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69、バナバナ星 〜女神バナバナ

「僕はポーション屋として、今この場所に来ています。それに、特殊な事情がない限り、黄の星系に属する星に、害を与える気はありませんよ」


 僕がそう反論すると、巨大な花はスーッと近寄ってきた。近寄ることで、より深い思考を覗こうとしていると感じた。


 強烈な匂いが、さらに強くなる。こんな匂いの花があるんだな。不快な匂いではないけど、似た匂いを考えても思い当たらない。自然には存在しないような、人工的だとも感じる匂い……香水に近いのだろうか。



『うふふ、私を警戒しているのね。だから何も話してくれないし、何も見せてくれない。だけど、神族だということを否定しない所には、誠実さを感じるわ、ライトさん』


(女神バナバナ様も、なんだか似てるな)


 女神イロハカルティア様ほどの腹黒さはないかもしれないけど、狡猾さを感じる。じゃなきゃ、星を統治することなんてできないのだろう。



「女神バナバナ様を恐れているのですよ! この行商人は」


 僕から離れた場所で、巨大な松ぼっくりが叫んだ。お頭(かしら)と呼ばれる彼は、僕を怖がっているように見える。


『デンデン、それはないわね。ライトさんは、こんな状況でも冷静だもの。そもそも私が放つ畏怖の霧を、不快だとも感じていない。あぁ、神戦争を終わらせたのが貴方だったわね。あの青の覇者を追い返すなんてね〜』


(青の神ダーラのことか……)


 僕は、あえて肯定も否定もせず、やわらかな笑顔を浮かべておく。松ぼっくりが、さらに僕から離れていった。




「女神バナバナ様、なぜ僕達をこの場所に招いたのですか? この星に来た者は、すべて招かれるのでしょうか」


 女神バナバナ様の放つ霧の中では、どんな力を持つ者も思考を覗かれるのだろう。この星にとって危険がないかを探っているのだろうか。


『あら、うふふ。そんな質問も初めてだわ。さすがは、神殺しの死霊ね。私が貴方達に尋ねているのだけど……まぁ、いいわ。この星に嫌悪感を抱かせてしまったみたいね』


(嫌悪感?)


 僕は何も考えてないのに……あぁ、城兵達かな。嫌悪感というよりは、混乱状態だと思うけど。



「女神バナバナ様のスタンスがわからないので、僕としては、何をお話しすべきかが判断できません」


『そう、貴方達は、火山湖の監獄の関係者なのね』


(何も言ってないけど?)


 あぁ、城兵達かな。完全に攻略されているみたいだ。だけど、白いダウンジャケットのような魔道具服や、色分けのベレー帽は、きっと守るべき最低限は死守していると思う。



「火山湖の監獄とは、どういうものなのですか?」


『あらら、うふふ。ライトさんって全く隙を見せないのね〜。私が、そちらの二人に干渉していることがわかっても、全く動揺しない。闇属性って、やっぱり恐いわね。きっと私が操っても、すぐに取り返す自信があるのね』


(面倒くさい女神様だな)


 僕の質問に答える気はないらしい。城兵達から情報を抜き出すための時間稼ぎだろうか。




「お頭(かしら)さん、僕達は暇じゃないんです。どの店が一番売り上げるかという競争中でしてね……」


「な、なにを……女神バナバナ様の前で、何ということを……」


 松ぼっくりは、ゴロゴロと勢いよく近寄ってきたが、僕がそれに気づくとピタリと動きを止めた。


(やっぱり、怖がってるよね)


「お頭さんが、蔵に僕達を誘導したのは、ポーションを運ぶのが面倒だからじゃなかったんですか」


「地上で、金貨をあまり見せるわけにはいかないからだ。宇宙海賊が襲撃してくるからな」


 僕が、松ぼっくりと話している間、巨大な花は茎を伸ばし、天井付近に近寄っていた。地上の様子を見ているのだろうか。ここは随分と地下深い場所だけど。



「お頭さんは、宇宙海賊じゃないんですね。この町の原住民かな?」


「なっ、なぜ、そんなことを考える?」


(はい?)


