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68、バナバナ星 〜地下の蔵の奥には

「金貨は、いくらでもある。火無効の薬を手に入れる機会なんて、今後一生無いでしょうからな。出し惜しみはしませんよ」


 貧民通りの住人とは思えない金貨の山に、僕は驚いた。だが、状態異常を受けている城兵達は、金貨の山をぼんやりと眺めている。まるで、お金だとは認識できていないようだ。


(女神バナバナ様の畏怖の霧か……)


 女神バナバナ様が植物系の神だということくらいしか、僕は知らない。この星の異常な高温多湿な大気は、熱帯雨林をイメージさせる。火山と火山湖が、この星の高温多湿の原因らしいけど。



「お客様、今後一生無いということはありませんよ? このバナバナ星でウチのポーションが売れるなら、定期的に行商に参ります」


「ふぅん、金貨を前にしてもその態度か。しかも、女神バナバナ様の畏怖の霧が効いていない。おまえは、何者だ?」


(あー、警戒させたか)


「僕達は、ポーション屋ですよ。あぁ、金貨の山に飛びつくと予想されてたんですね。こういう言い方をすると失礼かもしれないですが、この程度の量は、見慣れているのですよ。こないだ行った星では、もっと多くの売り上げ金を得ましたので」


 すると金貨の山は大きくなった。目に見えない何かが運んできたらしい。金貨の山の上に、ザザッとさらに金貨を積み上げる音が響く。


「これでもか?」


 お頭(かしら)と呼ばれる男は、負けず嫌いらしい。


「金貨の量よりも、目に見えない何かが運んでくることの方が、興味深いですねぇ。蔵の番人ですか?」


「これでも驚かないのか!?」


「何枚くらいあります?」


「知らん。だが、我々が持つほとんどの金だ」


(ほぼ全財産……)


 この星の貨幣価値はわからないけど、イロハカルティア星とは違うだろうな。火無効付きポーションを銀貨10枚で安いと言っていたし、彼らの身なりから考えても、この金貨の山は、イロハカルティア星ほどの価値はないのかもしれない。


「そうですか。パッと見た感じでは、数千枚はありますね。ですが、僕達が持つポーションの在庫は、もっとたくさんありますよ」


 僕がそう言うと、お頭と呼ばれる男の表情が変わった。たぶん最初に用意した分が、ポーションを買える限界なのだろう。


 さっき、ポーションを飲んだ一人が、空腹は改善されないというようなことを言っていた。食べ物にも困っているのかもしれない。



「金貨1,000枚分の火無効付きポーションで、いかがですか? 金貨1枚で10本におまけ1本というお約束でしたから、金貨1,000枚なら、11,000本を買っていただけます」


「そんなにたくさん、どこに持っている?」


「ポーションは、魔法袋という魔道具に入れてありますが、それ以外に異空間ストックもあります。魔法袋は、異空間に物を保管する魔道具なので」


「へ、へぇ、そうか……」


(多すぎたかな)


 彼は、金貨1,000枚分を買うとは言わない。買いたいのだとは感じる。だけど見せた金貨は、この貧民通りの人達の生活費だろうな。


 無理のない範囲で買ってもらいたいけど……ここは、宇宙海賊だらけの星だから、大量に売ると逆に彼らが狙われるのかな。まぁ、そのための蔵なんだろうけど。




『デンデン、その方たちをこちらに』


 女性の声が聞こえた。すると、お頭と呼ばれる男は、ピクリと肩を震わせた。


「は、はわはわ、は、はい」


 お頭と呼ばれる男は、ぴゅーっと走り去ってしまった。


(慌ててるね)


 しばらくすると、再び彼は走って戻ってきた。何かを確認しに行っていたのだろうか。


「すまない、行商人さん達を連れていくのを忘れていた。こ、こっちだ」


(はい?)


 額に汗をにじませる男……酸っぱい体臭が復活している。彼の汗が、こんな臭いを放つのか。いや、服が汗で臭っているのかもしれないな。


「わかりました。あの、この金貨は放っておいていいのですか?」


「あぁ、構わない。蔵の中だからな」


 そっか、さっきの見えない人が片付けるのだろう。全く気配を感じさせない不思議な種族だよな。



 僕は、ボーっとしている城兵達の腕をつかみ、お頭(かしら)と呼ばれる男について行く。


 進むにつれて、城兵達の表情が暗くなっていった。そして蔵の奥、行き止まりに見える土壁が見えてくると、城兵達の歩みがとても鈍くなってきた。


(土壁の先に、何かが居るみたいだな)


