73、バナバナ星 〜ちょっと休憩
僕達は、星の門近くの森へと歩いてきた。
白いダウンジャケットのような魔道具服を着ていても、ねっとりとした高温多湿な風がまとわりついて、とても不快だと感じた。
「おう、遅かったやないけ」
薄暗い森を進んでいくと、少しひらけた場所でタイガさんが待っていた。しかも本当に、野宿用の大きなテントを出している。
「ライトが、もたもたしておったのじゃ。話は中に入ってからじゃな」
女神様は、少し疲れた顔をしている。きっと飲まず食わずで、ポーションの行商人を演じていたのだろうな。
「ほな、みんな入ってや、お疲れさん。一応いろいろ並べといたから、腹が減っとるなら適当につまんでくれてええで。温かいもんはないから、ライトに任せとくわ」
「ふむ、タイガは珍しく気が利くのじゃ。何か下心があるのではないか?」
「腹黒ババァと一緒にすんなや。さっさと入って扉を閉めてくれ。ダウン脱がれへんやんけ」
(うん、タイガさんは腹黒ではないもんね)
城兵20人と僕達が入っても、テントはまだ十分すぎるくらい広い。出入り口の近くに並べたテーブルには、適当に置かれたパックらしきものが並んでいる。
その奥には、ミニキッチンが付いている。クマちゃんマークの魔道具テントだね。僕の店と同じく、魔石をはめ込んであるから火魔法を使わなくても料理ができる仕様だ。
「じゃあ、僕は、温かいスープを作ろうかな」
「ライト、暑いのじゃ。冷たいアイスの方が良いのじゃ」
僕の呟きに、瞬時に反応する女神様……しかも、魔道具ホウキの尻尾で、ベチベチと叩いてくるからタチが悪い。
だけどテント内は涼しいから、きっと冷たい食べ物ばかりでは、落ち着かないよね。
「ティア様、アイスはご飯ではありませんよ?」
「皆、暑そうな顔をしてしおるから、アイスじゃろ。妾は、チョコアイスがいいのぅ」
外は高温多湿だから、白い魔道具服を脱いだ皆は、確かに汗をかいているようだ。
「そうですね。甘い物もある方がいいかな。その前に、皆さん、シャワーしましょうか。魔法を弾く魔道具は外してください」
僕がそう言うと、まだ白いダウンジャケットのような魔道具服を着ていた人達は、慌てて、それを脱いでいる。
「じゃあ、いきますよ〜」
僕は、皆に、水火風の弱い属性魔法を同時発動する。これを僕は、シャワー魔法と呼んでいる。この世界に来た頃に僕が偶然発明した魔法だ。服を着たままでシャワーを浴びたあとのようにスッキリできる。簡単な魔法だから、今では神族なら、ほとんどの人が使えるんだ。
「おぉ、やっぱり、これはライトが一番上手いな」
「当たり前じゃ。創造された魔法は、広まるにつれて創造者の能力が上がっていくのじゃ」
(へぇ、そうなの?)
「ふぅ、ライトさん、スッキリしたっすよ。魔道具服を着ていても、高温多湿な風は、顔にまとわりつくっすからねぇ」
ずっと無口だったジャックさんは、やっと笑顔を見せた。町の中を訪問販売して歩き回った後に、ここまで歩いてきたから、不快指数がマックスだったのかな。
「スッキリしてもらえてよかったです。お腹が空いてる人は、タイガさんが用意された料理を食べておいてください。温かいスープを作りますね」
城兵達にも笑顔を向けてそう話すと、さっき一緒に蔵に行った彼が口を開く。
「でも、ライトさんを働かせて先に食べるのは、ちょっと気がひけますよ」
「ふふっ、気にしなくていいよ。僕は、種族的にも、食べなくても平気だからね。キミ達は、疲れただろう。遠慮せずに、どうぞ」
「そうじゃ。ライトは半分アンデッドじゃからな。永遠に何も食べなくても死なぬのじゃ。妾達とは違うのじゃ」
(いやいや……)
マナをエネルギーとする女神様こそ、食事によってエネルギーを得る必要はないよね? 神族である城兵達も、お腹は空くけど、マナがあれば食事をしなくても生きていられる。
それがわかっているから、城兵達は微妙な顔をしている。いつもの調子で話す女神様だけど、他の星にいる緊張感を考慮できてない。城兵達だけでなく、もしかすると女神様自身が、一番緊張状態なのかもしれないな。
「ごちゃごちゃ言うてんと、さっさと食えや。買ってきたままのパックで悪いけどな、今日は特別なもんやで」
タイガさんが怒鳴ったことで、城兵達はビクッとして、テーブル席に慌てて座った。怒鳴ったというか、タイガさんは、声が大きいだけなんだけど。
僕は、ミニキッチンで、温かいスープを作り始めた。
下ごしらえをしておいた材料を魔法袋から取り出し、鍋に放り込んで火をつけた。これはいつも魔法袋に常備しているものだ。
出発前にトマトを買ったから、トマトベースの野菜スープにした。フレッシュトマトも、適当にカットして放り込んだ。そして、塩コショウで味を整えて完成だ。
「ライト、味噌汁も作ってくれ」
「えっ? あぁ、はい。何の味噌汁に……わわっ」
タイガさんが、豆腐と油揚げを投げてきたよ。
「粉末ダシは、持ってるか?」
「ええっと……ダシ入りの味噌があります」
「あかんあかん、そんなもんは邪道や」
(いや、タイガさんに渡されたものだよ?)