「だって、今、宇宙海賊が襲撃してくると言ったじゃないですか。それにお頭さんが、女神バナバナ様の近くだと大きな木の実に変わるのは、植物だということでしょう?」


「ふわぁ? 動く我々は、動物だ! 何を言っている?」


 松ぼっくりの表情はわからない。だけど、酸っぱい臭いがしてきた。きっと汗をかいているんだよな。


「僕は、いろいろな種族を見てきたつもりですが、喋る木の実は初めてです。なんだか、かわいいですね。僕の住む街の子供達が喜びそうです」


「ふぇっ? おまえの言う木の実は、我々の知るモノとは全く別の物ではないのか? かわいいとは、どういう意味だ? 味のことか? 我々を喰うつもりか」


(えっ? かわいいを知らないのか)


「いえ、えっと上手く説明できませんが、印象の種類ですよ。見た目や行動などに使います。小さな可憐な花とかは、かわいいと表現します」


「小さな花? 未熟な花のことか?」


(伝わらない……なぜ、こんな話をしているんだ?)




『デンデン、なぜ、火山湖の島に、罪人には見えない小さな子がいるの? 宇宙からの移民の監視はどうしたのかしら?』


 女神バナバナ様の声に驚いたのか、松ぼっくりは飛び跳ね、すごいスピードで転がっていく。



 やはり彼女は、城兵達の思考を覗き、地上の状況を確認したようだな。女神バナバナ様は、ずっと地下にいるのだろうか。


 巨大な松ぼっくりのような彼は、やはり原住民だろうな。人の姿に化けることで、地上を自由に動けるようだ。


 だが、火無効付きのポーションを買い占めようとするということは、この星の高温多湿の暑さには弱いのかな。まぁ、松ぼっくりは、火には弱そうだけど。




『ライトさん、貴方達は、火山湖の檻に囚われた子供達を捜しに来たのね。あんなに小さいのに、狂うことも泣き叫ぶこともない。さすがイロハカルティア星の子供ね』


(アマゾネスの女の子だからだよね)


「弱い種族もいます。誘拐された女の子達は……犯人は、特に魔力が高く強い子を選んだみたいですね」


 僕が正直に答えたからか、毒々しい巨大な花が、グワッと近寄ってきた。至近距離に近寄られると、やはりまる飲みされそうで、嫌な感じがする。


『あら、うふふ。まともに返事をしてくれるなんて驚いたわ。何かの策略かと疑ってしまったわ』


「真偽を調べるために近寄るのですか?」


『ええ、うふふ。貴方の頭部を取り込むと、わかるのよ。攻撃されないと信用しているから、貴方を取り込むことができるの』


(は? 頭を取り込む?)


 あぁ、見えない何かで、パクリとくわえられたのかな。まる飲みされそうだと感じたのは、実は、まる飲みされていたってこと?


 巨大な花は、また、天井近くまで移動している。植物なのに自由に動けるんだな。




『デンデン、罪人ではない者を火山湖の島に捕らえることは、私は認めていないわよ。あのまま死んでしまったら、湖が枯れてしまうわ。罪人を焼くための断罪の炎は、罪なき子供を焼けないわ』


(子供の心配はしてないんだな)



 女神バナバナ様の価値観が、少しわかった気がする。自分の星にとって、害にならないモノには関心はないんだ。


 だから、宇宙海賊だらけでも気にしない。物事の善悪を考えないのかな。いや、そっか。立場が変われば、何が善で、何が悪なのかは、コロリと変わる。


 バナバナ星が、中立の黄の星系のお手本のような存在だというのは、こういうことか。


(完璧に無関心だから、中立なんだ)


 そもそも植物系の神には、情が無いのかもしれないな。植物と動物では、価値観が全く違うってことだ。




『ライトさん、デンデン達を助けてやってくださらないかしら?』


「えっと、僕達は、他の星のポーション屋ですよ?」


 僕は無関係だと、やんわりと断った。


『デンデン達は、火に弱いのよ。だから、ポーションを買おうとしているの』


(やんわりでは気づかないのか)


「では、ポーションをお売りしますね。そろそろ失礼します。仲間達が、僕達を捜しているかもしれませんから」


『私ね、地上にやってくる人達の管理のために、動物を排出したの。だけど、デンデン達は、宇宙海賊を上手く管理できないみたいなの』


(僕の話を聞いてないよね)


「僕は、この星の住人ではありませんよ? なぜ女神バナバナ様に、そんなことを命じられるのか、理解できません」


 ピシャリと、少しキツイ言い方をした。ちょっと失礼だっただろうか。


『理解しなくていいの。種族が違うのだから、理解できなくて当然よ。デンデン達は、火に弱いわ。貴方達は、あの子供達を捜しに来たのでしょう? ちょうど良いじゃない。罪なき子供達を火山湖から離して、ついでに、契約を破った宇宙海賊をこの星から追い出してちょうだい』


(はい? 何を言ってんの?)



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