 土壁は、不規則に点滅する淡い光を放っている。一瞬『眼』のチカラを使おうかとも思ったが、やめた。透視や遠視は、攻撃の準備だと警戒させてしまうかもしれない。


 お頭と呼ばれる男は、土壁がないかのように、そのまま進んでいく。


(土壁は、幻影なのかな)


 彼は、土壁の前で消えたように見えた。土壁の先に進んだのだろう。僕も、二人の城兵の腕を引いて、そのまま真っ直ぐに進んだ。




 ◇◇◇



『ようこそ、いらっしゃいました。イロハカルティア星の行商人さん』


 土壁の先は暗く、何もない巨大な空洞のように見えた。ただ、さっきの蔵とは匂いが変わった。蔵の中は土っぽさしか感じなかったが、今、この場所は、嗅いだことのない強烈な匂いがする。不快ではないけど、何の匂いだろう?


 僕が腕をつかんでいた二人の城兵は、崩れるように座り込んでしまった。この匂いにやられたみたいだ。


(あれ? あの男の姿も見えないな)



「声の主の姿は見えませんが……お邪魔しております。イロハカルティア星から参りました、ポーション屋です」


 僕がそう返事をすると、パッと明るくなった。


(うわっ、何!?)


 目の前には、毒々しい赤紫色の巨大な花があった。えっと花、だよな? 手を伸ばせば触れることのできる距離だ。


 肉厚な花びらには、蜘蛛の巣状に血管が張り巡らされているように見える。花の中央には、黄色や白のヌメッとした質感の棒状の物が見える。オシベとかメシベなのだろうか。


(なんか、花にまる飲みされそうだな)


 僕がそう考えると、巨大な花はスーッと離れていった。完全に思考を覗かれているみたいだ。


 離れると、その大きさが際立つ。この巨大な空洞は、この花でいっぱいいっぱいだ。花の大きさに比べて茎は短いのかな。深緑色の肉厚な葉のような物が天井を這うように広がっている。なんだか、バランスの悪さを感じた。地中に咲く花だから、これでいいのかな。



『うふふ、貴方は何もしてこないのですね。この場所に招いて意識を保つ人も珍しいけど、何もしてこない人は初めてだわ』


「えっと、確かに店員達は、立っていらないみたいですね。僕は、種族的に状態異常には強いので……」


 お頭と呼ばれる男を捜そうと、明るくなった空洞内に視線を走らせる。だけど、やっぱ居ないな。この花の葉らしきものが、空洞内にみっちりと広がっているというか、うねうねと動いているから、見つけられないのかもしれない。


『あら、デンデンは、貴方達の足元にいるわよ』


 そう言われて足元を見ると……。


(何これ? 岩? 虫?)


 大きな松ぼっくりのようにも見える黒っぽい何かがある。空洞内の岩かと思っていたけど、ゴソゴソと動いているよね。


「お頭(かしら)さんですか?」


「あぁ、そうだ。女神バナバナ様に近寄ると、本来の姿に戻ってしまうのだ」


「えっ? 女神バナバナ様って……」


(この巨大な花?)


『うふふ、この花は、私のひとつね。これでも小さな花なのだけど?』


「僕達から見れば、とても大きいですよ」


『うふふ、植物と動物の違いね。それで貴方達は、ここに何をしに来たの?』


「僕達は、ポーションの行商人をしています。ですから、ポーションの販売に訪れました。あの、なぜ、僕達は、この女神バナバナ様の元に招かれたのでしょう?」


『私は、ポーションの行商を装って、この星に何をしに来たのかを尋ねているのよ?』


(げっ……えーっと)


「ちょっと、それは僕の口からはお答えできません。女神バナバナ様は、僕の考えを覗かれているのではないのですか。この場所に招かれたのは、そのためかな」



「おい! おまえ!」


 足元の彼が激突してきた。結構、痛いな。


『デンデン、乱暴なことはやめなさい。私の中に居るとわかっても、彼は動じないわ。それに深層部分の肝心なことには闇がかかっている。私のチカラを超える者だということよ。女神イロハカルティア様の神族ね』


「ええっ!? 神族?」


『うふふ、個体名がライトだったわね。女神イロハカルティア様の側近に同じ名前の人がいたわねぇ。神殺しの死霊だったかしら? 植物系の神々は恐れていたわ。私達は、闇属性には弱いもの』


(ちょ、何その二つ名)


 死霊と聞いたからか、お頭(かしら)は僕からゴロゴロと離れていった。



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