味噌と粉末ダシの箱が、空中を飛ぶ。
「ダシは下品なくらい入れとけ」
「はぁ……」
ダシが下品なの? 意味不明だけど、たぶん思いっきりダシを濃くしろということかな。上品な京料理の反対語だろうか。
僕とタイガさんは、前世は同じ日本人だったけど、味覚は随分と違うんだ。僕は東で、タイガさんは西。僕はもう、前世の記憶も薄れてきたけど、タイガさんは地球と行き来するためか、ずっと前世の感覚のままなんだよね。
僕は、小さな鍋に、豆腐と油揚げの味噌汁も作った。粉末ダシの小袋を2つも使っておいた。さすがに濃すぎるよね。
ふふっ、濃すぎて飲めへんやんけという絶叫を期待して……薄めるためのお湯も沸かしておこう。
「皆さん、トマトのスープです。タイガさんには、豆腐と油揚げの下品な味噌汁です」
城兵の数人が、スープをいれたカップを運んでくれる。僕はタイガさんに、笑いを必死にこらえながら、味噌汁のカップを渡した。
「下品な味噌汁って何じゃ?」
なぜか、女神様が鼻をひくひくさせて興味を示した。
「ふぅん、しっかりダシを入れたみたいやな」
タイガさんは、まず、味噌汁の油揚げを箸を使って口に放り込んだ。そして、そのあとズズッと飲んだ!
僕は、用意していたお湯の入ったカップをテーブルに置いた。タイガさんが暴れたらテーブルがひっくり返るかな。うふふ、バリアを張っておく方がいいかな。
にやける頬を押さえながら、僕があれこれと考えていると……。
「なかなか美味いやんけ。ライト、やればできるやん」
(はい? 美味い? うそ)
「ダシが濃すぎるんじゃないですか? チェイサー用のお湯も……」
「はぁ? 何を言うとんねん。これに湯を入れたら、薄なって飲まれへんやんけ」
(まじか)
「妾も、下品な味噌汁を飲みたいのじゃ」
「おまえは、やめとけ。ダシの旨さを知らんやろ」
「ライト、妾も、下品な味噌汁じゃ!」
女神様は、魔道具ホウキの尻尾で、僕をペチペチ叩く。はぁ、もう。こんな尻尾を渡すんじゃなかったな。
「はい、どうぞ」
「ふむ。むむむ? うーむ……」
(やはり、ダシが濃すぎるんだよね)
「ティア様、このお湯をお好みで入れてください」
「うむ」
用意したお湯をカップの上まで注ぎ、ズズッと飲む女神様。そして、ほぅっと息を吐いた。
「チェイサーがある方が、ちょっと薄味じゃが美味しいのじゃ。なんだか、鼻の中がムズムズしたのじゃ。口直しにチョコアイスじゃな」
(いやいや、無いですよ?)
「ライトも、少しは食えや」
「あぁ、はい、いただきます……えっ? 何ですか、これ?」
テーブルに並んでいるのは、日本食だ。しかも、見たことのない物もある。
「こないだ買い出しに行ったときに、スーパーやデパ地下で買うたんや。年末やったからな、おせちの一部や」
「うわぁ、なんて懐かしいものを! 見たことない物もあります」
(まさかのおせち料理だよ)
「この魚は、カチカチなのじゃ。防御力が高いのじゃ」
(はい? 防御力?)
「コイツら、なんか知らんけど、ごまめと格闘しとんねん」
「あぁ、田作りですよね。気に入ったんですか?」
そういえば、一番、田作りのパックが減っているかも。
「煮物の方が美味いのに、変な奴らやで。ライト、帰ったら店で、ごまめを出したったらオモロイんちゃうか? ビールにも合うからな」
「田作りの材料って、カタクチイワシですよね? 代用品になる魚なんて、イロハカルティア星で獲れるかな」
「海だらけの星に行ったら、おるんちゃう? 知らんけど」




