72、バナバナ星 〜売り切れ続出
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします♪
僕達は、そのまま貧民通りを抜けて、露店通りへ向かって歩いていった。壁のような建物からのサーチ魔法が、ずっと僕達を追ってくる。
サーチ魔法を受けているためか、女神様からの念話はない。だが、当然、皆、サーチには気づいているはずだ。僕が担当する城兵達は、隠密部隊でもある。だから、こういう能力には優れている。でも、素知らぬフリをしているんだよね。何の指示をしなくても優秀だ。
(さらに酷くなってきたな)
僕達が気づかないと安心したのか、サーチの精度を上げてきたようだ。話し声まで聞こうとしているのかな。気づいたと知らせる方が良さそうだ。
僕は、パッと壁のような建物に視線を移した。そして、サーチ魔法の出どころを探すフリをする。『眼』に強いマナを込めた。ここまですると、僕からのサーチを受けていると気付くだろう。
(やはりな)
サーチ魔法は消え、逆に防御結界が発動されたようだ。だが既に、壁のような建物の中は、すべて確認済みだ。
壁のような建物は4階建のようだ。1階はただの壁だな。2階は住居らしく、細かく仕切られている。壁に見せているが窓もあるようだ。このサーチは3階からのものだ。2階のような仕切りはない。多くの人が、あちこちの方向を向いてジッとしている。町を監視しているのだろう。そして4階は、倉庫か宝物庫だろうな。さっきまでの弱い透視は弾かれていた。
総勢で100人くらいかな。神らしき人はいないけど、個々の能力は高い。力のある宇宙海賊団だろうな。
「ライト店長?」
城兵の二人が、僕の行動に疑問を抱いたようだ。
「あぁ、大丈夫だよ。サーチ魔法が酷かったから牽制したんだ」
「そう、ですか……」
女神様から、知らぬフリをしろと命じられていたのか、城兵達は、苦笑いだ。だけど、あまりにも気づかないと、舐められるもんね。
「あんた達も、ポーション屋なのか?」
露店通りに入ると、数人の女性が近寄ってきた。なんだかイライラしているように見える。
「はい、ポーション屋です」
「あっちの二つの露店と同じポーションはあるかい?」
彼女達が指差した先には、黄色いベレー帽と、赤いベレー帽の人達が動く姿が見えた。女神様は賑やかだけど、赤いベレー帽の人達の中には、タイガさんの姿はなさそうだ。
「彼らと同じく、イロハカルティア星のポーション屋です」
「あの露店は、もう品切れだと言うんだよ。あるだけ買うから、出しておくれよ」
(売り切れ?)
リュックくんは、かなりの数を女神様に渡してあるはずだ。あぁ、店じまいをするために、売り切れってことにしたのか。
「販売価格は、10本で金貨1枚です。10本買ってくれたらおまけを付けますから、金貨1枚で11本お渡しします」
「じゃあ、金貨30枚分おくれ」
「私は、金貨10枚分ね」
(えっ? そんなに簡単に?)
「あっ、ポーション屋がいた! 売り物は残っているか?」
「あぁ、この兄さんの店は、金貨1枚で11本だってさ。黄色いお嬢ちゃんの店と同じだね」
「赤いお兄さんの店は、金貨90枚で100本だったよ。どっちがお得なのか、わからないが」
「緑色の兄さん達は、訪問販売だと言って小屋を回ってたよ。道で買えなくて、荒っぽい奴らが剣を抜いたら、一瞬でねじ伏せられていたよ」
「あぁ、乱暴者だから逆らわない方がいいって、黄色いお嬢ちゃんが、コッソリ教えてくれたぜ」
「普通の行商人は、護衛をつけている。護衛なしの行商人は、腕に自信があるのだと気付くべきだろ。頭の悪い連中は、何も考えないからな」
(えーっと、どうしよう)
「赤いお兄さんの店が安いみたいだけど、ポーションに金貨90枚を使うのは、ちょっとね。強欲に買う奴らは、きっと今夜、襲われるさ」
「俺は、金貨50枚分ほしいのだが」
「あたちに、金貨2枚分をくださいな」
(チビっ子まで寄ってきた)
あわあわとしている間に、すごい勢いで売れていく。売り上げ金は、城兵達が嫌がるので僕が持つことにした。この売り上げ金を入れた袋にも、視線が集まっている。
だけど、誰も僕から売り上げ金を奪おうとはしない。緑色の兄さん達が荒っぽい人達をねじ伏せたって言ってたっけ。ジャックさんが、牽制のために暴れてくれたのかな。
「すみません、もう売り切れです」
城兵達に預けていたポーションは、すべて売り切れたようだ。すごい勢いで売れてしまった。
「もう、他の色の人は、この町には居ないよな?」
「火山湖の方に、二つの店が行ってるらしいぞ」
「でも、町を出るには1本使うことになってしまう。それで、他の色の店も売り切れていたら……」
「だよな。それに下手に火山に近寄ると、白い女神に祟られるぜ」
(たたられる?)
