74、バナバナ星 〜黒い女神
城兵達にとって異世界の食事は、いい気分転換になったようだ。僕がスープを作ったから、各自持参していたパンを食べつつ、見たことのないおせちをつまんでいた感じだ。
タイガさんがイチオシだった煮物は残ってしまったけど、田作りは早くに無くなった。黒豆をパンに挟んで食べる人もいたっけ。
「デザートに、チョコアイスが欲しいのじゃ」
また女神様は、魔道具ホウキの尻尾で、僕をベチベチ叩く。もう、没収しようかな。
「ティア様、ワガママ言わないでください」
「ワガママではないのじゃ。本当にチョコアイスが必要なのじゃ。のぅ? タイガ、そうじゃろ?」
(なぜタイガさんに同意を求める?)
「あぁ? あぁ、まぁ、せやな」
「ええっ? タイガさんもチョコアイスを食べたいんですか? 一体どうしたんですか?」
「アホか、そんなんちゃうわ。あぁ、ライトはこの話を知らんのか。皆が来る前に、星の門からこのテント付近まで、イーシアの森の蟻塚のべっこう飴みたいなんを撒いといたで。そろそろちゃうか」
(はい? 何の話?)
まるで何かをおびき寄せるような……。だけど、イーシアの巨大蟻塚の蜜のカケラを撒いたら、虫が寄ってくるんじゃないのかな。いや、アレは、普通の虫には毒になるんだっけ。
「ライト、はよ、チョコアイスじゃ」
「ティア様、チョコは持ってきていません。バニラアイスなら、ありますけど」
「白いのはダメなのじゃ。黒っぽくて甘くて冷たいものじゃ」
(うん? 何かのなぞなぞ?)
「ライト、インスタントのコーヒーがあるから、これでなんとかできへんか? 急ぎや。もう来とるで」
タイガさんにインスタントコーヒーの瓶を渡され、ミニキッチンへと押しやられた。女神様とタイガさんと同じ色のベレー帽を被った城兵達は、テントの窓から外を見ているようだ。
何だかわからないけど、黒っぽくて甘くて冷たいものか。コーヒーアイスは、短時間ではちょっと難しいな。
僕は、甘いコーヒーゼリーを作り、同じくインスタントコーヒーを混ぜた生クリームを作った。
魔法を駆使して急いで作るためにコーヒーゼリーは平たいパットで固めたので、それをフォークで引っ掻くようにしてクラッシュ状に仕上げた。そして、その上から、適当にコーヒー生クリームをしぼって完成。
「ひゃっ! いました! 巨大な人の顔です。死霊のようなアンデッドのような……これ、やばい形態ですよね」
城兵の一人が、見つけたらしい。薄暗い森の中にいる死霊? 闇に溶け込んでいると探しにくいよね。
「巨大な霧のような姿は攻撃形態だと聞いた。なぜだ? このテントが気に障ったのか」
別の城兵は慌てて、女神様を守ろうと近くに駆け寄った。完全に臨戦態勢だな。
「おまえら、敵視するなよ。逆効果やで。しかし、べっこう飴をばら撒いたのに、なんで攻撃形態やねん?」
「タイガ、騒ぐでない。おそらく、この中がサーチできぬからじゃろ。淑女の姿なら、扉を開けてここに招こうと思っておったのじゃが、攻撃形態だと困るのぅ。ライト、ちょちょいと行って、手懐けてくるのじゃ」
(へ? 無茶振りでしょ)
「ティア様、死霊のような何かは、何者なのですか?」
「む? 何を言っておる? 黒い女神じゃ。妾達は、黒い女神を探しに、ここに来たのを忘れたのか?」
「えっ……黒い女神って、黒い花か、松ぼっくりじゃないんですか?」
「女神バナバナから切り落とされた花らしいが、人の姿か、霧のような姿らしいぞ。アンデッドやもしれぬ」
「アンデッドだからって、僕に手懐けろというのは無謀ですよ。討伐しろとなら、まだわかりますけど」
「絶対に討伐してはならぬ。黒い女神が、この星では一番、黄の星系のことをわかっておるからな。それに、ライトは、女神バナバナの花粉まみれじゃから、手懐けるのは簡単じゃろ」
(はい? 花粉まみれ?)
「あー、シャワー魔法を使ってしまいましたよ?」
「制服は、花粉まみれではないか。制服を着て、ちょちょいと手懐けてくるのじゃ。デザートはできておるな?」
「コーヒーゼリーとクリームにしましたが……ここに招くつもりですか?」
「当たり前じゃ。外は暑いじゃろ。黒い女神は、暑さに弱いらしいぞ。涼しいテントの方が話しやすいのじゃ」
「いや、でも、こんな見知らぬテントなんて、警戒されますよ」
「だから、妾が、尻尾でパタパタしたであろう? テント内には、女神バナバナの花粉が舞っておる」
(僕をペチペチ叩いてたのって、そのため?)
