員は、女性ばかりですから、目立つんですね」
「あぁ、そういえば、小さな獣人の子供も居たな。俺達は獣人には興味ないから、よく覚えてないが」
(なるほど……)
僕達は、適当な笑みを浮かべ、門を通って町に入った。
いつの間にか、俺達を待っていた男は姿を消していた。