「白い女神に祟られたら、黒い女神に貢ぎ物をして祓ってもらうことになる。そんな危険なことはできないぜ」
彼らの会話から、白い女神や黒い女神が出てきたけど……怖れているようだと感じた。
「そんなところで、何を呆けておるのじゃ? 青色店! 野営の準備は、おぬしらの役割じゃろ」
人混みをかき分けて、黄色いベレー帽の6人が近寄ってきた。女神様は、ベレー帽で猫耳カチューシャが隠れているが……獣人アピールをしたいのか、尻尾を振り回している。
(あの魔道具、すごいな)
ベアトスさんが作ったホウキのような魔道具だけど、女神様が身につけると、本物の猫の尻尾のように動かせるんだな。
当初は女神様はいらないと言っていたらしいけど、今は、めちゃくちゃ気に入っているみたいだ。
「ティア店長、野営の準備って……」
「ちゃちゃっと売って帰る予定じゃったが、売り切れ続出なのじゃ。だから明日、売り物を補充して、再び売りに来る約束をしたのじゃ」
(聞いてないよ)
「行商人さん、一晩で補充できるのかい? イロハカルティア星から持ってくるなら、もっと時間がかかるんじゃないのか」
「一晩もあれば大丈夫じゃ。妾達は、伝説のポーション屋なのじゃぞ? 配達に優れた者もおるのじゃ」
(また、嘘ばっかり)
「そうかい、じゃあ、明日までに金貨をかき集めておかないとな」
「隠し倉庫から出してくるか。のんびりしてる時間はないな」
集まっていた人達は、パッと散っていった。
(あー、サーチも追ってるよ)
壁のような建物からのサーチ魔法が、分散していくのを感じた。僕が建物に視線を向けると、サーチ魔法は消える。僕が感知できると学習したようだな。
この町の住人は、互いに誰かの財産を奪おうとしているようだ。壁のような建物の役割が、町の監視なのは間違いない。この星にとって有益なのだろうか。
神らしき人はいない100人ほどの宇宙海賊団だと思っていたけど、デンデンと呼ばれる松ぼっくりも紛れているのかもしれない。
女神バナバナ様の言葉から考えると、巨大な松ぼっくりは地上を管理する役割があるんだよな? 宇宙海賊達は、白い女神に祟られると言っていたけど、この星に害のある者を排除する役割が、白い女神や黒い女神なのかな。
「ほれ、ライト店長、早く町を出るぞ」
女神様は、猫の尻尾で僕をペシペシと叩く。猫耳は動かなかったから謎の威嚇だけだったけど、この尻尾の魔道具は、ちょっと厄介だな。
「ティア店長、野営なんて、どこでするつもりですか?」
「当然、暗い森じゃ。宇宙海賊だらけの町に宿泊するバカはおらぬじゃろ。お客さんから、暗い森なら宇宙海賊は居ないと聞いたぞ」
(芝居くさい話し方だな)
きっと、黒い女神を探しにいくつもりだ。
「行商人さん、星の門の近くは、やめておきなよ?」
「なぜじゃ? 門の近くは、寝るにはやかましいのか? 配達人が来たときに、星の門の近くにいる方が便利じゃ」
「黒い女神が、星の門を守っているんだよ。貢ぎ物なしで近寄ると、殺されるぞ」
「大丈夫じゃ。妾達は、その辺の宇宙海賊よりも強いのじゃ」
「黒い女神は、この星の女神バナバナの分身らしいぜ。とんでもない力を持っている。もし遭遇したら、貢ぎ物を捧げるしか、逃げる方法はない。行商人さん達が、黒い女神に殺されたら困るんだ」
「ふむ、貢ぎ物とは何じゃ?」
「黒い女神が気に入った人間だよ」
(生け贄ってこと?)
「ふむ、わかったのじゃ。では皆、また明日にな」
ジャックさん達が合流したのを確認すると、女神様は、尻尾を振り回しながら、町の門へと歩き始めた。