魔道具服を脱いでからも、何度もペチペチ叩いてた気がするけど。あぁ、あの魔道具ホウキに、花粉をたくさん付けていたのかな。そういえば、シャワー魔法を使ったときに、尻尾を隠したよね。
「ライト、はよはよ。テントが揺れておるぞ」
確かに、黒い女神が体当たりをしているのか、微かに揺れている。めちゃくちゃ怒ってるってこと?
(はぁ、仕方ないか)
僕は、ガラスの器に、クラッシュしたコーヒーゼリーとクリームを適当に入れ、スプーンを添えた。
そして、白いダウンジャケットのような魔道具服を着ながら、テントの扉に向かった。
「のわっ? ゼリーを持っていくのか? テントの中に連れてくるのじゃぞ?」
「怒ってるみたいだから、手ぶらでは無理ですから」
「ちゃんと連れてくるのじゃぞ? 扉はすぐに閉めるぞ」
「扉は、開閉しなくていいですよ。すり抜けますから」
「クマのテントじゃぞ? 魔王カイもすり抜けるのは難しいと言っておったぞ? できるのか?」
(女神様も、魔王カイさん最強説……)
「まぁ、やってみて無理だったら、扉から出ていきますよ。だけど、下手に開閉しない方がいいでしょ? 既にこのテント全体が、黒い霧に覆われてますよ」
「せやな。下手に扉を開けると、俺とジャック以外は、一発で狂うやろな。自信のない奴は、クリアポーションを持っとけ」
タイガさんがそう言うと、城兵達は皆、クリアポーションを取り出している。あっ、女神様もだ。女神様は、呪い系には弱いもんね。
僕は、霊体化! そして透明化! を念じた。
僕の姿は一瞬、青い幽霊になったあと、皆の視界から消えただろう。そのまま重力魔法を使って、テントをすり抜けて外に出た。
ベアトスさんの魔道具テントは、女神様が言っていたようにすり抜けにくかったけど、重力魔法で勢いをつければ何とかなった。きっと、魔王カイさんも、同じように感じだろうな。普通にはすり抜けられない。
外に出ると、黒い霧の中だった。
(黒い女神の身体の中だよね)
僕は、あえてそのまま、透明化と霊体化を解除した。すると、驚いたのか、黒い霧はサーッと離れていく。
「黒い女神さんですか? 僕達、今からデザートなんです。よかったら一緒にいかがですか。これを作ったんですよ。お口に合うかな」
僕は、森の木々に向かって、話しかけた。実際には、黒い霧は上空にいる。僕に怯えたようだから、気づかないフリをしているんだ。
コーヒーゼリーを目掛けて、上から薄い霧がふわっと降りてきた。あぁ、これは、女神バナバナ様と同じだな。いったん身体に取り込まないと判別できないのだろう。
たぶん、僕も今、まる飲みされている状態だと思う。さっき黒い霧の中で、透明化と霊体化を解除したから、僕に関する情報は既に入手済みだと思うけど。
少し待っていると、僕が話しかけていた木々の間から、30代前半くらいに見えるおとなしそうな女性が、ひょっこり顔を出した。淑女の姿って、これかな。
『貴方は、何をしているの?』
「こんにちは。えっと、僕達は、この星に行商に来ました。今は、食事休憩をしていたところです」
『なぜ、私に気づいたの?』
「そりゃ気づきますよ。テントが揺れましたからね」
『なぜ、そんなものを手に持ってるの?』
「うん? あぁ、これを作っていたときにテントが揺れたから、食べたいと言われたのかと思って、持ってきました」
すると、女性はゆっくりと近寄ってきた。黒い髪が地面に届きそうなほど長い。白い肌には、黒っぽい透けたドレスを身につけている。かなり色っぽい雰囲気だ。あぁ、女神は魅了すると言ってたっけ。
(うん? 両手に……)
女性は、両手で何かを抱えていた。琥珀色の……あぁ、タイガさんが撒いたという蟻塚の蜜を全部拾ったのかな。
『それは、何? 貴方、ママの匂いがする』
「これは、コーヒーゼリーです。冷たく冷やしてクリームを添えてあります。よかったらどうぞ」
『ママが持って行けって言ったの?』
(警戒されてるかな)
「うん? ママって、誰ですか? テントが揺れたから、呼ばれたのかと思って出てきたんですけど」
『ふぅん……』
「あっ、手が塞がってますね。味見してみます?」
僕は、スプーンですくって、女性の口元へとコーヒーゼリーを近づけた。
パクッと食べた瞬間、彼女はスルスルと縮んでいった。
水木金はお休み。
次回は、1月7日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




